第7話 奴隷紋

「お兄さん...それにお姉さん達、今から奴隷紋を先に消しちゃうよ。悪いけど、身体の治療は後回しにするよ。その忌々しいモノを身体から一刻も早く消し去っちゃおう!」


 ライル君は、目の前の奴隷達3人に向かって努めて明るく振舞った。


 ただ、ハントが心配そうな表情をしてライル君に、「本当に大丈夫なのか?ただ皮膚をぐだけじゃ、奴隷紋の効果は消えないぞ。それに、奴隷紋を強引に取り除こうとすると、心臓が止まる呪いがかかる。本当に...厄介なモノだぞ」と語りかけた。


 そう、奴隷紋を取り除くということは、単に皮膚の表面だけを剥ぐだけでは完全に効果は消せない。


 そして、それ以上に厄介なことは、奴隷紋を強引に取り除こうとすると、紋が直接心臓に影響を及ぼし、心臓の動きを停止させる。


 それも少しずつ...じわじわと。


 大変な痛みと恐怖を与えるように...。非常にたちの悪いモノである。


「大丈夫ですよ、ハントさん!すでに実証済みですから。長老は獣人族の王様に頼まれて、不法に奴隷紋を刻まれた者たちを救っています。これから来てもらうボウ爺たちは、奴隷紋を解除するプロフェッショナルですから!」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 


 ライル君とハンスが話していると、ライル君の後ろから3匹のスライムちゃんが現れた。その中の一匹、体長70cm程のスライムちゃんが「ライルよ、久しぶりだな。元気にしておったか?」と、声を弾ませて尋ねた。


「ボウ爺!」と、ライル君は喜びに満ちた表情を浮かべながら駆け寄った。


「ふぉふぉふぉふぉ。わしを呼ぶという事は、奴隷がらみじゃな?まあ大筋はカイドンから聞いておる。奴隷からその者たちを解放すればよいのじゃな?」と、羽織をマトった風格あるスライムちゃんがライル君に問いかけた。


 蝶ネクタイの次は羽織を纏ったスライム...。もうスライムちゃんが着物を着ようが、喋ろうが、驚かない自分がいる。変えられちゃったみたい...ライル君に...。なんか背徳の恋みたい...。


 それに...羽織がすごく似合っている。貫禄を感じさせるスライム様だ。可愛い♡


 その他としてライル君は、ネクタイを身につけたカンちゃんと、ナースキャップをかぶったヒーリンちゃんを紹介してくれた。これらの2匹は、先ほどのボウお爺ちゃんよりも一回り小さい。


 体長が...50cmほどかな?


 う~ん、ナースキャップいい♡黒パン、水無しで5切れ食べれる!!


 私が一人で興奮し、辺りをピョンピョン飛び回っていると、羽織を纏ったボウお爺ちゃんに対してライル君は、「そう、その通りなんだよ、ボウ爺!この3人の奴隷紋を消してあげて欲しいんだよ!」と、3人を見ながら伝えた。


 3人の前でポヨーン、ポヨーンとボウお爺ちゃんが跳ねる。おボウお爺ちゃんの跳ねる動きに合わせて羽織も揺れる。うん、あのスライムちゃんも欲しい!癒される~♡全員まとめて、コンプリ~トしたい!!


 ボウお爺ちゃんは3人をじっくりと見極めているようだ。そしてライル君に向かって、「ライルの頼みだ、もちろん、この者たちを奴隷の立場から開放してやりたい。だが...ライルを信用していない訳ではないが、カンちゃんの鑑定を受けてもらうぞ。それが条件だ」と伝えた。


 言葉を伝えた後、ボウお爺ちゃんは跳ねる高さが少し低くなったように見える。ライル君に対して何か申し訳ないと感じているのかもしれない。


 ボウ爺ちゃんの仕草に対し、「ボウ爺!気にしないで、決まりだもん!ボウ爺は何にも悪くないよ!」と、ライル君は逆に困惑してしまった様だ。


「3人の内、2人は戦争奴隷、もう一人は無理矢理奴隷にされたらしいんだ。僕は信用できると思うけど...。カンちゃんも一緒でしょ?"鑑定"をして、誰も悪い人ではないことが明らかになれば、今後も接しやすいし」と、ライル君は少し早口でボウお爺ちゃんに伝えた。


「申し訳ないな、ライル。これは決まりだからな。気を悪くせんでおくれよ。お前さんに嫌われると、わしは心から悲しくなるでの...」と、ボウお爺ちゃんは深く悲しそうに身体をウツムかせている。


 ボウお爺ちゃんの表情が読み取れなくても、その態度から、ライル君...君は皆んなから愛されているんだね、と感じることができた...。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 


 微妙な静寂が漂う中、「ほらほら、ボウ爺様。ライル君も困っていますよ」と、ボウ爺の行動をイサめるような態度で、一匹のスライムが近づいてきた。


 ネクタイを身に着けている!可愛~い!育てたい!


 いいな~ライル君。お姉ちゃんは君が羨ましいぞ!


