かっこいい
埋もれるはずだった才能を、才能を持ってして埋もれさせなかった異端児。
きっと、サクくんに言葉を当て嵌めるんだったそんな言葉だと思う。
平民に魔法が扱えない。
これに例外はなく、サクくんも初めは魔力を感じられなかったみたい。
だけど、サクくんはゼロからイチを見つけた―――
『いや、魔法を直接体内に入れたら分かるかなーって。ほら、魔力って人の体には当たり前にあるんでしょ? だったら、当たり前じゃない異物の中に
話を聞いた時は、本当に苦笑いが止まらなかったよ。
確かに、魔力は誰しも体内に存在している。けど、それを感じ取れる体質なのが貴族であって、平民に『魔力』は感じられない。
でも、サクくんは魔力で生まれた魔法を利用して、魔力という存在に無理矢理気づかせた。
あとは、まぁ……お察しの通り。
本来埋もれるはずだった才能が日を浴びて。
私をも凌駕する魔法の才能が剥き出しとなる―――
「あれ、何……?」
隣から、リゼちゃんの呆けたような声が聞こえてくる。
リゼちゃんだけじゃない、傍で観ていた魔法士達も、ゴーレムを作っていたシュランくんも、目の前で起きた現象に固まっていた。
『平民が魔法を使った』
それもある。
だけど、きっと呆けたのはそこじゃない。
サクくんの摘んだ線が、巨大なゴーレムをすべて真っ二つにしたからだ。
「はぁ!?」
「別に手作りのお人形が斬られたからって驚きすぎでしょ。ドッキリでスペシャルなマジックだったとしても、目の前にヒントが転がってるわけなんだからさ」
シュランくんが驚くのを他所に、サクくんは摘んでいた線をもう一度軽く振る。
すると、巨人の一体が今度は縦に割れた……だけじゃない。
どこまでも伸びる線。その軌道にあった地面も、訓練場の壁もすべてが抉られている―――辺りに水滴をばら撒いた状態で。
「赤龍の時に見せたやつ、よね? でも、あれは何? あんな魔法、知らないんだけど……」
「あぁ、あれはただの水魔法だよ」
「水魔法?」
そう、サクくんが主に使う魔法は水。
ただし、誰もが扱い誰もが認知しているような魔法とは少し毛色が違う。
「水を一気に撒くより、入り口を小さくしてあげた方が一度に出る水の威力は違う。サクくんの魔法は、その入り口を糸よりも小さくしているだけ」
魔法はイメージだ。
使用者のイメージが具体的であればあるほど、扱える魔法のレパートリーも威力も桁が変わってくる。
誰もが想像できないことを想像する。
誰もが想像できることを誰よりも鮮明に想像する。
運用センス、状況判断、魔力総量も魔法士としての技量に影響するけど、やっぱり根幹には敵わない。
「見てて」
私はリゼちゃんの方を見ず、真っ直ぐに彼に視線を向ける。
「私の
そう口にした瞬間、シュランくんが体を震わせながら叫んだ。
「馬鹿な……私のゴーレムが一瞬で。鉄よりも強度は高いんだぞ!?」
「鉄なんて別にそこら辺に溜まってる水でも斬れるわけだが。知らない聞いてないが通じるのは子供のうちまで」
「~~~ッ!?」
明らかに頭に血が上ったシュランくんは地面に手を当てる。
すると、一瞬でサクくんの足元に穴が開き、
「ハハッ! 堕ちろ、平民! どんなに奇天烈な魔法を撃とうが、選ばれた者には勝てな―――」
そして、サクくんの足場に氷の地面が生まれた。
「……は?」
サクくんが堕ちることもなかった。
一度の浮遊感も味わうことなく、ただ飄々とその場に立っているだけ。
それが意味するのは、圧倒的展開速度。
穴が開いた瞬間に足場を作ってしまえる反射神経が、サクくんの異常さを物語っている。
「そんなに驚いた顔してるけどさ、そろそろプレイヤーとしてはその反応にも飽きてくる」
そう、口にした時。
サクくんは一歩を踏み出した。
「さぁ、すべての根源は水から。生物が生まれ、生物を作り、生物に欠かせない存在である」
すると、足元からもの凄い勢いでシュランくんに向けて一本の水の柱が放たれた。
身体能力に優れている騎士ではない魔法士に回避できるわけもなく、シュランくんはそのまま壁へと叩きつけられ、水の柱に絡め取られる。
「がハッ!?」
「その性質は変幻自在。温度を上げれば気体へと変化し、温度を下げれば固体へと変わる。この二つの変幻自在だけで、魔法のレパートリーは単純な掛け算よりも乗数となる」
さて、問題です、と。
サクくんは口元に人差し指を当てながら、口元を歪ませた。
「今あなたに触れている水に電気を当てます。すると、使用者以外のあなたには一体どんな影響が与えられるでしょうか?」
「ま、待て……やめ———」
「子供でも分かる問題で、ようやく正解したね」
サクくんの指先から、一筋の光が水の柱へと落ちた。
───電導。
その瞬間、青白い激しい光が柱を伝い、シュランくんの体へと襲い掛かる。
「ば、かな……」
もう、あとは言わなくても分かるだろう。
柱から解放されたシュランくんは口から白い煙を吐きながら、そのまま地面へと崩れ落ちた。
この場に残った音は、シュランくんが地面に倒れた時に生じたものだけ。
見守っていた誰もが、言葉を出せずに呆然と立ち尽くすしかなかった。
それも当然だ。
魔法が使えないはずの平民が魔法を扱え、選りすぐりの魔法士が手も足も出せず負けたんだから。
「す、すごい……」
ようやく聞こえてきた言葉は、頬を赤らめながら魅入ってるリゼちゃんのそんな声。
(うん、気持ちは分かるよ)
確かに、サクくんを目立たせたらダメ。
色んな人に注目されるし、手に入れようと多くの貴族がサクくんに手を出すことになる。
加えて、横にいるリゼちゃんみたいにサクくんに惚れちゃう
でも、でもね―――私だって女の子なんだ。
どうしても、彼が私のお願いを叶えてくれる姿を見たいと思ってしまうの。
「さて、これでアリスのお願いは履行できたかな?」
サクくんが振り返り、小さく笑みを浮かべながら私を見つめる。
その姿を見て、私は胸を高鳴らせずにはいられなかった。
(あぁ、やっぱり……)
私の
あの時から、ずっと———
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