第4話 本編3
あー、おなかいっぱい! おにぎりも、お母さんの甘い卵焼きも、たこさんウィンナーも。
お母さんのバッグは魔法のバッグ。いろんな素敵な物がいっぱい詰まってるから、魔法みたい。大きなマザーズバッグにいっぱい、どんどん出てくるよ。
食後のデザートに、私は林檎のウサギさんをシャクシャク食べた。お母さんはちっちゃい水筒にアイスコーヒー淹れて来てて、美味しそうに味わってる。お姉ちゃんはスマホ見ながらガムかみかみ。ミントのガムは、私にはまだちょっと早いかも。甘いグミや飴の方が良いな。
「ねぇねぇ、次はどこいく?」
「疲れた。公園なんだから、あんた一人でも行ってきなよ」
「えぇえ~、お母さんは?」
「そうねぇ、ちょっと休憩したいな。絶対に公園から出ないで、何かあったらベルトの防犯ブザー鳴らしてね。あ、おトイレ行きたくなったら戻ってらっしゃい。一人で個室に入っちゃダメよ」
「二人ともつまんなぁーい。もう、行っちゃうもんね」
テントの中で転がる二人を置いて、私は一人で遊びに出た。
どうしようかな。
自転車も動物園も行ったし、着替えとか持ってきて無いから水遊びは無理。遊具はすんごい混んでるし。真っ黒の機関車みたいなのも中に入ってみたいけど、幼稚園くらいのちっちゃい子でいっぱいだったしなぁ。夏休みの土曜だもんね、しょーがない。
公園の真ん中の芝生広場で、お母さん達のテントから一歩出て考える。
あ、ポニーの近くにあるお山に登ってみようかな。あそこならまだ人少ないし、上から公園が見渡せそう。うん、いってみよ。
一旦テントに戻って、肩かけ水筒して飴をポケットに突っ込む。お山に行ってくるって出た。
公園の端にあるお山は、埋まってる跳び箱タイヤがあって、遊びながら登れた。
「っはぁー、頂上だ! ふふふ、この公園は私の公園だ!」
なんでだか分かんないけど、一番高い所に来たらまるで王様にでもなった気分だ。いや、人が少ないっていっても、ちょっとはいるし、恥ずかしいかも。やめとこ。
お山のてっぺんは人がいたから、ちょっと離れてその辺の大きな石の上に座った。水筒を持つと、もう残りちょっとだけ。いいや、お母さんのバッグに水筒まだあったし。
全部飲み切って、ふはぁって息を吐いた。
夏休み始まって一週間位、久し振りのお外はすっごく気持ちいい。
お母さんが子どもの頃は、こんな暑すぎて出られない日は無かったって。この頃は気温40度超えるのが毎日当たり前で、辛いわねって言ってた。
そう言われても、私はこれが普通だし。昔は気温30度超える日はあんまり無かったってって聞かされても、嘘だぁって感じ。あー、また明日から暑いのかなぁ。
ぼーっと公園を見下ろしてたら、急に後ろから声をかけられた。
「ねぇ、ひとり?」
びっくりして、ぐるんって勢いよく振り向いたら、あの白いワンピースの女の子がいた。
「え、うん」
「そう、一緒に遊んでくれる?」
足元の真っ白猫も、ニャーって鳴いた。あそぼって言ったのかな。
「いいよ、何して遊ぶ?」
そう立ち上がって返事したら、女の子は嬉しそうにニコッてした。白猫ちゃんもニャーって、嬉しそう。
それから公園の中を歩きながら、雑草の中に咲いてるお花の名前を教えてもらった。地面に木の棒で〇をいくつもかいて、ケンケンパっていうのも教えてくれた。幼稚園でも小学校でも、誰もやってるの見た事ない。
ケンパケンパしながら、歌も教えてくれた。とおりゃんせ、だって。すっごく綺麗な歌声で歌いながら、真っ白なスカートヒラヒラさせて跳んでいく。
♪とおーりゃんせー とおりゃんせー
♪こーこーはどーこのほそみちじゃー てんじんーさまのほそみちじゃー
知らない遊びや歌をいくつも教えてくれて、夢中になって遊んでた。
「すごいねー! ものしりさんだね」
「一緒に遊んでくれて、嬉しいわ」
「ね、そこのベンチで一緒に飴食べよ。もりもり山のくだもの飴。これね、いっぱい入ってて色んな味があって、美味しいんだよ!」
「わあ、こんなに綺麗な飴、嬉しい。ありがとう」
私はいつもの定番おやつをポケットから出した。遊ぶ時、ポッケにコロンって入れてくんだ。
一緒に並んで飴舐めて、白猫ちゃんも抱っこさせてくれた。新しいお友達が出来た!
