第6話 私たちを助けて!

「その者たちの汚れも一つにまとめておいたドン!久しぶり何だなライル!」


 体長200cm程の巨大なスライム、ゲドンちゃんが嬉しそうにライル君と話しながら、彼の周りをポヨーン、ポヨーンと跳ねている。


 表情からは読み取りにくいが、目の前のスライムちゃんの態度から見て、ライル君との再開を心待ちにしていた様だ。


 あと、デス・キラー病の塊は、無害らしく可愛いインテリアになるらしい。原材料を知っていると、可愛いと思えないけど...。


 どこぞの貴族が、集めているとか集めていないとか...。世の中は広いな...。


 ゲドンちゃんによって解毒された奴隷の3人は、身体や貫頭衣カントウイの汚れが綺麗さっぱりと落ちて、ゴザの上で横たわっている。


 ライル君とゲドンちゃんの楽しそうな声が、奴隷たちにも聞こえたのだろうか?彼ら3人は相次いで、目を覚ましたようだ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 3人は見つめ合い、自分たちの身体を確認した。そして、全身の斑点が消え、痛みもなくなったことに、驚きの表情を浮かべた。


 3人の奴隷は恐る恐る私たちの方を向いて「あ、ありがとう。ま、まさかデス・キラー病を治してしまうなんて...信じられない気持ちでいっぱいだ。でも、痛みも斑点も消えている。治して下さったのだな」と、男性がお礼を言ってきた。


 そして、全身の皮膚が痛々しい状態になっている女性、ソフィーナさんも「ありがとうございます。治して下さったのは、そちらのお方の従魔でしょうか?」と、尋ねてきた。


 ソフィーナさんは汚れが落ちたことで、皮膚のただれや瘢痕ハンコンがより鮮明に見え、その痛々しさが一層強調される。ボロボロの貫頭衣で隠れている豊満な胸も、おそらく大きなやけどの影響を受けているだろう。


 3人ともデス・キラー病は治ったが、ソフィーナさん以外の2人も、痛々しい姿に変わりはなかった。


 身体や貫頭衣の汚れが無くなったことで、身体の痛々しさが倍増した感じがする。レイメントさんは、手足が切り取られていることがより鮮明に...。


 左腕と右脚を欠損しているリューファンさんは、汚れが落ちた時に、右頬に深い傷があることが分かった。綺麗な顔立ちなだけにより辛いものを感じる。


 そして、全員の首筋には、赤紫色の奴隷の紋章がしっかりと刻まれている。何とも忌々イマイマしいのだ。


 同情と哀れみが合わさったような視線を浴びながらも、ソフィーナさんは「このような醜い肢体をさらして申し訳ございません。ですが、一言、お礼を言わせて下さい。本当にありがとうございました」と言いながら、ライル君の前で膝を折り深々と土下座をした。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ライル君は目の前のソフィーナさんに対し、「お、お姉さん。大丈夫だから。お、お礼ならゲドンにして!僕はゲドンを呼んだだけだよ!」と謙遜ケンソンした。


 相変わらずおたおたしている。ライル君、もっとしゃきっとしないと...。お姉さん、可愛さを通り越して心配になっちゃうぞ。


 ソフィーナさんは土下座をしたまま、「申し遅れました。私はエルフ族のソフィーナと申します。治して頂き、心から感謝をしております。ですが...私の身体は現在このような身体...。あなた様のお役に立てそうもありません...。本当に申し訳ございません」と寂しそうにライル君に伝えた。


 エルフ...。美の象徴的な存在。しかし、大やけどを負った彼女からは、人族より少し尖った耳以外、エルフであったという面影は残っていない...。


 しかし、彼女の内面の美しさは依然として存在している。元々は、外見も内面も非常に美しく気高い存在だったのだろう。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 何とも気まずい空気が漂う中、ハントが重い口を開いた。


「ライル、デス・キラー病を治したことは素晴らしかった。だが、彼女たちをどうするつもりだ?奴隷紋の制約により、この場所から離れることは出来まい。何もしなければ、間違いなく魔物に喰い殺されるだけだ」


 ハントは3人の首元についている奴隷紋に目を向けた。デス・キラー病は治ったとはいえ、生きるも死ぬも厳しい立場はまだ変わっていない。


 ハントの発言に、奴隷達3人の表情はさらに曇る。奴隷紋の効果により、彼女たちは動きたくても活動範囲が制限され、数mしか動けないように彼らの主人に制御されている。


 だから、彼女たちを馬車の旅に同行させる事すらできない。


 やはり、彼女たちをこのまま置いて行くしかないのだろうか?


