10話 レイメントと"わんこ"

 春の日差しが森林を照らし、馬車道は静寂と共にその光を浴びていた。時刻は午後2時を少し過ぎた頃。木々の間からこぼれる陽光が道を彩り、新緑の葉がそよ風に揺れている。


 しかし、その穏やかな時間を打ち消すかのように、見知った声が周囲に響き渡った。


「お~い!大冒険から帰ってきたぞ!!至急、若様を呼んできてくれ!!」


 遥か彼方から、一台の馬車と2頭の馬が、やや焦った足取りでこちらに向かってくる。


 もうレイメントの中では、ライル様を若様と呼ぶことが決まった様だ。まあ、ライル様が納得されているのなら、いいだろう。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 御者席には、ジュリーダ牧師様が落ち着いた表情で座り、馬車の両脇では、ヨハンとレイメントが馬にまたがり、力強く並走している。


 馬にまたがっているレイメントが、こちらに向かって大きく手を振っているいる。その動きは、遠くからでもはっきりと見え、アピールが強い...。


 しかも、レイメントを乗せている馬が、左右に首を振ったり、動きの速度を急に変えたりして、嫌がっているそぶりを見せているのだが...当の本人は全く気づいていない様だ。


 本当にごめんなさい、お馬さん...💦


 あと、馬車の中には、何か重たいモノが積まれている?その重みが、馬車の速度を微妙に鈍らせているようだ。


 レイメント達の姿たがはっきりと見える位置まで近づくと、彼がこちらに向かって大声で呼びかけてきた。


「若様を呼んでくれ!!」とレイメントの声は焦っていた。「オークを狩っている最中に、傷ついたを見つけたんだ!治して頂きたい!」と、レイメントは早口に言った。彼の腕の中には、大切そうに抱かれた小さな生きモノがいた。


 確かに、その生き物は怪我をしているようだ。抱きかかえているレイメントの服が血で染まっている。さらに苦しそうに「コ~ン、コ~ン...」と鳴く声から、その事実を物語っている。


 まだ小さいのに可哀そう。でも...。


 どう見ても、には見えない...。もちろん猫ちゃんでもない...。


 シルバーフォックスの子供じゃない。でも...私が知っているシルバーフォックスとは何かが違う。そう、毛の色がシルバーじゃない。身体中傷だらけで、しかも血で汚れているが、その毛の色はシルバーじゃないことは確かだ。白色...⁉もしかしたら、変異種かもしれない...。


 あと、レイメント...と狐を間違えないでよ...。顔三角じゃん...。犬に比べたら尻尾ふさふさで、耳も大きいじゃない...。


 どうやったらと間違えることができるのよ💦



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 すぐにライル様が飛んで来て、「この子はシルバーフォックスの子供だね。魔物といえども、こんなに人に馴染んでいる。すぐにヒーリンちゃんに来てもらうよ!」と、その子を抱きかかえて、木立の生い茂る日陰の方に移動された。


 レイメントと違ってライル様は、一瞬でシルバーフォックスと見分けた。まあ...そうだよね。普通は間違えないわよね。


 あと、スライムさん達がそのシルバーフォックスを治した後、もし魔物が本性を現して我々に刃向かうことがあれば、ライル様の陰でこれからの生き方を叩きこむだけ...。


 ふふふふふ...。


 ライル様は去る際に、私たちに向けて「後は任せてね。この子はすぐに元気になるから、心配は無用だよ!」と、温かみのある微笑みを浮かべられた。


 ライル様~♡


 本当に愛おしくお優しい...ライル様。私の隣では、ソフィーナが両膝を地につけ、何やら祈りを捧げている。その瞳は、まるで天界に住まわれる主様を見つめるかのように、ライル様を見つめている。


 ちょっと、いや...だいぶ怖い💦



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ライル様とは対照的に、レイメントは傷ついたシルバーフォックスをライル様に託した途端、安堵の表情を浮かべて元気を取り戻した。単純な奴だ...。


 レイメント曰く、あのはオークに殺されかけていたところを助けたと言った。


 ただ、シルバーフォックスの子供の周囲には、喉元や手首、足首から大量に出血しているオーク数体が横たわっていたようだ。体長25cmにも満たない子が、体長3mほどあるオーク数体とやり合っていたのかと疑問に思ったが、とりあえず弱っていたので、レイメントは保護したようだ。


 まさかねぇ...。いくら変異種とはいえ、こんなに体格差のあるオーク数体を相手に戦うなんて...。


 それにしても、レイメントもレイメントだ。いくら弱って抵抗して来ないからとはいえ、魔物の子供を拾って来るとは...。本当にこの男は変わっていない...。


 昔っから単純でバカ。それでいて、お人よし...。


 単純でバカな所があるけど、私と同様に最後までキューメイ国王に仕えた男。私のことを人は元ウェイリー王国最強の盾と呼び、レイメントのことを最強の鉾と呼んだ。喧嘩もした。お互いを高め合い、背中を預けた仲...。


 戦争に敗れ、死ぬ時もこの男と一緒なんだと思っていたら、生き延びるのも2人一緒だった。笑っちゃう...。前世は夫婦?ううん...喧嘩の絶えなかった兄妹だったかも...。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 そんなレイメントが何やら大声で叫んでいる。「オーク肉が大量だぞ!」、「オークを仕留めたぞ!」、「若様が治してくれた身体で、俺はもう無敵だ!ダ―!!」等、聞こえてくるのくるのは、奴の声ばかり。


 だから...。皆さんが引いているって!!


