真相

 小野寺家に着いたが、特に変わったことはなかった。

普通に出迎えられた。

何もなさすぎて逆に怖いくらいだ。

父にもあっさり会うことができた。


「久しぶりだね桜澄」

父の部屋には使用人がいて、俺は警戒していたが父はすぐに使用人を出ていかせ、二人だけで話す状況になった。


「風河君に聞いたかな? 我々のことを」

「ああ。小野寺家は、暗殺を生業としている」

「そうだね。……ん? どうかしたかい?」

「いや、あまりに穏やかだから、あんたのイメージと異なっていて混乱している」


「そうか。まぁでもとりあえず。話を聞きに来たんだろう?」

「……そうだ」


「じゃあ話そうか」

父は軽く見上げるようにしてから話し始めた。



「あれは七年くらい前のことだったね。私の元に同時期に三つの依頼が届いた。暗殺の依頼だ。暗殺対象はどうも借りるべきではないところから金を借りてしまったようでね。依頼主は金を返さない暗殺対象を殺してしまって、臓器を売ることで金を回収することになったらしい。……私はね、幼い頃から人を殺す術を私の父から叩き込まれ、二十歳になって小野寺の秘密を知り、それからずっと人を殺して生きてきた。だが、ずっと悩んでいた。桜澄にもこんな苦しみを味あわせて良いものなのかとね」


「……それで俺を甘やかしたり俺の家出に対して寛容だったりしたのか」


「それで、この三つの依頼を最後にして暗殺家業はお仕舞いにしようと思ったんだ。そして暗殺対象について調べるうちにその家庭の実態を知ることになった。私は、最後の仕事で巡り会ったのもなにかの縁だと思い、子供達を救おうと思った」


「ちょっと待て。救おうとした結果が養子にするということだったのか?」


「いいや。私は最初からあの子たちを桜澄に預けるつもりだったよ」

「は? いや、手紙には私たちが育てると……」

「手紙に書いたことは大体嘘だよ」

「……は?」


「あれは桜澄を呼ぶための方便さ。私はこの家業を終わらせるつもりだったから後継者なんて探してなかったし」

「ちょっと待ってくれ。話が……」

「あの不自然な写真には私も腹が立った。桜澄ならきっと気がついてくれると信じていたよ」


「……俺をわざと怒らせたのか?」

「自分の意志で選んでほしかったんだ。桜澄はあの子たちを選んだ。私は大満足だよ」


「……水野さんの話はどうなる?」

「あれも桜澄をここにつれてくるための方便さ。あの子たちに危機が訪れれば、桜澄は元凶である私の元に来るだろう? 私との因縁を断たなければ、またあの子たちが危険に晒されるかもしれない。そう印象づけるための指示さ」


「水野さんはやはりそっち側だったか。娘の桜の方はどうなんだ?」

「娘さんのことはよく知らないが、多分何も知らないんじゃないかな。あーそれと。天音さんに謝っておいてもらえるかい?」

「何をだ?」

「数人の男に喧嘩を売られたことがあったはずだ」


「確かにそんなことを言っていたな。あんたの仕業だったのか」

「ああ。小野寺家の財とコネを使って全国各駅の防犯カメラに顔認証システムを導入していたんだけど」

「さらっとすごいこと言ってるな」


「それでまぁ、桜澄達を発見してあの旅館まで近くにいた使用人に追跡させたんだよ」

「本当に全国に使用人が散りばめられていたのか……」

「桜澄達があの旅館に行ったのはたまたまだけどね。話を戻すけど、それで例によって危機感を与えるために天音さんを襲わせたんだけど、まさか返り討ちにされるとは思わなかった」


「俺はあんたの手のひらの上で踊らされていたのか」

「ハハハ。上手に踊ってたよ。それで、私がそうまでして桜澄を呼びたかった理由だが」

「ああ。気になっていた」

「実は、私はもう長くなくてね」


「……え?」

「これまで沢山の人を殺めてきた。きっとバチが当たったんだろう。もうどうやっても助からないらしい。だから、死ぬ前にもう一度お前に会いたかった。……会えて嬉しかったよ」

「……そうか。今まで俺はあんたのことを誤解していたみたいだ。俺も、会えて良かった」


父が握手を求めてきたので応じた。

俺と父は力強く手を握った。


「じゃあ、さようなら父さん」

「ああ。元気でな」


俺はやっと小野寺家との因縁を断つことができた。


それじゃ、帰るか。

家族が待っている。

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