第9話 ノスタルジア

「ポリツ、この歌詞なんか鼻の奥にツーンと来て胸部がキューってなるね。」


振り付け師のウアウアが曲に合わせて踊りながら言う。


「ああ、それは古代種族の恋愛って言われた心の動きを描いているからだね。」


「現在の繁殖行動をしない高度知性体の種族には具体性はないけれど直接DNAに響いて先祖返りのような情動を起こすことが出来るんだよ。」


なんかそう説明されるととても不思議だ。


どの種族にも古代には繁殖のための求愛行動があったって事だね。


「じゃあさ、今の私達の関係ってどう表現するのかな?」


アカシックネットワークで繋がりを持った第4種知性体以上の種族に家族や血族、恋人といった関係は存在しない。


殆ど全てがワンオペで可能な時代において組織やグループ、も本来はなくてもいい概念だ。


「家族とか友人とか言う情緒的な繋がりではなくむしろ企業の一部署とかプロジェクトチームに近いのかな?」


ポリツが言葉を捏ねくり返している。


部署やチームであっても帰属意識は出来るしなんらかの精神的な依存はあるかもしれない。


どう理屈を連ねてもそういった情動的なものから逃れきれないところが面白いんじゃないかな?


深い、遠い、時間と距離を超えた記憶は何か理由や形状の付け難いエモーションとなって心だけではなく体までも突き動かすんだよね?


それはウアウアがその身を持って実践している。


ウアウアの母星ノニジュリは遠い昔に恒星の超新星化に巻き込まれて失われている。


流浪の種族となったノニジュリ星人は今はアグウグ帝国に所属している。


ノニジュリ星人のボディランゲージは地殻活動が激しくやかましい惑星上では必要な伝達手段だった。


「うん?違う?」


「そこ、右手をもう少し上に上げて。」


クミンがウアウアに新しい振り付けを教えてもらっている。


「ウアウアも一緒にステージに出てくれればいいのに。」


あんなややこしい動き良く覚えられるなとは思うが、第3種知性体の能力では大したことないではないそうだ。


「私が踊ってもクミンみたいに喜ばれないし。」


「そうかな?かっこいいけどな?」



踊っていると失われたノニジュリ星の記憶なのだろうか?ツーンと鼻の奥に蘇る匂いのようなものが突き上げてくる。


不安定でいつも地鳴りのような音が響いていた少しもいい事がなかった母星。


かつては恵みの光を与えていた恒星が膨張してノニジェリ星を飲み込んで行くのをアグウグ帝国の航行器から見た。


ノニジェリ星だけではなく長い年月をかけて開拓して住める様にした他の衛星も次々と恒星の光の中に飲まれて行った。


それでも懐かしいって思うもんなんだな。

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