幽霊

 ……どうしてこんなことになったんだろう?


 そう思わずにはいられない今日この頃。

 当初は、王都から近くの街のプラダで任務をこなし、夜にはパーティー出席のために帰るはずだった。

 リゼ様がそれを考えて受けたということは、あまり難易度も高くなかったはず。

 仮に高かったとしても、王族直轄の魔法士団に入れるような魔法士が二人に、副団長クラスが一人。

 僕だって一緒にいるから、大半の任務などなんてことないと思っていた。


 ……あぁ、これは別に油断してたとかそういう前振りじゃないよ?

 任務自体は、聞く限りとても簡単そうなものだった。少し手こずるかもしれないけど、正直僕一人で余裕そうだったんだ。

 ただ───


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? むりむりむりむりむりサクくん助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

「ご、ごめんなさい……私はもう無理限界……あとはね、サク……」

「……サク様、初めましてから申し訳ないのですが……絶対に、手を離さないでくださいします」


 ……どうしてこうなったんだろう?

 僕は両腕背中にくっ付いて離れない美女三人の感触を味わいながら……そう思った。



 ♦️♦️♦️



 時は遡ること、一時間前───


「今回の任務は『幽霊』騒動よ」


 プラダの街に着いてから。

 レンガ造りの街と整備された川が目立つ景色の中、リゼ様は口にする。


「ゆ、幽霊かぁ……」


 隣を歩くアリスが僕の腕に抱き着いてきた。


「苦手なの?」

「苦手……フッ、私がそんな風に見えるかね、サクくん?」


 どの角度から見てもそう思う。


「怖いなら怖いって言えばいいのに。そうしたら、僕の背中に隠れてもいいよとかかっこいいセリフ言えるんだけど……」


 僕はアリスの態度に肩を竦める。

 すると、アリスは顔を真っ赤にして目を回し始めた。


「な、なななななななななななな何言ってるのサクくん!? 別に幽霊怖くないし、腰抜かして昔お漏らししちゃって恥ずかしい思いしたことなんてないんだから!」


 ここまで言うほど、幽霊が苦手なアリス。

 リゼ様を恨めしそうに叫ぶ姿は、なんていうか歳相応の可愛らしさがあった。


「サクは別に苦手とかではないのね。姉さんは知っていたけど」

「だって、幽霊なんて所詮実態のない偶像に説明がつけられないから、周囲が勝手にそう呼んでいるだけでしょ? そんなの、蜃気楼とか水面に映る人の光加減で説明ができるわけだが」

「魔法で全てが片付けられる以上、オカルトに耳を傾ける必要はありませんよ」

「……私が言うのもなんだけど、絶対に幽霊が実在したら涙目になるわよね、それを聞かせたら」


 簡単に言っちゃえば、分からない人が大袈裟にしているだけ。

 魔法という世に事象が起こせる道具がある以上、全てに説明がついてしまう。だったら、正直過剰に怖がる必要なんてないよね。むしろ解明したくて興味が湧く。


「っていうわけで、『幽霊』騒動よ。実際に何人か攫われているみたいだし、今回はその調査ね」

「ゆ、幽霊が誘拐したの……? ほらー! やっぱりいるじゃん幽霊っ!」

「正確に言うと、騒がれている『幽霊』を見た人達の何人かが攫われたって感じかしら? 一緒に見て、一緒に来た人がー……という話みたいよ?」


 幽霊を見て攫われただけなら簡単な行方不明な事件に見えるけど、普通に逃げられた人もいるみたいだ。

 どういう感じで消えたのかは気になるけど、普通は任務が来るぐらいなら誰かしらは調査しているはず。

 それでも見つけられなかったということは、かなり不可解な事件なんだろう。


「僕としてはオカルトに乗っかった誘拐事件な気がしますね」

「私も同意見です。ただ、結局どういう方法で……というのが不思議ではありますが」

「それが分からないから、私達に白羽の矢が立ったんでしょ」


 リゼ様は歩いていると、ふと川沿いに降りる階段を見つけて降り始める。

 降りた先には、いくつかの街灯が照らしている地下水路への入口があった。


「それで、その『幽霊』が出現する噂の場所っていうのがここ」

「いかにもって感じがしますね」

「ふふっ、最近は大型魔獣の討伐ばかりしていたので、こういうのはなんだか楽しいですね」


 横で上品に笑うセレシア様。

 そういえば、赤龍を倒せるぐらいの力を持っているっていう話だし、やっぱりそういう人にはそういう任務でも来るのだろうか? 笑う度にお美しいところが素敵です。


「うぅ……サクくん、私は君の後ろを守ることにするよ」

「そんな腰に思いっきりホールドしていたら、後ろなんて守れないと思うんだけど……」


 怖いなら怖いって言えばいいのに。


「まぁ、怖がりな先輩は無理矢理にでも連れて行くとして……早速中へ入りましょうか」


 そう言って、リゼ様が先行するように歩いていく。

 薄暗い入口だ。日に照らされた入口付近しか床は見えず、この段階ではまったく先はまったく分からなかった。

 それでも、僕達は後ろに続くかのように足を踏み入れる。

 入った瞬間、奥の明かりが自動で点灯した。


 そして───


「「「「……………………」」」」


 小さな……本当に小さな、魔獣達が埋め尽くすようにいたんだ───えぇ、姿


「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!???」」」


 加えて、女性陣の甲高い悲鳴が開始数秒で響き渡った。



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