第16話 人狐ゲーム

 長かった一日が終わりに近づいている。何だかんだ色々な事があったなー。まだ開拓地に向かって一日しかたっていないのにだよ💦


もう、"えー!!"って感じ♪


 なんだか信じられないよ。ううん。もちろん、いい意味でだけど...。


 馬車の乗り心地が格段によくなった。ライル君のスライム使いの能力も明らかになった。そして、私の隣で、新メンバーのソフィーナにリューファンが寝ている。出会ってまだ初日なのに意気投合しちゃって、憧れの女子会まで開いちゃった♪


 テントの外では、ヨハンとドルが30頭近いシルバーフォックスと一緒に野営を行っている。


 野営でこれほど安心して眠れる夜は、これまで経験したことなんてないよ💦それぐらい、心強い仲間たちに守られている。安心安心♡


 それに、大量のオーク肉をこれでもかって、たらふく食べちゃった。てっきり干し肉と黒パンといういつもの野営メニューで終わるかと思っていた。それが何となんと、焼き立てのオーク肉の食べ放題!ビックリだよ。


 何だか...このメンバーとなら開拓作業もうまく進められそうな気がする。もう確信しかない!明日はどんなことが待っているのだろう?ワクワク感が止まらないよ!!


 でも...本当に良かった。開拓地のメンバーに加わって!!私の強運に感謝、感謝だよ!!


「ソフィーナ、リューファン、皆んな、それにそれに、ライル君♡お休み...」と小さな声で呟き、私は意識を手放した。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 そして、翌日...。


 チュンチュン♪チュンチュン♪


「うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん...」


 テントの中で、外から聞こえる小鳥のさえずりで目を覚ますと...。私以外の2人の姿はもう無かった。もしかして私、寝すぎちゃったかな?でも昨日遅くまで、女子会を開いていたのに💦まだ、7時くらいだと思うけど...。


 どんだけあの娘達は元気なのよ~💦


 テントの外からは、シルバーフォックスたちの楽しげな「クン!」や「コン、コーン!」という鳴き声が聞こえてきた。その声に混さって、「そりゃ!」や「まだまだよ!」という、リューファンとレイメントが何かをやり合っている元気な声も聞こえてきた。


 朝から...元気だな。私は血圧が低いから、朝がちょっと苦手なんだよね...。でも、元気な声がたくさん聞こえてくると、何だか私の好奇心と一緒に血圧もぐんぐん上がって来た!


 さ~あ、新しい朝の始まりだ!今日はどんな楽しいことが待っているんだろう?



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 テントを空けると外ではリューファンとレイメント、それにシルバーフォックスが楽しそうに戯れている。元気だな~💦


 あと、すごくいい天気!!


 朝日が眩しく輝き、新緑の葉っぱがそよ風に舞っている。足元にはまだ少し冷たさを感じる土があり、春の訪れを感じる。う~ん、爽やか♡


「さあ、今日も元気に頑張るぞ、自分!」と心の中で私にエールを送り、テントから一歩踏み出した。



 少し前から、レイメントとリューファン、それにシルバーフックスの楽しげな声が少し離れた場所から聞こえてくる。何をしているのかな?と思って視線を向けてみた。


 すると...。

 

「レイメントチーム、覚悟しなさいよ!さあ、右から回り込んで、レイメントの喉元に牙を突き立てるのよ!ゾーンにセクシー!」とリューファンが指示を出すと、2頭のシルバーフォックスが右に旋回し、レイメントに向かって突進した。


「さあ、受けて立つぜ!マイ、キス、フット、それにツー!向かい打って、そのまま一気にリューファンをやっつけろ!!」


 ゾーンとセクシーの動きをレイメント軍のマイとキスが受け止め、残りの2頭がリューファンめがけて飛び掛かった!


「あ、危ない、リューファンがやられちゃう!」と思った瞬間!!


「ふふふふふ、甘いわよ...レイメント。さあ、出てきなさい!セイ、ヘイ、それに...ジャンプ!」と、リューファンが不敵に笑った。その瞬間、物陰に隠れていたシルバーフォックスの3頭が姿を現した。


「げっ、そんなところに潜んでいたのか💦」


 レイメントが一瞬怯んだその瞬間、セイとヘイがフットとツーを抑え込んだ。そして、残りの1頭、ジャンプが猛ダッシュでレイメントに向かって飛び掛かった!