 スライム君たちは、蝶ネクタイも似合うけどネクタイ姿もありだね。なんか賢そう、⁉に見える。


 それにしても、本当にたくさんのスライムちゃん達がいるんだなあ。ちなみに、スライム街ってどこにあるんだろう?う~ん、不思議だ。でも、行ってみたいな~♡



◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 


「皆様、初めまして、カンメイと申します。通称「カンちゃん」です。鑑定を得意としております。皆様に鑑定を行い、奴隷紋を取り外すに相応フサワしい人物か、審査させて頂きます」


 ⁉を感じさせる子、カンちゃんって言うんだ!可愛いな~。いいな~あのネクタイ♡私も欲しい!チクチクちゃんに作って貰えるかな?お持ち帰りしたい~♡


 でも、このカンちゃん。可愛いだけじゃなく知性も感じさせる発言だ。鑑定すると言い出した。


 でも...そうだよね。奴隷紋を取るということは、簡単に言えば一般人に戻ることを意味する。


 ただし、奴隷の大半は借金や暴力などで罪を犯した者たちだ。借金の理由は人それぞれだが、中にはギャンブルや酒、異性に貢いだりと、ろくでもない理由で借金を抱えている者も少なくない。


 鑑定をしっかりと行わないと、誰でも一般人に戻すこととなる。そんなことは危険極まりない。


 カンちゃんも、「誰もが一般人に戻れるわけではありません。奴隷の状態を維持した方が良いと判断されるモノも多くみられます...。申し訳ございません、少々時間を取ってしまいました。それでは、3人の鑑定を始めさせて頂きます...」と静かに語った後、奴隷さん達の方にと体の向きを変えた。


 そして、カンちゃんは3人に向けて「そこの者たち!真実の扉を開けよ!鑑定!!」と力強く宣言した!


 ピカァァァァァァァァ!!


 カンちゃんの声に反応したかのように、 3人の体がまばゆい光に包まれた!


「うお!眩しい!目が、目が!開けていられねえ!!」と、その光を間近で見てしまったハントが手で目を覆い、右往左往している。


 私もそのあまりにも眩しい光を直視できない!3人の奴隷さんたちはどうなっているんだろう。すると...。


「う、うわぁ!な、なんだこれ?俺の体が光っている?いや、光に包まれているのか?」や、「な、何が起こっているの?」といった声が、光の中から聞こえてきた。


 まばゆい光は数秒間続いた。そして、終わりを告げるかのように、光の粒子が次第に消えていった。


「元に戻った?いったい何だったんだ?」


「終わったの?心の全てを解き明かされた...不思議な感覚...」


 3人は互いに顔を見合わせ、光の中で起こった異変を報告し合うように呟いた。


 現実がどこにあるのかまだ分からないような、不思議な感覚に包まれた3人の前に、カンちゃんが「ふぅ...」と言いながら近づいた。


 そして、カンちゃんは「この3方についてですが...」と私たちに語り始めた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 


「身体に欠損のある男女ですが、ご本人たちが言う通り、戦争奴隷です。しかも、何人、何十、いや何百もの生命体をその手で亡き者にしております。また、奴隷狩りにあったと申した者も、多くの者の命を奪っております...」


 カンちゃんは鑑定を終了し、その結果を私たちに告げた。


 ちょっと、意外だ。


 戦争奴隷の2人行動は、理解できる。自分の意志に反しても、守るべき者のために他者を殺めるという、避けられない現実を反映している。しかし、大きな火傷を負ったソフィーナさんの過去については、正直なところ驚かされた。


 自然とソフィーナさんに視線が集まる。しかし、彼女は皆んなの視線が集中していても、カンちゃんとライル君をじっと見つめていた。


 カンちゃんは「ただし...」と、また話し始めた。


「ただし、ソフィーナさんは同族を守るため、違法な奴隷狩りに対して行った反撃行為。それは仕方のないことです。また、戦争奴隷の2人、レイメントとリューファンも、主君を守る戦争上でのこと。それ以外の行いについては、何ら恥じることのない者たちです」


 そう、カンちゃんは静かに話を締めくくった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 


「ふぉふぉふぉふぉ。さすがはライルが連れてきた者たちだ。この者たちならば、奴隷の身分から解放しても問題ないだろう。さあ、ヒーリン、我々の出番だ。早速、この者達を奴隷から解放してあげよう」


 そう言うと、ボウお爺ちゃんの身体は横に伸び始め、3体に分裂した。


 スライムちゃんって便利よね...。でも、何で羽織まで分裂できているのだろう?まあ...いいか。


 そして、3体に分かれたボウお爺ちゃんは「皆の衆、少し痛みを伴うぞ。我慢じゃ、すぐにヒーリンが癒してくれるからのう」と言うと...。


 首筋の奴隷紋を思いっきり嚙み千切った!!


 乱れ飛ぶ鮮血!!


 えぐっ!!


 超原始的じゃん!!ハントも言っていたじゃん!取り除くだけじゃダメだって!!


 ちょっと!レイメントさんが、白目をむいて泡を吹いているよ💦


 皆んながボウお爺ちゃんの原始的な行動に驚き、放心状態に陥っている中、ライル君が「心配ないよ、皆んな!ああ見えてボウ爺は、奴隷紋から心臓に伸びる神経バイパスを遮断したんだよ。見た目以上に繊細なんだから!」と言った。


 マ、マジっすか?


 さらに、ボウお爺ちゃんと同じく、ヒーリンちゃんもいつの間にか3体に分裂していた。ボウお爺ちゃんが首筋に飛び乗り、「ヒ~ル!!」という声を上げた。


 その声は温かさと優しさに溢れていた。


 3人の首筋の傷は、完全に元の状態に戻り...その部分にあった奴隷紋は跡形もなく、綺麗に消えていた...。

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