第3話 馬車の改造はスライムにお任せ⁉
景色がどんどん移り変わっていく光景に旅の醍醐味を感じる。ライルは馬車の旅が初めてであった。だから、自分が歩かなくても景色が移り変わることに魅了され、窓から外を眺めては、ニコニコしていた。
しかし、1時間ほど経つと、ライルはあることに悩み始めた。
それは...。
「モーリーさん、サルンサさん、その...お尻は大丈夫ですか?」と、ライルは表情を曇らせながら2人に尋ねた。
ライルの質問に対しモーリーが、「私の本業は冒険者だよ?馬車の旅でお尻が痛いのは当たり前だよ!でも、可愛い!後でお姉さんがお尻をナデナデしてあげるからね♡」と、ライルの目の前で手をわさわさしてみせた。
「も、もう、モーリーさんったら!」と、モーリーから逃げるようにサルンサの表情を見る。
「確かに痛いけど、こんなもんだよ。仕方ないよ?もう嫌になったのかい?引き返してもらうかい⁉」
悪気なくサルンサがライルに聞く。その言葉にライルは「お尻の痛みで困っているだけです!サルンサさん!僕を帰らせようとしないでよ!」と、頬を膨らませながらサルンサを見つめた。
「そんなつもりはないよ。もうここまで来たんだ、立派な仲間さ!でもライル、馬車の旅はこんなもんだよ?ドルは馬の手綱さばきが上手いから、まだマシだよ」と、サルンサはライルを真正面から見つめた。
「そ、そんなに見つめないで...恥ずかしいから」と、ライルは顔を赤くして目を逸らした。
ライルは、2人のおもちゃ状態。まあ、ある意味でガス抜きになって、いい存在かもしれないと、ハントは思った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ドルさんの腕とかじゃないですよ。この馬車自体の性能が...。ドルさん、一旦止めてもらえませんか?スライム達に協力してもらいますから!」
「おいおい、時間がかかっちまうだろう?後じゃダメなのか?」と、ハントが少しきつめにライルに迫った。
だが...。
サルンサが「まあ、いいんじゃないかい?スライム使いさんの実力も分かることだし」と言ってくれた。
ハントもそれもそうだな。スライムが手伝ってくれるとか言っていたしな。それも悪く無いかもしれないなと思った。
「よし、休憩だ!」と、ハントは言いながら、馬車の後方で馬を走らせているヨハンに、休憩のサインを送った。
「な、何だもう休憩か?」と、ヨハンは馬の手綱を引いて、スピードを落とした。
「ブルルルルルル」と、ヨハンの愛馬セランがゆっくりと主人を気遣いながら止まった。賢い馬だ。
馬車が止まった瞬間、ライルは待ちに待っていましたという表情で、持っている"スライムの笛"を上空に向かって高らかに鳴らした。
ピィィィィィィィィィィ...。
笛の音色は、遠くまで響き、澄んだ空に溶け込んだ。
その音色が響き渡った後、「この馬車をスライム街で走っている馬車の様にしたいんだ!皆んな、僕に協力して!」と、ライルは上空を見上げて叫んだ。
ライルの言葉を待ちわびていたかのように、5匹のスライムが突然、何もない空間から、ライルめがけて飛び出してきた。
「敵か」!と、ハントがロングソードに手を延ばそうとした時、ライルが慌てて5匹のスライムの前に立ちはだかった。
「違うよ!皆んなは敵じゃないよ!僕の仲間だ!攻撃しないで!」とライルは言って、様々な大きさのスライム達の前に立ち塞がった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
モーリー視点
「あ、あんなスライム、見たことないよ?ほ、本当にスライムなのかい?」と、ライルの周りでポヨーン、ポヨーンと跳ねているスライムちゃんを見て、サルンサ姐さんが思わず呟いた。
わ、私も見たことが無い!バーモンド共和国周辺やダンジョンでも、あんな形や色のスライムちゃんは見たことも、聞いたこともないよ⁉
サルンサ姐さんだけでなく、私も驚きを隠せない。何⁉あのスライムちゃんたち⁉
かわいい♡欲しい♡育てたい♡抱きしめたい♡
衝動が抑えられないよ~💦でも...。
「ライル君...あのスライムちゃんたち、大きすぎない?60cmはあるよね?あの子達って、ビッグスライムの間違いじゃないの?普通のスライムは灰色で、体長は30cmぐらいじゃない?後それに...」と、私はまだまだ、ライル君に直接聞きたいことがあった。
でも...驚き過ぎて、言葉に詰まってしまった💦
そんな私の代わりに、サルンサ姐さんがライル君に 「そうだよ、ライル!私も気になっているんだよ!なぜ、スライムがカラフルな洋服を着ているんだい⁉」と、サルンサ姐さんは顔を歪めながらライル君に問いかけた。
そう、5匹のうちの1匹は、カラフルなベストを着て現れた。さらに、ハサミやら針、それに糸などが身体の周りに浮いているスライムちゃんまでいる。