「ねね、この公園よく来るの? 小学校どこ? また会えるよね?」
私の質問に、ただニコッて笑って黙っちゃった。白猫ちゃんも、私のお膝から下りた。
「えっと、また遊べたら良いなって」
しょんぼりした私に、その子は困り顔で黙った。なんとなく気まずい空気。
けど急に、その子が公園の入り口道路へ向けて、ぐるんって顔を回したんだ。
そう、顔の向きを変えるとかって言うんじゃない。
ゴゴキゴキボキィ! って、首の辺りからとんでもない音もした。と、とんでもなく怖い音がした。
半分の円を描く動きで、ぐるぅんっ! て、綺麗な黒髪がばさぁって振り回されてた。
向こう向いてて顔は見えないんだけど、なんか静かに怒ってるみたいな、怖い空気を感じた。
「ど、どうしたの?」
私には答えないで道路を見たまま、口ずさむ歌声だけが聞こえた。
♪いきはよいよいー かえりはこわいー
♪こわいながらも とおーりゃんせー とおりゃんせー
「え?」
「帰り、気を付けてね」
それだけ言うと、パッと立って走って行っちゃった。
突然過ぎて、びっくりして私は固まっちゃった。
「あー! いたー! もう、全然見つかんないだから!」
お姉ちゃんが怒りながら来て、私の肩にポンって手を置いた。それでようやく私は動き出せたんだ。
もうとっくに帰る時間だって、お姉ちゃんに追い立てられた私は、テントで待ってるお母さんと合流して公園を出た。
帰り道、お母さんが前、私が真ん中、お姉ちゃんが後ろ。いつもの並びで公園から出ようとした。
あーあ、せっかく仲良くなれたと思ったのに、なにがいけなかったんだろう。ていうか、ちょっと、かなり、なんか怖かったかも。
一人、しょんぼりしてた。
その時、急に足元から叫ぶような猫の声がしたんだ。
ニ゛ャー!
「えっ!?」
声を上げて立ち止まった私。その声にお母さんとお姉ちゃんも驚いて止まった。
立ち止まって振り返るお母さんと、私にぶつかりそうでギリギリ踏みとどまったお姉ちゃん。ふたりにサンドイッチ状態の私。
こっちを振り向いたお母さんの後ろで、ガシャーン!! って大きな金属音と悲鳴が聞こえた。
「うぉっ!」
止まったお母さんの一歩先。止まらなかったら出てた一歩。
そこに、スケボーみたいなので歩道を走ってた男の人が倒れ込んできた。あれだ。電動キックボードってのだ。お母さんが、急に倒れてくる事もあるかもしれないから、一人で歩く時はよく気を付けてって言ってた。
小石に躓いたのか、微妙な段差に引っかかったのか、何なのかは分からないけど、急に倒れ込んできた。
「あの、大丈夫ですか?」
お母さんが声かけたけど、男の人は痛そうにしながらそのまま行っちゃった。
「あっぶなぁー、てか、なにあれ。こっちが急に止まってなかったら、お母さん危なかったじゃんね」
「そうね。本当、よく気を付けて帰ろうね」
私は、くるっと振り向いて、公園へ向けて大きな声で言った。
「ありがとうー!」
いきなり大声出した私に、お姉ちゃんは迷惑そうに顔を顰めたけど、いいんだ。
だって、公園の奥にあの子がいた。こっち見てニコッてしてて、白猫ちゃんは尻尾ふってくれた。
もう会えないのかもしれない。
一日だけのお友達かも。
それでも、また会えたら良いなって、私はぶんぶん手を振った。
ちなみに、お家に帰ってから、千夜吉からくんくんされまくったあげくに、暫くお膝に乗ってもらえなかった。
まるで『浮気者め、よその猫可愛がっただろ』って感じの目で、じぃーーーって見られた。
ゴメン! ごめんて!
助けてくれたお友達とその恩猫? だから、許して千夜吉!
上千葉砂原公園にて、一日だけのお友達。 (SARF応募作 ちょこっと @tyokotto
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