「そこまでです!お見事です、リューファン殿!」と大きな体のミエがストップをかけた。


 リューファンチームのシルバーフォックス、5頭が喜んでグータッチをしあっている。あ、やっぱりグータッチはシルバーフォックスの挨拶の様ね...。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「クッソ~!また負けてしまった!すまないな、お前たちは一生懸命戦ってくれているのに...。こうなったら、大将である俺自らがリューファンと戦って...」と、目の前で項垂れるシルバーフォックスたちにレイメントが声をかけた。


「頭脳じゃ勝てないからって、力ずくで挑んでくるの?ふふふふふ...。面白いじゃない?私の方がどちらも上だということを思い知らせてあげるわ!さあ、かかってきなさい、レイメント!」と、リューファンはレイメントを小バカにする。だが、その表情はとっても楽しそう。


 なんだかんだ言いつつ、2人は本当に仲がいい...。


 私がぼんやりと2人のやり取りを眺めていると、彼らも私に気づいたようだ。


「おはよう、モーリー!よく寝れた?」とリューファンが私に声をかけてきた。更に、レイメントも「よう、モーリー、やっとこ起きたか。よかったら俺と「人狐ジンコンゲーム」をやらないか?」と尋ねてきた。


 へー、人狐ゲームっていうんだ。面白そう。なんだけど...。 


 周囲では小鳥たちがさえずり、その声はまるで私に、「貴方も思い人に会いに行ったら?」と助言をしているかのように感じる。レイメント、ごめんね。恋する乙女にとっては、戦闘よりも愛する彼の笑顔の方が何倍も価値があるのだ!


「面白そうだけど、今はパス!ライル君に朝の挨拶をしに行きたいし!」と言って断った。


 すると、レイメントは 「若なら、ハントとジュリーダ牧師様、それにソフィーナとシルバーフォックスを数頭連れて出かけられたぞ。何でも橋の状況確認に行くと言っていた」と教えてくれた。早起きだなー、ライル君...。そしてさすがのソフィーナ💦しっかりとライル君について行動している。抜かりが無い...。


 なんだ、もうライル君お出かけしちゃったんだ...。残念。私も橋を見に行きたかったな...💧


 さらに追い打ちをかけるように...。


「モーリー!起きたんだったら、朝ご飯の準備を手伝っておくれよ!焙煎作業を手伝ったり、黒パンを焼いたり頼むよ!」と、サマンサからお声がかかった。


 あ~あ💧ライル君を追いかけることも出来ない様だ...。


 う~ん。


 ならしょうがない。気持ちを切り替えて、ご飯の準備、ご飯の準備っと!


「サマンサ、了解だよ!!またあとでね、リューファン、レイメント!!」と私は2人に声をかけ、朝食作りチームの方へと向かった。


 橋の方はどうなっているんだろう?ここから馬車で片道1時間程かかるらしいけど...。


 昨日は、新たに橋を作ると言っていたけど、単純に考えてもかなりの時間と労力が必要な作業だよ💦特に、断崖絶壁の中にぽつんと浮かんでいるバリジン森林地帯。そんな森林地帯に続く橋は、推定300mほど。先人たちは一体どのようにして橋を作ったのだろう?


 私たちはどうやって橋を作るのだろう?橋造りが終わる頃には、もしかするとおばちゃんと呼ばれているのかな?それとも、孫に囲まれていたりして...ライル君との♡


 でも...先代たちも作ったんだ!私たちだって作れないわけが無い!最強の肉体を誇るレイメントや、道具の扱いが得意なドル。それにそれに、超摩訶不思議なスライム君たちを操るライル君だっている!シルバーフォックスの皆んなも力を貸してくれる様だ。


 何とでもなるさ!たとえ月日がかかっても、指をくわえてまっているよりも、行動あるのみだよ!うんうん♪



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 パチパチ、パチパチ、パチパチ...。


 私の熱い思いを称賛するかのように、コーヒー豆は手網の中で香しい匂いを放ち、飲み頃を教えてくれる音色を奏でる。


 ライル君に美味しいコーヒーを飲ませてあげたい!