 更には、「あはは、こいつ元気がいいな!!」と、マタガっているお馬さんに声をかけるが、それはタワムれているんじゃないの!必死にあなたを振り落とそうとしているんだって!!


 空気読みなさいよ、レイメント!!


 とは言っても、すっぽんぽんの姿でライル様に抱き付きに行った、私たちが言うのもなんだけど...。 


 遠くからオークを狩ってきたと聞こえたが、もしかしたら馬車の荷台に乗っているのは、オークかもしれない。


 オークはその獰猛ドウモウさと並外れたパワー、体力を誇る魔物である。しかし、そのスピードは遅い。


 他の種族の雌に対する関心と、節操のない繁殖活動は、女性にとっては脅威であり敵となる。だが、その肉は非常に美味で、食用として知られている。


 オークの種類はその多様性において、ハンマーオークやリバーオーク、そしてビックオークといったさまざまな存在が確認されている。これらのオークたちは、それぞれ独自の特性と能力を持つ。そして、強くなれば強くなるほど、その肉は美味しさを増し食用としての価値も高まる。


 レイメントは私たちの顔を見つめ、「やっと目覚めたのか!俺も身体が回復した後、すぐに意識を取り戻し、ヨハン様たちと共に行動を開始した。久しぶりの狩り...それはまさに至福の時間だった!」と、恍惚とした表情で語った。


 隣にいたヨハンさんとも、彼はすっかり打ち解けていた。ヨハンさんからは、「もはや奴隷ではない。そして、我々と共に新天地へ旅立つ仲間だ。遠慮は無用だ」と言われた。やだ、ヨハンさんも何だか格好いい!


「そ、そうか!」と、ヨハンさんからかけられた声に、嬉しそうに返事をするレイメント。


 レイメントの喜びに満ちた表情を目の当たりにすると、私自身も不思議なほどに、言葉にできないような喜びが心から湧き上がってくる。だが、その一方で...。


 何...その手足の色?青色?銀色?いや、それとも...青銀色?ただ...どう見ても、肌色ではない...。


 ライル様の仕業?否、そうとしか考えられない。多分...間違いないだろう。


「レイメント、その...治った様だけど。その手足、青銀色に...輝いていない?」


 私は、目の前の現実をそのまま彼に向けて言葉にした。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 レイメントは一瞬何のことだか分からなかったようだが、私の視線を感じ取った彼は、「ああ、この手足のことか?」と言って、雌馬のナルンから降りた。


 ナルンはセランと同じく雌馬で、セランのように特定の者を選ぶことはない。どんな者でも背中に乗せてくれる優しい雌馬だ。だが、どうやらレイメントはこりごりの様だ。


 レイメントが降りた瞬間、ナルンは「ブルルルル(やっと降りたわ!)」という感じで、一声ヒトコエ鳴いた。


 ごめんね、ナルン。でも...たまには、背中に乗せてあげてね...。


 それはそうと、我々が話すべきはレイメントのことだ。どうも本題から逸脱してしまう。私が今知りたいのは、彼の手足のことだ。


 かつてウェイリー王国の最強の鉾としてその名を轟かせていたレイメント。だが、戦争の結果、戦犯として敵国の王により、その手足は見せしめとして切り落された。しかし今、その手足は青銀色に輝き、彼の復活を象徴するかのように力強い輝きを放っている。


「な、何が起こったの?」と聞くと、「へへー!俺も若様に手足を治してもらったのよ!それも俺の武道家という特性を最大限に生かしてな!」と語った。


 私たちが頼んでもいないのに、後屈立ちからの足刀ソクトウ蹴りや猿臂エンピ、さらにはロンバク(ロンダート+バク転)などを目の前で披露してきた。


 それは、レイメントが自身の新たな力を誇示するためのパフォーマンスであり、私たちはただただ、うんざりとした表情で見つめていた...。


 そして、連バク(連続バク転)をして決めポーズをとる。もう...うざい💢


もう!いいから私が寝ていた間に何があったのよ、レイメントバック転する暇があったら、早く私に教えなさ~い!!


 そう心の中で大きく叫ぶリューファンであった。





 次回は"グルルルルルルルルルルルルルルルルル~!!"というタイトルです。

 

 タイトルは仮なので変更することもあります。明日⁉明後日のどちらかに投稿します。


 

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