土下座
屋敷に戻ると、案の定騒然としていた。
あとから聞いた話だけど、彼女の名前はソフィアさんって言って、このパーティーの主催者らしい。
つまるところ、少し目を離した隙に主催が消えてしまった一件。そりゃ、騒ぎにならないわけがない。
僕達が戻ってきた時は、それはもう大変だった。
誘拐犯だと僕が疑われ、小一時間質問攻めにあって、途中は「平民が魔法を?」なんて最近聞き慣れたフレーズが並べられた。
ソフィアさんが「彼は恩人です!」って言ってくれたからある程度をしたら解放されたけど……僕が気にしなきゃいけないのはそこじゃない。
目下、僕には大きな問題があるのだ———
「この度は、本当に申し訳ございませんでしたッッッ!!!」
人がいなくなった公爵領の庭にて。
僕は全力で自分の額に芝生の感触を与えていた。
目の前には、綺麗に着飾ったアリスやリゼ様、セレシア様の姿がある。
「サクくん、その……顔上げてよ」
どうして僕がこんなことをしているのか?
それは、護衛としての仕事を放棄して彼女達から離れてしまったからだ。
使用人……いや、護衛であれば片時も守るべき人間の傍から姿を消してはいけない。
にもかかわらず、僕はソフィアさんを追ってしまったんだ。
傍付き云々の前に、職務放棄で王城の使用人生活が終わってしまう可能性が……クビにならないためにも、彼女達に許しを得なければ……ッ!
「あのね、サクくん……別に私達は怒って―――」
「申し訳ございませんでしたッ!」
「いや、だから―――」
「申し訳ございませんでしたッ!」
「……………」
「申し訳ございませんでしばッ!?」
おかしい……いきなり後頭部に鈍器で殴られたような鈍い音が。
「もうっ! だから怒ってないって言ってるじゃん!」
顔を上げると、可愛らしく頬を膨らませて可愛らしくもない割れた瓶を手にしているアリスの姿が。
もしかしなくても、僕は頭を上げさせるためにあの瓶で殴られたんだろうか? やれやれ、中々アグレッシブなツッコミをするお嬢さんだ。
「サク様、私達は本当に怒っておりませんよ」
「え、でも僕は職務放棄したんですけど……」
「人助けをしたのに怒っちゃったら、私達が非道みたいじゃない」
リゼ様とセレシア様がしゃがんで僕の頭を撫でてくれる。
「逆によく助けてくれたわね、偉いわよ」
「ふふっ、流石はサク様です。危うく一大事になるところでした」
二人の労いに、思わず瞳から涙が零れてくる。
クビになりそうだったっていう心の疲弊から一気に優しくされた。これはもう涙が出るのは仕方ないだろう……後頭部が痛いけど。
「っていうか、私達が何かを言う前に、公爵様に感謝されたんでしょ? その時点で、いいことしたって思うのが普通じゃん」
アリスもしゃがんで僕の顔を覗きこんでくる。
「いや、別に公爵様からは何も言われてないけど」
「え、そうなの?」
「うん、ずっと騎士さん達に捕まってたよ、僕」
そういえば、ソフィア様も途中からいなくなったような? 恩人なんです! って言われて以降、顔を合わせていなかった気がする。
まぁ、本来貴族……それも、公爵家の人間と顔を合わせること自体平民には恐れ多いことだし、そもそもお礼を言われたいから助けたわけじゃないからいいんだけどね。
「礼儀がなってないわね……うちのサクに助けられたっていうのに」
「私の
「ふふっ、これはお説教確定ですね」
いけない、お姫様三人の目が普通に笑っていない。
「そ、それより! 僕、見たんですよ!」
僕は慌てて話題を逸らす。
このままだと、三人が何をしでかすか分からないから。
「見たって、何をかしら?」
「『幽霊』です!」
ピクッ、と。三人の眉が動く。
「本当なのかしら?」
「はい、多分あれは騒動の中心にいるやつだと思います」
姿が見えず、対象の姿を消す。
間違いなく魔法だろうけど、あれを使えば急にいなくなったって話も辻褄が合う。
姿が消えて、姿が見えなければ一緒にいても誘拐犯を目撃していないのも頷ける。
もちろん違う可能性だってあるけど、こんな短期間で情報が被ったんだ。恐らく間違いないだろう。
「……その話、帰って詳しく聞かせてもらおうかしら」
「もちろんです」
「っていうわけで、今日は私の部屋でお泊りね」
「はぁ!? 何言ってんのリゼちゃん!?」
「もちろんです!!!」
「食い気味に反応するなサクくんっ!」
もう、一日中ずっと語り合ってもいい。
情報が底を尽きそうになっても、美少女とのお泊りのためなら時間稼ぎの一発芸も辞さない……ッ!
「っていうことなら、私もお泊りする! うらやま……ごほんっ! 未婚の女が男と安易に一緒に寝泊まりしちゃダメなんだよ! っていうか王女でしょあんた!」
「あら、それならば私も一緒にお泊りしましょうか。仲間外れは寂しいですし♪」
「なら決まりね」
「よっしゃっ!」
リゼ様だけでなく、アリスやセレシア様まで。
きっと、今日の夜は忘れられない一日になるに違いない。
だから、僕は思わずガッツポーズを見せてしまう。
その時———
「あ、あのっ!」
ふと、背後から声がかかる。
振り返ると、そこには先程まで一緒にいたソフィア様の姿があった。
「少し……お時間よろしいでしょうか、サク様?」
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