お礼?

 なんで僕はこんなところにいるんだろう?


 そう思わずにはいられない今日この頃。

 何せ、僕の目の前には豪華な食事が並んだ長いテーブルにキラキラとした装飾と、肖像画が目立つ壁紙が広がる部屋にいるのだから。

 先程までパーティーの壁役、女の子救出作戦、尋問って中々ハードな日々を過ごしていたというのに───


「あ、あのっ! 遠慮なさらずにどんどん食べてくださいっ!」


 長いテーブルの対面には、公爵家のご令嬢であるソフィアさんの姿。

 横には同じ使用人らしき人……あと、僕の後ろにも同じような人達が。

 なお、アリス様達はこの場にいない。何やら二人きりで話したいらしく、リゼ様は「お泊まり会の準備をしておくから早く帰ってくるのよ」と言って先に帰ってしまった。


 ……帰りは僕一人だけ。

 ぐすん……一生に残る夜を過ごすためにも、早く帰らねば。


(とはいえ……)


 チラッと、僕はソフィアさんの方を見る。

 とても可愛らしい方だ。リゼ様とセレシア様は美人枠だけど、この子はアリスと同じキュートな感じ。

 だが、見た目に惑わされることなかれ。

 相手は貴族の中でも王族に続くトップ層。平民の僕がおいそれと話していい人じゃない。

 にもかかわらず───


「あ、あの……よろしいのですか? 僕はその、壁際に立っているような人ですけど……」

「平民であろうが関係でありません。あなたは私の命の恩人ですから!」

「は、はぁ……」


 そう言ってくれるのはありがたいけど、なにぶん初対面の人&お貴族様。

 リゼ様の時はすんなりと迎え入れてくれたから馴染みやすかったけど、こうもおもてなしされてしまうと妙に緊張してしまう。

 しかし、そんな緊張を滲ませていると、対面に座るソフィアさんが申し訳なさそうな顔をした。


「やはり、私との食事は嫌でしたよね……」

「いや、そんなことは───」

「そもそも、急に呼び出した時点で失礼ですもんね」

「あの───」

「それに、食事も勝手に提供して嫌いなものだってあるかもしれませんのに……」

「………………」


 ダメだ、人のことは言えないけど話を聞かないこの子。


「いえ、本当に嫌とかでは! 単にこんな場は初めてで、緊張してしまうというか……」

「そ、そうなんですねっ!」


 よかったです、と。胸を撫で下ろすソフィアさん。

 その姿が愛らしくて、何故か一瞬だけドキッとしてしまった。


「ですが、こんな場を用意していただいて本当によかったんですか?」


 明らかに来賓クラスのおもてなしを受けているけど。


「先程も言いましたが、命の恩人に対しては当然の対応です。もしもあのまま誘拐されていれば、どうなっていたか分かりませんから」


 そ、そう言われても……緊張するものは緊張してしまうというかなんというか。

 そもそも───


「危ない目に遭いそうな人がいたら助けるのが当たり前ですし」

「ッ!?」

「あと、他の人でも同じようにしたと思いますよ」


 現に騎士団の人が助けようと動いていたらしい。

 僕があの場にたまたまいたから僕が助けたのであって、特別扱いされるようなものじゃないと思う。

 だけど───


「……あの場に誰がいたかなど、仮説はどうでもいいのです」


 、真っ直ぐにソフィアさんは口にした。


「あなたが助けてくれた。この事実が現実で、私はあなたに感謝しているのです」


 隣にいる使用人の人が、同意するように首を縦に振った。

 後ろもチラッと見たけど、皆同じような視線を僕に向けている。

 ……流石にここまで言われて、こんな視線を向けられると素直に受け取らないわけにはいかない。


「……ありがとうございます」

「こちらの方こそですよ、サク様」


 柔らかな笑みを浮かべるソフィアさん。

 すると、何故か今度は急にあたふたし始めて───


「あっ! 恩人に対して生意気な言葉を吐きましたよね!? ごめんなさい失礼な態度でした!」

「いやいや、そんなことないです微塵もそんな様子なかったです!」

「で、ですが本当に感謝しているんです! 誰にでもできるようなことではないですし、サク様だから一人でも助けに来てくれたんですそれを言いたかったんです!」

「分かりました本当に分かりましたから頭を下げないでください生きた心地がしませんっ!」


 ペコペコと、ソフィアさんが頭を下げる。

 おもてなしされているのに、何故こうも心臓が締め付けられる気分になるんだろう?

 ……きっと、無意識にこの光景を誰かに見られでもしたらといった恐怖があるからだね、うん。

 もし、アリスにこんな光景を見られたら「なんで頭を下げさせてるの! ダメだよ、いくら恩人だからって相手は女の子でお貴族さんなんだから!」って言われそう……完全に勘違いなんだけど、間違いなく勘違いされそうな構図ではある。


「そ、それより早速いただいてもいいですか!? 美味しそうで涎が止まらなかったんです、えぇ!」


 僕は話を変えるようにフォークとナイフを手にして尋ねる。

 すると、ようやくソフィアさんは頭を上げてくれて───


「ご、ごほんっ! そうでしたね、失礼しました……どうぞ、好きなだけお召し上がりください」


 ようやく落ち着いてくれたソフィアさん。

 話を逸らすために言った言葉ではあるけど、目の前に並べられた料理はどれも「豪勢」の一言で、一度も食べたことでないあろうものばかり。

 正直、先程から食べられるものなら食べてみたいと思っていた。


(……にしても、ソフィアさんかぁ)


 公爵家のご令嬢で、アリスや僕の二つ下の女の子。

 可愛らしいんだけど、どこか……その、面白い人だなぁって思わずにはいられなかった。




「……すみません、テーブルマナー分からないです」

「ふふっ、気になさらなくても結構ですよ、サク様」

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