第2話 旅立ち バリジン森林地帯へ
「結局、これだけか...」
X511年4月の10日、出発の朝に集まったのは6人だけだった。メンバーは俺と俺の妻となったサルンサ、そしてジュリーダ牧師。更には俺が手塩にかけて育て上げた冒険者グループ、"戦場の夜明け"のメンバー達も参加してくれた。
戦場の夜明けのメンバーたちが、この開拓案件に参加してくれたことは、非常に心強い。
戦場の夜明けのリーダー、ヨハンは人族でランクDの剣士。彼はまだ24歳と若く、身体のラインは細いが身長は180㎝を優に超えている。性格は温厚で、周囲の状況を適切に判断ができる。
ただ、ヨハンはもっと肉をつけたいと言っており、細い身体を気にしている。そのためか、暇があると黒パンを口に放り込んでいるが、なかなか太れない。
しかし、その細身の身体からは想像もつかないパワーを発揮する。もうオーク並みで、その力を活かして両手剣のフォルクスを軽々と扱う。
前衛でタンクと攻撃役を兼ねるランクDの盾士、酒飲みのドル。ドルはドワーフと人族のハーフだとか。だから、一般的なドワーフよりも身長が高く172,3cm程ある。体格は樽型で顔つきは老け顔だが、驚きの23歳。
ドルは武器の手入れと改造もお手の物。愛用の武器、"ビッグカイトシールド"の表面には、ドリル状の突起が無数に付けられており、突進攻撃の威力を倍増させている。
また、ドルは豪快な性格で、"酒を酌み交わせばフレンド"が口癖な男。お手製のスキットルを肌身離さずに持ち歩いている。
どんだけ酒が好きなんだよ...。
さらに、後衛で風の魔法を得意とする、魔術師ランクDのモーリー。
このメンバーの中で唯一の女性であるモーリーは、いつもヨハンやドルをつかまえては、楽しそうに話している。
モーリーは人族で、まだ20歳と若い。髪型はショートボム、大きな丸目が卵型の顔に映えている。反対に小さなぽってりとした唇。好奇心旺盛で可愛いモノには目が無い。
野良猫や犬を拾って来てはヨハンとドルに叱られ、泣く泣く元の場所へと戻しに行く。
口癖は"いつか動物たちを安心して飼える家を建てる!"らしい...。
身長はドルと同じくらいで、サルンサにはちょっと及ばない。しかし、スリムな体型のため、ドルと並んでもモーリーの方が高く見える。あとお胸は...サルンサといい勝負...だと思う。
"戦場の夜明け"の全員が深緑色のタバードを着こなしており、その仲の良さが伝わってくる。
"戦場の夜明け"のメンバー達の参加はでかい。戦力になるし、3人の性格もいい。集団生活では戦闘能力も重要だが、それ以上に人間性が重視される。こいつらとならどんなに長く一緒にいても、うまくやっていけるだろう。
ただ、ヨハンがお酒を飲みながら、「後払いでもいいから、仮に開拓地が発展したら報酬を上げろ!」と、半分本気でせがんできたけど...。
「大丈夫だ、使うところなんてない」と言うと、「やっぱりやめていいか?」と、ヨハンは何とも不安そうな表情で俺に言ってきた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
後、「私も皆様と一緒に、連れて言って下さい」と、まさかのジュリーダ牧師様も現れた。もう御年は50歳を超えておられるが、まだまだ元気いっぱいの牧師様だ。
アマラス村の聖職業を若手に譲り、自分は新たな地での布教活動に向かうという、超アクティブな牧師様。
いつもは物静かで温厚な性格だが、若かりし頃から布教の旅を行っていた為、戦闘も出来る冒険者顔負けな牧師様だ。本人曰く、"回復魔法も骨折程度までなら治せる"とおっしゃられる。非常に心強いお方だ。
あと、お酒も強い。ドルとうまくやっていけそう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ゴーン―ゴーン―、ゴーンーゴーン―ゴーン―
さあ、出発を知らせる朝8時の鐘が鳴り響いた。この鐘の音は、300年前から変わらないらしい。
このアラマス村に来た先住民たちが設置したモノらしい。俺たちも開拓した土地で、鐘の音色を聞くことが出来るといいのだが...。
アラマス村の門の前には、数十人の見送りの者たちが集まってくれた。その殆どがサルンサの友人や知人ばかりだ...。
「サルンサ、元気でな!」
「サルンサ!よかったね、やっとこあんたの想いにハントが覚悟を決めて!」
「サルンサ、おめでとう!」
サルンサはとても嬉しそうだ。辛い旅になるとは思うが、この笑顔を保ち続けてやらないとな。
そんなことを考えながら、サルンサの美しい横顔を見つめていると、「何だいあんた⁉私の顔になんかついているのかい?」と、頬を赤らめて尋ねてきた。
「いや、なんでもない...」と少し俯いて答えた。
「「相変わらず...綺麗だよ♡」って言うんだよ!気が利かない男だね...」と、魚屋のモンバイ婆さんが、すかさず茶値を入れてきた。
みのがさねぇな、この婆さん...。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
あーあ。こんなもんか。もう参加者が増えるとは思えねえし...。出発の時間も過ぎた。そろそろ出発だ...。しょうがねえ、行くか...。はぁー。行きたくねえな。
「おーい!待ってってば!僕も行くって!」
