地下水路で
―――で、話は戻る。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!! むりむりむりむりむりむりぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」
アリスの作った氷のドームの上を、虫型の魔獣が這いずり回る。
氷を掻く「カリカリ」という音が連続して響き、もう外の景色など虫が邪魔でよく見えない。
咄嗟に入り口付近は逃げていかないよう僕が塞いだけど……なんていうか、絵面が酷かった。
「む、虫……虫」
「あ、あははははははっ……私、ここで死ぬんだわ」
おかげで、最強クラスの
「……お二人共、虫は苦手なんですか?」
「……苦手ではないように見えますか?」
あ、はい……すみません。
「幽霊ならまだしも、何故虫がこのように……私、虫型の魔獣の討伐任務は全て受けないようにしていますのに……」
「私だって、こいつらが相手だったら絶対に受けてないわよ……」
氷のドームだがら故か、透き通った氷越しに見える虫が彼女達の心を折にきている。
女の子は虫が苦手ってよくある話ではあったけど、まさかここまでとは。
「サ、サクくん……今までありがとう。棺桶には砂糖菓子をいっぱい詰めて燃やしてね」
いけない、早く進まないと一人がこの世の別離を本当に受け入れ始めてしまう。
「さっさと奥に行きません? なんでこんなに魔獣がいるのかは知りませんけど、それらも原因追及しないといけないですし」
「どうやって進めばいいっていうのよ!?」
「いや、倒していきましょうよ!?」
別に絵面が酷いだけであって、大した強さもないわけだし。
それこそ、三人だったらなんの苦労もなく倒せるはずだ。
「サク様……確かに倒せるのは倒せますが」
むぎゅ、と。僕の腕にセレシア様が抱き着いてくる。
「見るだけでも不快なのに、魔法なんて向けられるわけないでしょ……」
むぎゅ、と。さらに反対側からも。
力強く抱き締められているからか、腕に溢れんばかりの柔らかな感触が襲い掛かってきた。
「サクくん私もう無理お家帰りたいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」
そして、今度は背後からアリスが腰に思い切り抱き着いてくる。
美少女三人からの多大な
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? むりむりむりむりむりサクくんお願い助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
「ご、ごめんなさい……私はもう無理限界……あとはお願いね、サク……」
「……サク様、初めましてから申し訳ないのですが……絶対に、手を離さないでくださいお願いします」
女性三人からの悲痛なお願い。
「……
これは断れない性格云々の前に、僕がどうにかしないと本当にここで夜を過ごしてしまう羽目になりそうだ。
加えて、ここままだと僕の背骨と上腕骨が踏んでしまった砂糖菓子の如く砕ける羽目になる。
だから僕は一つため息を溢して、床を一回小突く。
すると、塞いでいた水の壁を中心に氷のドームを覆うほどの水流を放出させた。
群がっていた虫と這いずり回っていた虫は激しい濁流に押し流され、勢いが止まった頃には見晴らしのいい水路が広がっていた。
「「「…………」」」
女性三人はいなくなった虫達を確認し、しばらく呆ける。
でも、すぐさま自分が異性に激しくくっ付いているのを思い出して、顔を真っ赤にしたまま急いで僕から離れた。
そして、アリスが何故か僕の方を見て───
「な、なんてことない相手だったね、サクくん!」
なんてことあった相手だったよ。
「………………」
「な、なんだよぅそのジト目は惚れちゃったの惚れちゃったんでしょ!? そんな瞳を向けられても怖かったなんてわけないから……ねぇ、リゼちゃん!?」
「え、えぇそうね! さぁ行きましょうか!」
「そ、そうですねリゼの言う通りです! 早くしないと、夜会に遅れてしまいます!」
「も、もう恐れるものはない! 突き進むのみだよ!」
そう言って、先を歩き始める三人。
アリス達が離れてしまったのが少し悲しいと思ってしまったけど、ようやくいつもの皆さんに戻ってくれて何よりであった……本当に。
あのままじゃ、いつアリスが正気を失って魔法を解除するか分からなかったからね。それに、流石に一国の王女様とご令嬢様のスキンシップを受け続けて平気でいられるわけがない───背骨と上腕骨が。
「ありがとうございます、サク様」
一つ咳払いをし、まだ少し顔が赤いセレシア様がお礼を口にする。
「本当に魔法が使えるのですね。しかも、あの威力はうちの魔法士にも匹敵するかと」
「いやいや、そんな大したことじゃ―――」
「……やはり、サク様の体は大変興味が」
どうしよう、脅威が過ぎ去ったことでセレシア様の好奇心が僕の体へと。
「……にしても、なんであんなに虫型の魔獣がいたんだろ」
僕の袖を握りながら、アリスが口にする。
「サクくんが入り口を守ってくれたからよかったけど、あの数じゃ何匹か絶対に街に出てるはずだよ」
「んー……虫型の魔獣って本来光を苦手とするはずけど、確かにあの量だったら問題にならないわけがないよね」
一匹二匹は絶対に漏れて外に飛び出してしまうだろう。
それだけじゃない。今までここで何人も攫われているんだったら、間違いなくあの量の魔獣と出会っているはずだ。
攫われる攫われない以前に、あの量を見てしまえば一般人だったら必ず引き返してしまうだろう。
「っていうことは、騒動のあとに現れた……?」
「加えて、一匹も出ていなかったということは出られない理由でもあったのでしょう。たとえば、何かを守らされているから、など」
「まぁ、そこを探るためにやって来たわけなんだし」
リゼ様が先行して先を歩く。
「このまま調査を進めるわよ。もしかしたら、一日で終わらない可能性はあるけれどね」
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