第17話 モーリー、決死の覚悟
ライル君達の後方から追って来るシャドウクロウたちに対抗する為、私は自分が使用できる魔術の中で、最も強力な"氷結の暗黒砂嵐"の詠唱を始めた...。
「שלום ܠܘܬܐ السلام Ειρήνη שלום ܠܘܬܐ السلام Ειρήνη ש...」
この"氷結の暗黒砂嵐"は、広範囲の敵に大ダメージを与えることが可能な、私が知りうる魔術の中で最も強力なモノ...。ただし、今日...初めてこの魔術を唱える。
だって...。
ランクDの私には、この魔術の扱いは重すぎるから...。低ランクの者でもこの魔術を扱う事は可能。だが、その身を犠牲にして敵を倒すという、超危険な代物。私たち魔術師の間では、"道連れ魔術"と言われている。
そう、この魔術を唱え終わると、敵に大ダメージを与えられる。でもその一方で、自分自身も大きな被害を受けてしまう。そう、それはまるで"諸刃の剣"みたいな魔術...。Dランクの私が"氷結の暗黒砂嵐"を使用したら...その先の未来は無いだろう。
でも、ぼやぼやしている時間などない。覚悟を決めるわ!いくわよ!!
「שלוםܘܬܐالسلامΕιρηνηשלוםܘܬܐالسلامΕι...」
詠唱が始まると同時に、暗雲が広がり、稲妻が周囲を照らす。私の心臓の鼓動も速まる。そして...全身の毛穴から汗が噴き出し、私の全ての生命エネルギーが一旦、
ライル君、ごめんね、お姉ちゃん、もう2度と君に会えなくなっちゃう。でも...君を守りたい。後悔なんて...ないわ!!
それに、わ、私だって、本当に大切な人を守るためなら、命だって惜しくないんだから!!
私は愛する人の幸せを願い...。
「שלוܘܬܐالسلامΕιρηשלוܐالسلامΕιρήνηשלוܠܘ...」詠唱を再び唱え始めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ちょ、ちょっとモーリー待って!何て恐ろしい魔術を唱えているのよ!!落ちつきなさいって!!それって禁術でしょ!!私とレイメントもいるから、シャドウクロウやネビュラが何匹いようと大丈夫だから💦ちょっと、本当に魔術を止めなさいって!!」
「そ、そうだぞ?うわっ!!足元に稲妻が落ちた!!モーリー、落ちつけって!物騒な魔術を今すぐに止めろって。最強の肉体を手に入れた俺なら、あんなシャドウクロウなんて一瞬で倒してやるから!!」
リューファンとレイメントが傍から、私の身体を案じて詠唱を止めようとしてくる。
「ううん...。私もリューファンやソフィーナと同じようにライル君が好き!!だから彼に生きて欲しい!!私が、私があのシャドウクロウたちをやっつける!さあ、皆んな私から離れて!!שלוםܘܬܐالسلامΕιρηשל...」
リューファンやレイメントがいくら強いといえども、統率された20匹にも及ぶシャドウクロウの群れ...。しかも、単体で魔物ランク Bのネビュラまでいる。そんな状況で、私一人が犠牲になって済むのなら、安い代償だよ...。
「ちょっと、落ちつきなさいって💦皆んなを信じなきゃ!!あんたがいなくなったら、模倣を使える者がいなくなっちまうだろ?それに、あんた以上に...あんなに美味しくコーヒーを入れられるっていうんだい⁉ライルにもあんたの焙煎したコーヒーを飲ませるんだろ?」
サルンサも大きな声で私に向かって叫ぶ。ありがとう...でも!ライル君に美味しいコーヒーを直ぐには飲ませてあげられそうにない。
だけど!
天国で修業を積んでおくからね!ライル君が天国に来た時に、私が入れた飛び切り美味しいコーヒーを飲ませてあげられるように...。
ダメだ。これ以上考えると涙で視界が滲んできちゃう...。
これから私は、永遠にライル君の心の中で生き続けるの。おじいちゃんになったライル君と縁側で五平餅を一緒に食べるという計画は...叶わない。でもいいの!!彼の心の中で私は、永遠に生き続けるのだから!!
「ちょっと、誰かモーリーを止めておくれよ!やばいよ💦目がキマっていて、完全に自分の世界に入り込んでいるよ!ヤンデレモーリーじゃんか💦あの子、私たちの言葉や、脳内でネビュラやシャドウクロウたちの情報を伝えるクワナの声が、絶対に聞こえていないよ!」
パニックに陥った顔で、サルンサがドルに向かって叫んでいる。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
空は先程よりもさらに激しく荒れ狂い、周囲の温度まで下がり、代わりに湿度が上昇し始める。
もう少し...。もう少しで、魔術が完成する。
頭が痛い、身体中の関節も痛い。でも...皆んなの為、ううん...ライル君のために、私は頑張るんだから!!
私は!ただでは死なない!一頭でも多くのシャドウクロウたちを道連れにしてやるんだから!!もちろんネビュアちゃん、あんたもね!!覚悟しなさいよ、あんた達!!
でも...。
でも、でもね...。
もし、天国に一緒に行けたら、仲良くしてね...。向こうでは恨みっこなしだよ。
頬を伝う冷たい何かを感じつつ、覚悟の闘魂注入を行うために精一杯の想いで、「ライルくーん!!」と、愛する人の名前を心の中で叫んだ!!
だが、その瞬間...。
遠くから、「皆さ~ん、大丈夫ですか?突然大雨が降り始めて、さらには雷も...。びっくりですよね💦こんな時って、木の下に避難するのは危険らしいですよ?あ、あと、バリジン森林地帯へ続く橋の再建については、いい方法を思いつきましたから!問題は何とか解決しそうですよ!!」と、愛しのライル君の能天気な声が聞こえた。
ライル君に続いてヨハンも、「橋の問題も解消しそうだ!向うに到達できるように、シャドウクロウたちが協力してくれるってさ!何ともありがたいことだ!!」と、喜びに満ち溢れた声で私たちに伝えてきた。
あ、ああん⁉
あ、あんだって⁉
ラ、ライル君とヨハンの声が聞こえた。それもシャドウクロウ達がバリジン森林地帯に到着できるように協力してくれる?
「え、え~!!どういうことなの?」
「だから止めなさいって言ったでしょ?早くその物騒な呪文⁉禁術⁉ひっこめなさいよ!!ちゃんと人の話を聞きなさいって。クワナが脳内に状況を事細かく伝えてくれたにもかかわらず、モーリー、あなたは詠唱に夢中で...」と、リューファンがため息をつきながら私を叱りつけた。
詠唱ストップ!私、生きますから💦
ア、ア、ア、アイ~~~~ン!!!
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