Ⅱ case:雪女

 さて、そうしてイエティが噂を耳にした日本に棲む〝雪女〟……彼女がこの家族の母親となる。


「──ハァ……独り身はやっぱり淋しい……」


 吹雪く新潟の雪山で、彼女は外気よりもむしろ低温の冷たい溜息を吐く。


 イエティ同様、独り閑散とした雪山で暮らす雪女は、その人恋しさから家族を求めていた。


 じつは彼女、過去に一度だけ、人間の男と家族を持ったことがある……。


 しかし、その男は約束を破って彼女の秘密を口にし、すっかり男性不審に陥った彼女は家族を捨てると、浅はかなその男のもとを去るという苦い経験をしていたりするのだ。


 そんな過去の体験から、彼女はもう二度と、添い遂げるパートナーを人間の男に求めようとは思わない。


 それに人間の男は軟弱だ。彼女が息を吹きかけるだけで呆気なく凍え死んでしまう……いずれにしろ、一般的な人間の男性では力不足なのである。


「どこかにもっと丈夫で、信頼できる殿方はいないものかしら……?」


 地吹雪の立ち込める真っ白な雪原で、溜息混じりにそんな呟きを彼女がしたその矢先。


「おおーい! あんた、ユキオンナさんだよな?」


 不意に、その人間では凍死しかねない極寒の嵐の中、誰かの話しかける声が聞こえてきた。


「あなたは……?」


 振り返ると、そこには灰褐色の毛で全身を覆われた、身の丈2m以上はあろうかという毛むくじゃらの巨人が風に吹かれて立っている。


「やっと探し出したぞ。俺はイエティ。ニッポンではユキオトコと呼ばれている存在だ。はるばるヒマラヤの山中から、あんたを嫁にもらいにやってきた……ユキオンナさん、俺と結婚してくれ!」


「えっ…!」


 自己紹介するやいなやの突然のプロポーズ……雪女は唖然と立ち尽くし、思わず蒼白き頬を赤らめてしまう。


 だが、彼女を真っ直ぐに見つめるその瞳はけして嘘を吐くようには……否、嘘を吐くことなどできないような純真そのものの輝きを放っている。


 それに、この生身の人間では耐えられないような低温の吹雪の中でも平気で立っていられる肉体の頑強さ……図らずも彼女が望んでいた条件にぴたりと合致する男性だ。


「はい……」


 気がつくと、彼女は伏せ目がちにもじもじと身体をよじりながら、そうイエティの言葉に答えていた──。

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