第45恐怖「ぼぉ、ぼぉ……」

 体験者:Z剣士さん


 小学生の頃、ぼくらは自由に遊べる新しい場所を探し求めて、いつも町中を冒険していた。もはや、遊び場を見つけること自体が楽しみだった。

 しかし、そんなあるとき、不気味な出来事に遭遇したのだった。


 ぼくの暮らす町には、ちょっとした小山がいくつかあり、冒険には事欠かない。その日も、ぼくらはまだ踏み入っていない土地を探検していた。メンバーは六、七人いたと思う。正直いうと、全員を覚えているわけではない。なにぶん古い記憶だから。


 その日の午後、小山のハイキングルート付近を散策しているうち、ぼくらは開けた広い空間に出た。

 それは、公園……といっていいのだろう。ベンチがいくつかと、鉄棒があった。土地はやたらと広いのだけど、それに対して遊具があまりに少なかったのを覚えている。


 それで、ぼくらのうちのメンバーの一人がサッカーボールを持っていたので、そこでキックベースという遊びをすることになった。

 二時間ほど遊んで、いつの間にか夕方になっていた。ぼくらは解散しようとしたが、しかしそこで、友達の一人のタクヤ(仮)が、いつの間にか姿を消していることに気づいた。


「あいつどこいったー?」

「もう帰んなきゃいけないのに……」

「どうせ立ちションでもしてるんだろ」


 時間も時間だったので、ぼくらは焦り、手分けしてタクヤを探し始めた。

 しかし、なかなか見つからない。


「あいつ、先に帰ってんじゃねーのか?」

 誰かがそんなことを言ったが、もし迷子になっていたら大変だ。小山といえども、いろいろな危険がある。


 どれくらい探し回ったか……かなり長い時間が経ったように感じたが、もしかしたらそれほどでもないのかもしれない。ただ、日が落ちはじめ、夕焼け空も暗くなっていたことは確かだ。


「おい! こっち、だれか探したか?」


 公園の奥、背の高い草が生い茂る地帯の手前で、友達のマサ君が叫んだ。

 ぼくは全く気づかなかったのだが、どうやらそこには、小さな踏み分け道のようなものがのびているようだった。

 ぼくらはみんなでそこを進むことにした。


「なあ、なんか向こうから喋り声聞こえるよな?」


 マサ君はそう言って踏み分け道の先を指さした。

 たしかに、誰かがコソコソと話している声が聞こえてくる。ところが、ほかの人には聞こえていないようだった。ぼくとマサ君は耳がいいんだろうなあと、そんなふうに思った。


「おい、なんだこれ!」


 先頭を歩いていたマサ君が、さきに踏み分け道を抜けると、突然叫び声をあげた。

 マサ君につづいて踏み分け道を抜け出すと、目の前は開けた土地で、少し下った地帯には荒れた畑が広がっていた。

 そして、朽ち果てた不気味なカカシが、そこらじゅう大量に立っていたのだった。


「きもちわるいなあ、ここ!」


 なんだか嫌な予感がした。同時に、きっとここでタクヤは戻る道を見失ったのだと、そんな気がした。


「おーい! タクヤー!」


 ぼくらは一生懸命に叫んだ。しかし、タクヤの返事は帰ってこない。

 かわりに、誰かのささやき声が聞こえてくる。


「ぼぉ……ぼぉ……ぼぉ……」


 なんと言っているのかは聞き取れなかった。ぼくはゾッとしてあたりを見渡したが、ぼくらのほかに誰もいない。マサ君も顔が青ざめていた。ほかの友達はまったく気づいていない様子で、荒れ畑へと下っていく。

 ぼくとマサ君は顔を見合わせ、しかし決心してみんなについていった。


 荒れ畑に下りてみると、カカシはより不気味に感じられた。顔が日本人形のように妙にリアルだったし、腕が変なふうに曲がっていたり、服がビリビリに破れていたり……

 しかも、やけに大きいのだ。ぼくらの身長よりもはるかに背が高く、服のなかにはワラか何かが詰まっているのか、パンパンに膨れている。そんなものが大量に立っているせいで、カカシの森に迷い込んだような気分になった。


「おいお前ら、一人になるなよー!」


 マサ君がみんなに声をかける。みんなは誰かとペアになってタクヤを探した。ぼくはマサ君とペアになって荒れ畑を歩きまわった。

 不意に、誰かの叫び声があがった。


「おーーい! いたぞーー!」


 ぼくとマサ君は「よかった!」と安堵して、声のしたほうへ駆け出した。

 そのとき、「あっ!」と声をあげ、マサ君が派手に転んだ。


「大丈夫?」


 ぼくはマサ君に駆け寄り、手を差し出した。その瞬間、背後から、ハッキリと誰かの声が聞こえた。


「あそぼぉ!」


 勢いよく振り返ると、すぐそこにカカシが立っていて、それがゆらりと動いたかと思うと、ぼくらのほうへ倒れてきた。


「ぎゃーっ!」


 ぼくの背中にカカシが倒れ込み、ぼくはパニック状態。すると、マサ君がぼくの腕を掴んで起こしてくれた。

 それから、ぼくらは必死になって逃げ出した。


 どうやら、タクヤは荒れ畑の端で寝ていたようだった。

 ぼくとマサ君がそこへ辿り着いたとき、ちょうどタクヤが目を覚まし、寝ぼけたことを言った。


「なんだ……見つかっちまったか……」


「お前、ふざけんなよ! めちゃくちゃ心配したんだぞ!」


 マサ君が怒ると、タクヤはぼかんとして、


「なんだよ……だってお前らが、かくれんぼしようっていうから……」


 そんなことを言った。


 ほかの友達は、


「寝ぼけてんなよ、早く帰るぞ!」


 と言って、タクヤを引っ張った。

 ぼくは血の気が引いていた。たぶん、タクヤを誘ったのって……


「なあ、お前、どう思う?」


 マサ君が怖い顔で僕に聞いた。

 ぼくは答えなかった。何も、答えたくなかったのだ。



 以降、ぼくはその公園や荒れ畑には行っていない。マサ君もだ。ほかの友達がどうだったか……それはわからない。

 ぼくはあそこで体験したことをもう思い出したくなかったのだが、何年か経って、マサ君が話題にあげた。


「あそこの畑、公園になったみたいだぞ。手前の公園とあわさって、ちょっとしたアスレチックパークみたいになってるらしい」


 ぼくはそれでも、まったく行く気にはならなかった。


 どうか、みなさんも注意してほしい。

 もしも、小山にある大きな公園で、


「ぼぉ……ぼぉ……」


 というささやき声が聞こえてきたら、それ、


「あそぼぉ」


 って、言ってるから。


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