任務、続行

 地下水路は街全体の下を這う迷路のような場所だ。

 整備のための灯りしかなく、全体的に薄暗い空間になっており、基本的に地図がないと迷子になってしまいそうなもの。

 もちろん、リゼ様が事前に地図をもらっていたので僕達は迷子になることはなかった。

 ただ───


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!???」

「鼠ですね」

「これまた珍しい魔獣です」

「感染力が高いから、触らないよう警戒しながら歩きましょう」


 鼠型の魔獣が現れたり、


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!???」

「コウモリですね」

「ここの地下水路の生態が少し気になってしまいますね」

「これも感染力が高いから、触らないようにね」


 コウモリのような形をした魔獣が現れたり、


「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!???」」」

「ぐぺっ!?」


 またしても虫の魔獣が現れたりと、それはもう小型の魔獣の巣窟のようになっていた。

 ちなみに、虫型の魔獣が現れた際、誰かのホールドによって僕の首があらぬ方向に向きかけたのは余談だ。

 可愛い女の子が「怖い」とお化け屋敷で見せる乙女な一面を見せてくれたと思って、その時は首の痛みを甘んじて受け入れることにした。


 そんなこんなで、地下水路の探索は続いていく───


「本当に多いですね、ここ。よく街の人が無事だったもんだ」


 五本の指先から糸を垂らし、コウモリに向かって振るう。

 それぞれが糸の尖端に触れた瞬間、手元から電気を流して的確にコウモリを焼いていく。


「ここまで多いと、流石にただのオカルトで終わらせたくないわね……」


 リゼ様は詠唱することなく石の礫をコウモリに放っていった。

 魔法は詠唱が基本。その中で無詠唱として扱うには得意不得意が存在する。

 きっと、リゼ様は土を扱う魔法を得意としているんだろう。魔法を放つまでの動作や時間に無駄がなく、何度も扱っているような洗礼さが見て窺えた。


「と言いつつ、小一時間経ちましたが今のところは目ぼしい情報も得られませんでした。いっそのこと、噂の『幽霊』を拝んでみれば話は早いのですが」


 セレシア様は、そんな僕達を壁際で傍観している。

 そういえば、先程から僕とリゼ様ばかり戦っていてセレシア様が戦っている姿は見ていないような……?


「あの、セレシア様は戦わないんですか? いや、もちろんこういう仕事って下っ端の役目ですし、文句とかではないんですけど……」

「ふふっ、単純に効率ですよ。倒せるのは倒せますが、ので、水路を壊してしまう可能性があるのです。そのリスクを背負って戦うよりも、他の方に任せた方が賢明だと判断しました」


 なるほど、確かにここで大きな被害でも出れば上が崩れて街まで被害が出てしまう。

 副団長クラスの魔法士がどんな魔法を使うのか気になっていたけど、こればかりは仕方ない。

 でも、威力が高い魔法ってどんななんだろう? あとで教えてもらえたら教えてもらおう。

 それにしても───


「……アリス」

「ぴゃっ!? も、ももももももももももう終わった何も出てこない!?」


 ……この限界を迎えて膝を抱えているアリスはどうしよう?

 女の子らしくて守ってあげたい欲に駆られてしまうけど、これで任務を仮に達成しても果たしてアリスのポイントになるのだろうか?


「サク様、先程から少し気になっていたのですが」


 怯えているアリスの頭をなでなでしながら、セレシア様が尋ねてくる。


「サク様の周りを覆っているつづらのような水の線は、どういった魔法なのでしょうか?」


 視界を確保できるぐらいの透明度の水の塊。

 ずっと展開している僕の魔法が、どうやらセレシア様は気になっているらしい。


「セレシア様、適当に石でも投げてもらえますか?」

「分かりました」


 頷いて、セレシア様は近くにあった石を拾い、野球でもするかのようなフォームで……待って、そこまで全力で投げてとは言ってない。


「てりゃ!」


 可愛らしい声と共に、放たれた可愛げのない勢いの石は僕のつづらに触れる。

 すると、石は触れた瞬間に粉々となって地面へ落ちてしまった。


「こんな感じで、自動オートで守るような形の魔法です。こんな薄暗い空間、いつ不意を突かれるか分かりませんから」


 限界まで圧縮した水を周囲に流し続ける。

 そうすることによって隙間にすら入れない物体は弾かれ、触れた部分から削られていく。

 僕が日常的によく使っている高圧のカッターを、つづらのように張り巡らせていると考えてくれたら分かりやすいかもしれない。

 本当は皆まで囲えるようにしたいんだけど、流石にまだそこまでは魔法を拡大できていない。情けない限りだ。


「ふむ……素晴らしいですね。水を扱う魔法士は何人か知っていますが、ここまで熟知し、洗礼されている魔法士は初めて見ました」

「いやー、それほどでもー」


 王女様に褒められて、思わず照れてしまう。

 今まで蔑まれていることが多かったからか、こういうのは新鮮でどこかこそばゆい。


「(これは、リゼには申し訳ないですが私もほしくなってしまいますね……)」


 ただ、最後に何か言ったような気がしたけど、魔獣に気を取られて聞き取ることができなかった。

 あまり僕に関係のない話だったらいいんだけど―――


「サク、まだまだ頑張るわよ。調査が途中で終わるにしても、少しでも減らしておきたいわ」


 まずは、目の前の害獣に集中しよう。

 そう思い、僕は再び指をコウモリに向かって振るった。

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