 すると、ライル君がソフィーナさんに向かって、「お姉さんたちはなぜ奴隷なの?何か悪いことをしたの?」と尋ねた。


「いいえ...。私は何も悪いことはしてはおりません。ただ奴隷狩りに遭遇し、無理矢理奴隷の印を刻まれました。その後、犯されそうになり、抵抗したら燃えたぎる熱湯を頭から...。そして死なない程度にポーションを強引に飲まされて...死ぬことすら許されなかったのです...」


 ソフィ-ナさんが感情を殺した表情で、ライル君に呟くように語った。


「お姉さん...」


「私以外の2人は戦争奴隷です。主君を守るために槍となり盾になり、その結果が今の状態。もし、ここで魔物に食い殺される運命なら、私以外の2人も心臓を弓矢で射抜かれて死ぬことを望んでいるでしょう。ごめんなさい、せっかく助けて頂いた命なのに...」


 ソフィーナさんがライル君に向かって、申し訳なさそうに呟いた。


 すると、レイメントさんがライルの前にズリズリと身体を引きずりながら、近寄って来た。


「俺は主君をかばってこんな姿になっちまった。悔いはねえと言っちゃ嘘になるが、しょうがねえことと諦めている。でも...もう一度、表舞台で戦いたかった。俺も...殺してくれ...コボルトなどにモテアソばれるなんて、屈辱以外の何ものでもねえ!」


 さらに、片腕と脚を失い、右頬に大きな傷がある女性、リューファンさんも、レイメントさんとソフィーナさんと同じように、今の状態では生きる価値がないと言って死を望んできた。


 デス・キラー病が治って、一瞬だけ活気に満ちていたが、まるで極寒に戻ったかのように、場は再び暗く重たい空気に包まれた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「お兄さん、それにお姉さんたち!悪いことをしていないなら、死んじゃダメだよ!僕が、いや、僕の仲間たちが何とかしてあげる。だから大丈夫だよ!奴隷からも解放してあげられるし!身体も治してあげる!」


 皆んながライル君を驚きの表情で見つめる。ハントが「そんないい加減な...」と言言いかけて止めた。そう、ハントは思い出したのだ。ライル君がデス・キラー病を治したことを...。


 ハントはライル君の前に立ち、静かに尋ねた。「ライル、本当にこの者たちを奴隷の身分から解放し、手足の治療まで行うことができるのか...?」と、確かめるようにライル君に問いかけた。


 周囲は重苦しい空気に包まれる。しかし、それとは少し違う雰囲気も混ざり始めている。ライル君なら、この子なら、ここにいるモノたちを奴隷から解放できるかもしれない。


 さらに、ライル君なら、手足を失った者や大怪我を負ったモノを治せるかもしれないという期待が...周囲に漂い始めた。


 そんな中、あまり話そうとしなかったリューファンさんが、「奴隷の立場から我を開放し、手足も治して頂けるなら...私は一生をかけて貴方に仕えます!デス・キラー病を直してくれたあなた様なら、もう一度、奇跡をみせてくれるかもしれない...そんな気がします!どうかお願いします!」


 リューファンさんは慌てて土下座をしようとして、バランスを崩し、顔面から地面に落ちた。だが、そんなことはお構いなしに、そのまま片腕と片脚の無い姿で、ライル君の前で不格好な土下座をした。


 他の二人も同じように「俺も、お願いだ!本音を言えばまだ死にたくねえ!もう一度、活躍したい!あんたの助けになりたい!俺もあんたに仕える!」と、レイメントさんが、鬼気迫る表情でライルに訴えた。


 そして、「私も!もしも治していただけるのなら、この身を全部あなた様に捧げるます!」とソフィーナさんも、顔を歪めて泣きながらライル君に懇願した。


 その光景を見たゲドンちゃんは、「おらの役目じゃないな。ボウ爺とヒーリン、それにカンちゃんを連れて来るんだな。まずは奴隷の立場から救ってあげるといいんだな」とライル君に呟いた。


 ライル君も大きく頷き、「そうだね。僕も同じことを考えていたよ。ボウ爺とヒーリン、それにカンちゃんを連れて来てよ」と、ゲドンちゃんにライル君はお願いをしたようだ。


 私の目から見ても不思議だ。なんとなくライル君ならこんな無理なことでも何とかしてしまいそうな気がする。ライル君ならできる!ライル君...頑張って!



 そんな期待を込めて、ライルが今から行うことを心待ちにするモーリーであった...。

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