サルンサ姐さんの大きな声に、5匹のスライムちゃん達はライル君の後ろに積み重なった💦隠れているつもりだろうか....ライル君の頭からはみ出しているのだが...。気づかないふりをしてあげよう。可愛い♡う~ん、育てたい♡
「きゅ、急に大きな声を出して...サルンサさん?今来てくれたスライムの皆んなは、スペスラだから...。ちなみに、カラフルベストを着こなしているのは布スライムのヌーノ。スライム街のスライムたちは皆んな、オシャレさんだよ!ま、まさか、こっちの地方にはスライムがいないの?」
ライル君はすごく驚いた表情をしている。その表情はライル君がするんじゃなくて私たちがするの!あと、スペスラって何?訳が分からない💦
あと、身体の周囲にハサミやら針、それに糸などがふわふわと浮いているスライムちゃんは、裁縫スライムのチクチクちゃんと言うらしい...。
「私は仕事柄、バーモンド共和国以外にも布教活動で出向いたことがあります。しかし、洋服を着たスライムを見たことも、噂で聞いたこともありません。それに、あのような人に懐くスライムも...」と、ジュリーダ牧師様も困惑の表情を浮かべている。
ライル君以外の6人が戸惑っていると、スライムちゃん達が、ライル君の周りをポヨーン、ポヨーンと上下に跳ねだした。
様々なスライムちゃん達に囲まれたライル君が、「ごめんね皆んな。急に呼び出したうえに驚かしちゃって💦さっそく馬車の改造を頼んでもいいかな?」と、目の前のスライムちゃん達にお願いをした。すると...。
「「了解!!」」と、スライムちゃん達は馬車の周りに散らばった...。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「なに?今、「了解!」って言ったよね...。もしかしたら喋るのかい?それと"スペスラ"って、結局...何なんだい?」と、何とも言えない表情で、サルンサ姐さんがライル君を問い詰めた。
サルンサ姐さんに問い詰められ、少し怯えているライル君。可哀そうだけど...可愛い♡ライル君のウルウルした瞳が、私の母性本能をもう、くすぐりまくってくる。あー!守ってあげたくなる~!
頑張れ~、ライル君!サルンサ姐さんに負けるな!お姉ちゃんが応援してあげるから!
私の応援が伝わったのか、ライル君は少しサルンサ姐さんに怯えつつも、スペスラについて簡単な説明を始めた。
「スペスラっていうのは、スペシャルなスライム、特別なスライムの略ですよ。また今度、ゆっくりと説明しますね。とりあえず、今ここに来てくれたヌーノ、ジェラ、チクチク、鉄ちゃん、それにゴムン、皆んなは全て、スペシャルなスライムってことなんです!」
普通、スライムはこんな人に懐かない。特別なスライムっていうのは、何となく分かる気がする。魔物使いでも、スライムとこんなに心を通わせることはできないよ。ましてや、私が知っているスライムは、人間とコミュニケーションを取れるほど知能は無い💦
でも、この子たちは可愛い♡それに...プルンプルンしている!ライル君も育てたいけど、このスライムちゃん達もいい!私がお母さんになる!ライル君共々育てたい~♡ライル君、ここにいるスライムちゃんを1匹くれないかな?
お花畑満開の妄想をしていると、馬車の座席の上で跳ねていたスライムちゃんが、その場から離れた。ちょっと他のスライムちゃんより大きめかな?他の子は60m程だが、この子だけは90cmぐらいありそう。ああ、あと一匹、逆にちょっと小さめの子もいるかな?
スライムちゃんがいた座面の上には、何やら半透明の物体がのっている。もしかしたら、あれの上に座れってことかな?確かに柔らかそう。ライル君に聞いてみよう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ねえねえ、ライル君?あの座席の上の柔らかそうなモノの上に座るの?」と聞くと、ライル君は「そうだよ!ジェルスライムのジェラがジェルゼリーを馬車の座面と御者席用に出してくれたんだ。それにね、まだまだあるんだよ!」
ライル君が得意げにスライムちゃん達を見つめている。ライル君、可愛い~♡
すると、ジェラちゃんが置いたジェルの傍に、今度はカラフルなベストを着こなしたスライムちゃん、ヌーノちゃんが近づいてきて、何かを選んでいる。
「ヌーノちゃんは何をしているの?」とライル君に尋ねると、「布スライムのヌーノが、この馬車の座席に合う布を選んでいるんだ。ヌーノが選んだ布とジェルを、裁縫スライムのチクチクが組み合わせて、クッションを作るんだ。ほら見て、あそこ!」
本当だ!今度はいつの間にか現れたスライムちゃん、チクチクちゃんがハサミ、糸、針を使ってカットした布を、クッションカバーに仕立てている。
あっという間に完成したクッションカバーをジェルと組み合わせて、即席の座席クッションを作ってしまった。
す、すごい。流れるような連携作業でもう、座席クッションが完成している。まだ...10分も経っていないんじゃない?