 こう見えても私、焙煎に関しては自信があるんだ♡もしかすると、私の前世はコーヒー豆だったのかもしれない。そのくらい、豆の気持ちと美味しくなるタイミングが何故だか直感的に分かる。


 うーん...不思議だ...。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「あ、皆んなが帰って来たようだよ!!」と、サルンサがいち早く皆が帰ってきた事に気が付いた。彼女はハントに向かって大きく両手を振る。サルンサはハントのことが大好きだ。彼女は大きく手を振って、喜びをあらわにする。だが...。


 え⁉何だか、多すぎない?4人とシルバーフォックス数頭で向かった割には、数が多い様な...いや、多すぎるよ絶対!!


 だって、ライル君達を追うように、上空を飛んでいるモノたちの姿が見えるんだもん💦


「ちょっと、何だか様子がおかしくないかい⁉ハントたちの後ろにいるのは、大量の魔物かい⁉何かに追われているみたいだよ!ちょ、ちょっと、レイメント、リューファン!」


 サルンサは慌てて、レイメントやリューファンに助けを求める。


 その瞬間、ここにいる全員の表情が一気に緊張感で引き締まった。


「ああ...あれは!シャドウクロウ達の匂いです!しかも、その中には上位種である"ネビュラ"もいるようです!皆さん、私たちの後ろに下がって下さい!!」と、ミエが慌てて私たちに念話を送って来た。


 ミエ以外のシルバーフォックスたちも、私たちを守るように前方に集結した。彼らは全身の毛を逆立て、尻尾も高く上げ、低い唸り声を轟かせている。


 「不味いです!ランクDのシャドウクロウが20羽いると思われます!更にその数が増えれば、我々の手には負えません!シャドウクロウは私たち同様、統率された集団行動を取り、攻撃を仕掛けてきます。特に、ネビュラはその大きな体に反して非常に素早く、単体でBランクの能力を持つと言われています!そして、シャドウクロウの集団を統率するネビュラは、ランクAの力を持つと言われます!!」


 さらに、ミエは私たち人間でも感じ取れるほどの重苦しい表情を浮かべ、「しかも、ネビュラは非常に厄介な"毒羽踊龍翔ドクバブリュウショウ"という恐ろしい技を使ってきます!」と、私たちの脳内に訴えかけてきた。


"毒羽踊龍翔"とは、ネビュラの必殺技の一つで、毒を含んだ硬い羽根を相手に向けて、敵が全滅するまで止むことなく放つという恐ろしい攻撃だ。その攻撃は、直接的な痛みだけではなく、毒により神経にも影響を及ぼす、まさに必殺の攻撃と言える。


 な、何それ~💦や、やばいよ。いくらリューファンとレイメントが強いとは言っても、相手は上空から攻撃を仕掛けてくる敵。攻撃が当たらなければどうすることも出来ないじゃんか💦弓を使えるハントも、追われる側にいるし...。


 よ...し。よ~し!!


 ここは...私の出番だ...。上空の敵でも通用する魔法使いとしての私の...。だが、シャドウクロウ一羽でも、私と同等のランクD。シャドウクロウが集団になれば、その強さは上昇し、ランクCとなる...。更には、ネビュラまで...。


 シャドウクロウを従えたネビュラは、Aランクといわれる、まさに強敵...。


 や、やばい、どんどん近づいて来る。


 す、凄い迫力...。で、でも、何も手を打たなければ、怪我人が出てしまう。いや...全滅してしまうだろう。


 モーリー、思い出すんだ...。ライル君が私たちにしてくれたことを!!


 ライル君は私たちに助けを求めて、一心不乱にこちらに向かって来ているんだ!!私たちの為に何度も力を与えてくれたライル君...。今度は私たち、いえ!あなたのお姉ちゃんが力と愛を返す番よ!!


 ライル君、愛しのお姉ちゃんが絶対に守ってあげるからね💦


 ネビュラが何だっていうのよ!愛しきライル君に恐い思いをさせた、困ったカラスちゃんたち...。まとめて成敗してあげるわ!たとえ、私の命が...砕け散ったとしてもね!!

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