第32恐怖「超・事故物件」


 霊感のないタカシさんは、かつて、事故物件だろうがなんだろうが、とにかく安い物件を選び、住んでいたという。

 だがそれも、とある体験をきっかけに慎重になったらしい。


 あるときタカシさんは、とんでもなく安いアパートを発見した。そのとき住んでいたところよりも一万円以上家賃が安く、敷金礼金がかからず初期費用も少額だっため、さっそく引っ越すことにした。


 内見に行ってみると、住人はタカシさん以外にたったの二人だった。それも一階だけで二階には誰も住んでいない。

 いかにも何か出そうなボロアパートだったが、タカシさんにとってそこは問題ではなかった。意気揚々と契約を交わし、そこに住み始めた。


 細かい問題は色々あったが、慣れれば大したことなかった。鬱陶しいのは、水漏れがするとか、カビが繁殖しやすいとか、そのようなことだが、あたりは閑静な住宅街だし、両隣の部屋は空いていて、なかなか快適といえた。


 ところがあるときから、夜中に物音がするようになった。というか、なぜか深夜帯に、アパートを訪れる人々がいるのだ。たいていは複数人のグループで、建物の外からひそひそと話し声が聞こえたかと思えば、二階に上がって、外廊下を歩む足音がする。

 車で来る人々もいた。一度、建物のすぐそばでアイドリングをしたままだったので、タカシさんはベランダからその人たちに声をかけた。

 彼らはタカシさんの登場にアッと驚き、やたら腰が低く、すんなりと言うことを聞いて謝罪してくれた。

 一体、この人々は何が目的だろうか。

 しばらくして、友人から妙なメッセージが届いた。


   ──お前の家、やばいことになってる。


 何がだよと返信すると、友人はWebサイトのURLを添付して、こう送ってきた。


   ──そのアパート、心霊スポットとして紹介されてる。


 嘘だろと思ってページに飛んでみると、確かに、心霊スポットを取り扱うブログで、このアパートの写真と紹介文が記載されていた。

 住所は載っていないが、おそらく特定されてしまったのだろう。

 暇な人々がいるものだ……そんな思いと同時に、それにしたってさすがに人が住んでいるアパートを心霊スポットとして扱うのはあんまりじゃないかと思った。

 クレームでも入れるべきか……


 問い合わせのリンクを探して、そのページを下へ下へとスクロールしていくうち、紹介文に、とんでもないことが書いてあることに気づいた。


 嘘か本当か、このアパートの二階では、とてつもなく凄惨な事件が起きているというのだ。事件のおおまかな内容と共に、恐怖を煽る文がつらつら書かれていた。


 タカシさんは、幽霊などはまったく怖くなかったが、事件が気持ち悪すぎて、すぐに退去したという。


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