大きなリュックに沢山の荷物を詰め込んだ少年が走って来た。
「ちょっと待って下さい!僕も行きますってば!あれだけギルドで参加するって言ったのに、置いて行くなんて酷いじゃないですか!」と、彼は両手を振りながらこちらに向かってた。
「確か、スラム街で育ったとか言っていた坊やじゃないかい?不憫な子だね...優しくしてやるんだよ!」
サルンサはヨハンに向かって、鋭い声で威嚇した。
「こわ!い、いじめねーよ💦そんなことをしたら、このバーモンド共和国に住めなくなっちまうだろ!」と、ヨハンは言い返した。
「でも...ここら辺に"スラム街"なんてあるかい?まあ、皆んな貧乏だから、"スラム街"みたいだけどね。あっははははははは!」と、サルンサは豪快に笑い飛ばした。
すると、2人の話を聞いていたライルが「ちょっとお姉さん!僕はスラム街で育ったんじゃないですって!スライム街で育ったの!間違えないで!全然違うんだから!」と、頬を膨らませながら、サルンサに抗議をした。
「ごめん、ごめんよ。ライルだったね。皆んなに挨拶をしておくれよ。知らない連中もいるだろうからさ」と、サルンサはライルに向かって笑顔で謝り、周りにいる開拓地に向かう参加メンバーを見渡した。
サルンサに促され、大きなリュックを背負ったライルは皆んなの前で、「ライルです。スライム街で育ちました!ボクは大丈夫!自分の身ぐらい自分で守れます!だから、開拓に一緒に連れて行って下さい!」と元気よく伝えた後、深々と皆んなに向かってお辞儀をした。
その拍子に、大きなリュックから色々なモノが地面に落ちた...。
「あー鍋が落ちちゃった💦」と、一人でバタバタやっている姿を見て、残りの6人は顔を見合わせる。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
見た目はまだあどけなさが残る少年。髪型はマッシュパーマ風で栗毛色。目がクリンクリンで、好奇心旺盛な感じがもろに顔から現れている。目の感じは、うん。モーリーにそっくりだな。
モーリーは好奇心の塊のような娘だ。そんなところも似ているのかもな...。
ライルは身長が165cmほど、スレンダーな体型。サルンサを一回り小さくした感じ。胸も同じ位だな...。
ハントはサルンサとモーリー、それにライルを交互に見つめた。
まあ、顔の感じはモーリーで、体格は胸を含めてサルンサを一回り小さくしたもんか、と一人で納得している。
その視線と、ハントの考えを感じとったのかサルンサが、「あんた、失礼なことを思っていないかい?」と、鋭いツッコミをして来た。
「な、何も思っていないって」と慌てて否定した。
まだ、ジト目でサルンサは俺を見ている。ふー。昔からサルンサは勘が鋭い。危ない、危ない。
他の者たちが心配そうにしている表情を読み取ったのか、ライルは「本当に大丈夫ですって!ボクには力を貸してくれる仲間たちが沢山いますから」と言ってきた。
「え~、ライル君って"精霊様"を操れるの?」と、ライルの前でモーリーが顔を近づけながら聞いた。
少し頬を赤くしながらライルは「いやいや、"精霊様"など操れませんよ!」と、手と首を色々な方向に動かして否定した後、「ボクが扱える、いえボクが呼び出せるのは、友達のスライム達です!ボクのお願いを聞いてくれるんです!」と、モーリーに笑顔で伝えた。
「スライムが助けてくれる?"魔物使い"なの?」と、首を傾けライルにさらに尋ねる。少し頬を赤らめ「"魔物使い"でもないですよ。しいて言うならば"スライム使い"です」
「う~ん、よく分からないけど、本当に危険だよ?皆んな、ライル君を守ってあげられないけど、本当にいいの?」
そんなモーリーの心配をよそにライルは「ボクが、逆にお姉さんを守ってあげるから大丈夫!」と力強くモーリー返事をした。
モーリーは「可愛い!!この子私が育てる~!」とライルを思いっきり抱きしめた。
「連れて行こ~♡癒しキャラが、絶対一枠必要だって!私が責任をもって育てるから!」と、ヨハンとドルの顔を見ながら告げる。
「捨てるなよ。最後まで面倒を見るのじゃぞ...」とドルに言われると、モーリーは嬉しそうに「うん♡」と言って、ライルをさらに力強く抱きしめた。
「「猫じゃねえって...」」
俺とヨハンはハモってしまった...。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
もう知らん。自己責任だ。「じゃあ行くぞ!皆んな遅れをとるなよ。ライルとジュリーダ牧師、それに、サルンサにモーリーは馬車に乗り込んでくれ。御者はドル、頼む!俺とヨハンは2頭で前後をはさんで出発だ!」
「気を付けるんだよ~!」
「危なかったら、サルンサを命がけで守るんだよ!」
「さあ、出発、出発っと!」と、モーリーやライルが楽しげにアラマス村の門を出て行く。
そんな2人の背中を見つめながら、深いため息をつくハント。今日の目標は、バリジン森林地帯の入り口に続く橋の手前まで進むことだが...。何かが起こりそうな不穏な予感が、俺を襲う。
はぁ~、行きたくねえな。
心の中で盛大なため息をもう一度吐き、ライルたちとは対照的な重たい足取りで、アラマス村から旅立つハントであった。
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