「す、すごい!!すごいよライル君!もう作っちゃったよ!」と、ライル君の頭をよしよしと撫でた。「や、止めてよ!は、恥ずかしいから💦」と言って、ライル君はスライムちゃん達の方へ逃げてしまった...。
ぶ~。
小さくちぎった"干し芋"を食べさせてあげたい!親権を譲ってくれないかしら?
ライル君に逃げられてちょっと不貞腐れている私に、サルンサ姐さんが「モーリー、よく見てごらんよ!クッションを作るだけでなく、馬車本体にも何かをするようだよ!」と声をかけてきた。
サルンサ姐さんも、どこか楽しそうだ。
馬車に目を向けると、木製の車輪には灰色のクッションの様な物が付着している。更に、車軸付近には、金属のうねうねとしたモノが、取り付けられている。何なのあれ?
ライル君に逃げられない様に、背後からこっそりと近づくと、物作りが大好きなドルに、馬車の改造について説明をしている。私が聞いてもちんぷんかんぷん何だが...。
何でも、金属スライムの欽ちゃんがすぷりんぐ⁉というモノを作って、馬車の上下の揺れを少なくして、更に、ゴムスライムのゴムンちゃんが木製の車輪にゴムを巻き付けて、衝撃を吸収させるんだって。
う~ん。要するに馬車が揺れなくなった、そういう事らしい。
そんなスライムちゃん達の活躍を、ただただ、私たちは見入っていた。
60cmほどの物体がポヨーン、ポヨーンと跳ねて作業する姿は、非常に癒される♡う~んライル君、やっぱり1匹ちょうだい!ちょうだい!あの、他の子達よりもちょっと小さな、鉄ちゃんでいいから、私にちょうだい!
まあ、それでも体長は、40cmほどはあるけど...。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
正味20分ほどの作業。どうやら馬車の改良が完成した様だ。
ライル君の周りにスライムちゃん達が集まって、また跳ねている。ふふ、本当に可愛らしい♡「ライル~、もうすぐ完成!」って言っている。仲良くていいな。羨ましいな♡
「皆んな、乗ってみてだって。乗り心地が悪かったら直すからって」
いいな~ライル君。あのベストを着ている子、ゆずってくれないかな~。
「ほらほら、モーリーも乗るよ。ぼおっとしてないで!」と、サルンサ姐さんに叱られてしまった。
馬車の中に入ると、ヌーノちゃんが選んだ布もオシャレだし、それを使ってチクチクちゃんが作ったクッションは、馬車の中にすごくマッチしている!
あと、凄い...なにこれ...振動を殆ど感じない。本当に馬車は動いているの?
さっきまで、臀部に襲いかかって来た攻撃が無くなっている⁉すごい!可愛くて優秀なスライムちゃん達。大人買いしたい!
「凄いよ!馬車が全然揺れないよ!あんなに痛かったお尻が、今では懐かしいよ!」と、サルンサ姐さんも大絶賛!!
ヨハンも「鞍用のクッションを作ってもらったけど、全然違う!痛くねえ。こりゃありがたい!すげえスライム達だな。いや、あんなすごいスライムを呼び出せるライルもすごい奴だな!」と、ヨハンもライルを誉めちぎっている。
分かる分かる。全然違うもん!さすが私の弟分!お姉さんが後で"よしよし"してあげないと。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ジュリーダ牧師様もハントも、スライムちゃん達に感謝して頭を下げた。ハントは、鞍のクッションが気に入った様だ。するとスライムちゃん達は、ライル君の周りで小さな声で何かを話しながら、ポヨーン、ポヨーンと跳ねている。
「欽ちゃんたちがスライム街に戻るって。何か困ったことがあったら、いつでも呼んでね」と言った様だ。
え~帰っちゃうの?一緒に旅をしてくれればいいのに。う~ん残念!
スライム街に戻ろうとするスライムちゃん達に、大きな声で「「ありがとー!」」と、両手を大きく振って皆んなでお礼を言った。すると、スライムちゃん達は「またね~!」と返事をして帰って行った。
あ~あ、帰っちゃった。もっと一緒にいたかったのにな~。
でも、ライル君が傍にいてくれれば、いつでもあの可愛らしいスライムちゃん達に会えるよね⁉
う~ん、いい!楽しい!何だかテンション上がるし、開拓も上手く行きそうな気がする!
モーリーは楽しさが爆発し、少しの間、皆んなの周りをピョンピョンと飛び跳ねていた。
次回は...スライム街のお話...。しばしお待ちを...。
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