ぎゃふん、と
『おー、シュランと噂の平民の対決かー』
『平民に負けたら恥もいいところだな』
『まぁ、そもそも平民なんて相手にならんだろ』
それから少し時間が空き、訓練場の壁際にはさっきよりも多くのギャラリーが集まっていた。
正面にはローブを脱ぎ、忌々しそうにこちらを見てくるシュラン様。
対して───
「やっちゃえ、サクくん! 天狗の鼻は折るために存在している!」
「またかっこいい姿を見せてちょうだい、期待しているわ」
僕の後ろには、ある意味豪華で贅沢な美少女応援隊二名の姿が。
多くの好奇心と非難の視線が集まる中、二人だけでも応援してくれるのは大変ありがたい。
ただ、一つだけ言いたい……何故僕は戦うことが確定になっているのか、と。
「あのー、これって業務内容に含まれていない気がするんですけど!?」
「特別手当なら追加で払うわ」
金で言いくるめようとしてくるあたり、本当に貴族は恐ろしい。
「ア、アリスからも何か言ってよ! これじゃあ目立って騒ぎ間違いなし! 噂が確信として明日からの僕は誰よりも注目の的だよ!?」
注目が集まれば目立つ。
目立つの自体は慣れているからいいんだけど、問題は僕が魔法を扱える点だ。
もしこうやってリゼ様とアリス以外に魔法を見せつければ、噂は確信として広まってしまう。
そうなれば、好奇心に駆られたお貴族様方に目をつけられて使用人ライフがおさらばになる可能性もある。
愛するマイシスターのためにも、それだけはなんとか避けなければ……ッ!
「サクくん、あのね……これにはちゃんとした深い
アリスがそっと、諭すように僕の肩へ手を置いた。
「ちゃんとした深い、
僕はアリスの言葉に思わず首を傾げてしまう。
確かに、アリスは協力者だ。友達想いの彼女は、僕の秘密をわざわざ守ろうと黙ってくれたし、こういう面倒事に対処できるよう自ら使用人にまでなってくれた。
そんな優しいアリスが、こんな真剣な顔で言うのだ。
もしかしなくても、ちゃんとした理由があるのかもしれない。
(アリスが平民である僕のことを考えてくれてるんだ……)
アリスの恩義と期待に応えるためにも、僕は信じてあげないと───
「サクくんのかっこいい姿が見られる!」
金輪際彼女の言葉は信じないようにしよう。
「あいつ、正直媚び媚びな感じでやな奴だったんだよねぇー。訓練の時とかオフでもしょっちゅう絡まれてた」
「まぁ、それは同意ね。下心満載な人ってどうにも肌に合わないというかなんというか……このポジションにいるから嫌いになるっていうのをなんで分からないのかしら」
「あわよくばでも狙ってるのかな?」
「無理に決まってるのに、不思議なものだわ」
なんだろう、美少女二人にここまで言われるなんて彼が可哀想に思えてきた。
まぁ、彼の性格にも問題がありそうなのはなんとなく分かるけど。
「というわけで、貴族だからとか関係なく好きにやっていいわ。あとの処理はこっちでやっておくし」
「心が折れそうだったら、アリスちゃんが懇切丁寧にあとでマッサージ&ケアするよ!」
「って言われてもなぁ……」
好きにしてもいいと言うけど、相手は貴族。
当然萎縮してしまうこともあるわけで、注目を浴びる中更に注目が集まるようなことはあまりしたくない。
つまるところ……すこぶるやる気が出ないのだ。
「じゃあさ、こういうのはどう?」
僕の心情を察したのか、アリスは唐突に指を立てた。
「あとでちゃんと私からご褒美あげるっていうのは前提として───私達はあの人に普段から絡まれてうんざりしていた。だから、いっちょ「ぎゃふん!」って言われてスッキリしたい」
「う、うん……」
「かといって普段からそんな機会なんて普通はできるわけがなかったんだけど……ここにきて、チャンスが訪れてきた」
そして、アリスはニヤリと笑い───
「私達のために、あいつのこと「ぎゃふん!」って言わせてよ! お願い、サクくん!」
───そんなことを、言ってきたのだった。
(……あぁ)
本当にアリスはズルい。
僕のことをよく知ってるのに、そう口にするんだから。
「開始の合図はいらないな」
僕達が話している最中、シュラン様が足元から巨大なゴーレムを出す。
その高さは、優に二メートルは超えており、圧巻という言葉がよく似合っていた。
「平民では決して手が届かない領域。噂が本当で、仮に手が届いたのだとしても辿り着かない圧倒的実力差」
そういう脅威が、二体、三体。
次々と生み出されていき、全てが一歩踏み出しただけで地面が揺れそうなほど圧迫感を感じられる。
「さぁ、倒してみろ平民! この俺がお前よりも下だということに対しての否定を、ここでしてやる!」
流石は王国に選ばれた魔法士。
他の魔法士をあまり見たことがないけど、この魔法は「凄い」のだと、一目見て理解させられる。
(それでも)
僕は指先から一本の水の線を生み出し、そのまま摘む。
どこまでも伸びる、ただの線。
ゴーレムに比べれば、小さいところもいいところ。
それでも───お願いされたのであれば。
「
僕は
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