友人、メイドへ

次回は9時と18時に更新です!( ̄^ ̄ゞ


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 ガイゼン王国は大陸一の国家だ。

 その国の中心が集う王城は王族だけでなく多くの人間が住んでいる。

 官僚、政務官、王国直轄の騎士団と魔法士団、僕のような使用人達。

 そのため、使用人の仕事はいつもひっきりなし。

 もちろん、僕みたいな平民の若造が王族や貴族の世話などできるわけはないので、掃除洗濯やイベントの準備だったりがメインとなる。お風呂を沸かしたりするのは楽しい。洗濯は量が多いからやだ。


 そんな使用人の一日は陽が昇り始めてすぐと、かなり早いものだ───


「ふぁぁぁっ……おはよう、サクくん」

「何故君がここに」


 使用人達専用の食堂にて。

 いるはずもないお嬢様アリスが僕の対面に現れた。しかもメイド服姿で。


「使用人の朝ってほんとに早いんだね……アリスちゃん、まだまだ羊ちゃんを数えていたかったのに起こされちゃったよ」

「アリスちゃん、その前にメイド服でのご登場に説明を」


 アリスは魔法士団所属のご令嬢。

 そのため使用人達とは暮らしている寮も違うはずで、間違いなくこの場にいるのはおかしい。

 ましてやメイド服を着て登場とは、新手のコスプレのようにしか見えなかった。


「私、今日から使用人としても働くことになったの。メイド長に「色々社会勉強したいんです!」ってお願いしたらすぐおーけーもらえた」


 まぁ、王城で働く人間には貴族が多く、その目的の半分が貴族社会を身をもって体験するお勉強だ。

 そういうのを学ぶという理由と伯爵家の地位を振りかざせば、確かに昨日今日の唐突なお願いも叶えてもらえるだろう。

 ただ───


「……なんでまたいきなりメイドにジョブチェンジ?」


 いや、超可愛くて超似合ってるから眼福ではあるんだけど。


「だって、サクくんが本格的に王城に顔を出すのは休暇が終わった今日からでしょ? 噂のことでこれからどうなるかも分かんないし、近くでサポートする人間がいた方がいいかなーって」

「ア、アリス……っ!」


 なんて……なんていい子なんだ。僕のために、わざわざ早起きまでしなきゃいけない使用人になってくれるなんて。

 いけない、涙が零れそうだ……僕はこんないい友人を持ててすっごく嬉しい。


「(まぁ、本音はサクくんが他に取られないように監視アピールするためなんだけど……)」


 何かアリスが呟いた気がするけど、涙を拭くのに夢中で聞こえなかった。


『ねぇ、あそこにいるのってアリス様じゃない? 最年少で王国の魔法士団に入った天才……』

『声、かけるべきか?』

『でも、何故平民と一緒に? まさか、あの噂が……』

『なにかのデマだろ。だって、あんな平民が魔法使えるわけないんだから』


 涙を拭き終わると、ふとそんな声が聞こえてくる。

 チラッと周囲を見渡せば、何やら使用人達がヒソヒソと話しながらこちらを見ていた。

 いつもなら冷たい視線を浴びせるか、近づこうとしないのに不思議なものだ。変な悪口がチラッと聞こえたけども。


「そっか、今日はアリスがいるからか」

「加えて、サクくんの噂もだねぇ」


 いつもの視線と違うからどこか新鮮だ。今日もご飯が美味しい。

 そう思って視線を浴びながらご飯を味わっていると、アリスが───


「っていうかさ、サクくんってあれに関してぶっちゃけどうでどんななの?」


 凄い、何一つ質問の内容が分からない。


「どうって?」

「ほら、赤龍を倒しちゃったんでしょ? サクくんがっていうのは知ってるけど、結局どのぐらいのレベルなのかなーって」

「そう言われても、実際にアリス以外の魔法士とあんまり会ったことがないからなー」

「ちなみに、赤龍を単独撃破できるのはうちの副団長以上」

「なら、それぐらい」

「……ほんと、サクくんって使用人でいる人間じゃないよね」


 アリスがパンを頬張りながらそんなことを言ってくる。


「魔法士として活躍するなら戦場とか危ない場所に行くことになるじゃん、家族遺して死ぬのなんてごめんだよ」


 僕が死んだら妹が悲しい顔に……ダ、ダメだっ、想像しただけで胸が苦しい……ッ!


「って言う割には、自分から首を突っ込みに行くクセに」

「性分なんだよ……」


 僕だってこんな性格じゃない方が平和的に生きられるって分かってるけど、どうしようもないことはどうしようもない。

 まぁ、この性格のおかげでのだから、嘆くことばかりじゃないけど。


「あ、サクくんパイナップルちょーだい♪」

「おっと、僕が渡すと思っているのか食事の締めのデザートを!」


 僕はデザートのパイナップルが乗っている皿をアリスから離す。

 これだけはダメだ、僕だってまだまだ舌はお子ちゃま。口の中が甘いものを欲しているんだ滅多に食べられないのよ果物って意外とお高いんだから!

 ……あ、甘えるような可愛い顔に上目遣いをプラスしたってダメだ! ぜ、絶対に渡すもん───


「今日膝枕してあげるからさ♪」

「やれやれ仕方ないねほら全部食べていいよ」

「サクくんは膝枕ほんとに好きだねぇ」


 だってあの太ももの柔らかさと感触が……げふんげふん。

 そ、そもそも、男であれば可愛い女の子からの膝枕はご褒美中のご褒美。嫌いなやつなんてこの世にいないからね、うん。


「あーんもしてくれたら、二回にアップしてしんぜよう!」

「公衆の面前で気恥ずかしさはあるけれど乗った」


 さっきからかなり見られているけど、膝枕のためだ仕方ない。

 僕はパイナップルをフォークに刺してアリスの口へと───


「サク」


 運ぼうとしていたその時、不意に背後から声をかけられる。

 何事かと思わず振り返ると、そこには燕尾服を着た執事長が立っていた。


「はい、どうかされましたか?」


 執事長がここに来るなんて珍しい。

 いくら同じ平民とはいえ、多くの使用人を束ねるベテランであり職場のトップ。

 こんな下っ端が集まる場所に足を運ぶなんて滅多にないのに。

 そう思って首を傾げていると───


「第二王女殿下───リゼ様より夕刻にあなたをお連れするよう申し付けられましたので、必ず時間を空けておいてください」


 ……そんなことを、言ってきた。


「……今思い出したんだけど、もしかしたら僕は不敬罪で首チョンパの可能性があるんだよね」

「待って英雄ヒーローくん、君何したの!?」

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