実家から戻っての噂
次回は18時に更新です!( ̄^ ̄ゞ
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僕───サクは、どこにでもいる平民だ。
……いや、どこにでもいると言えば語弊があるのかもしれない。
何せ、平民でありながらも超難関な特別枠の試験を合格してガイゼン王国の王城で働いているのだから。
僕以外にも平民の人間はいるけれど、あくまで警備の人間や腕の立つ王国騎士団の騎士、あとは他の貴族のお屋敷で働いていたベテランさんだけ。
僕のような使用人枠で働いているド素人なんていない。
おかげで貴族が集まる場所だからか、色々と肩身の狭い思いはさせられている。
やっぱり、プライドとか格式とか僕には分からないそういうのがあるのだろう。
しかし、めげない!
何せ、王城での給金は平民では考えられないほど多いのだから!
この前ね、妹がようやく学び舎に通い始めたんだよ。
それで久しぶりにもらった休暇で帰省した時、あのつぶらな瞳と愛苦しい笑顔で「お勉強楽しい!」って言ったんだ。
兄として、妹の気持ちに応えなければ。
妹のためにも、新しい教材費用を稼がなければッッッ!!!
「なーんて意気込んで王城に戻ってきたものの……」
僕は王城の外にある使用人専用の寮を歩きながら、少しだけ辺りを見渡す。
使用人として働く人は意外と若い貴族のご子息やらご令嬢が多く働いている。
爵位が低いが故に出稼ぎしたり、上の爵位を持つ人達と関係値を作ったりとかまぁ理由は色々。
そういった人間が廊下を歩くだけでチラホラと見える。
これだけだったら、いつもの光景。
加えて、ここから若輩者&平民に向ける特有な嘲笑やら苛立ちが篭っていることが多いんだけど───なんだか今日は違った。
『おい、あの噂本当かよ……?』
『あぁ、第二王女様が直々に仰ったらしい』
『で、でも……サクは平民でしょ? そんなことあり得るのかしら?』
興味やら疑問やら何やら。
多くは「信じられない」とでも言わんばかりのもの。
はて、僕が数日王城を離れた間に一体何が───
「サクくぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!!」
そう不思議に思っていると、ふと廊下の先からそんな声が聞こえてきた。
姿を現したのは、艶やかな金のサイドテールが特徴的な、可愛らしい女の子。
愛嬌ある顔立ちと小柄な体躯が小動物を連想させ、たちまち街を歩けば誰もが魅入ってしまうほどの容姿を持っている。
そんな女の子は、僕の方へと───
「ちょっと来なさいっ!」
「くぺっ!?」
走ってきては、首根っこを掴んで引き摺り始めた。
♦️♦️♦️
「サクくん、今王城で流れている噂……知ってる?」
さて、引き摺られること数分。
色々多くの人から注目を浴びる構図のままやって来たのは、僕に与えられた部屋。
そこで、先程の少女───アリスが、可愛らしく腕を組んで僕を見下ろしていた。
なお、僕は正座中である解せぬ。
「いや、今実家から戻ってきたばっかりだし、知らないけど……」
彼女は僕が王城で唯一仲良くしてもらっているお貴族様だ。
アリス・バーンテッド。
伯爵家のご令嬢で魔法の才能に愛され、最年少で王国魔法士団に属している。
きっかけはかなり思い出深く、彼女の気さくさもあってこの関係は僕が王城で働き始めてからずっと続いていた。
とはいえ、そんな彼女は何故だかご立腹のようだ。
おかしい……スカートの中もお風呂場も覗いていないのに。
「その前に、サクくんは私とした約束は覚えてるよね?」
「敬語を使わない」
「それもある」
「街へ遊びに行く時は必ず呼ぶこと」
「それもあるっ!」
「日に一回は頭を撫でること」
「それもあるッッッ!!!」
振り返ると、交わした約束がヤケに多かった。
「そうじゃなくて……サクくん、貴族の前で魔法は使わないって約束したよね?」
「うん、王城でお仕事を続けたいならそうした方がいいって」
平民が魔法を使えるのは異常だ。
何せ、魔法は貴族にしか扱えない。これは長く続く王国の歴史上、覆られなかった常識。
どうしてかというと、血筋としか言いようがない。
誰にでもある魔力を貴族は感じ取ることができるが、平民は感じ取ることができない体質。
要は、そこに水があるのは分かっているのに汲み方がどうしても分からないということだ。
だから、平民は魔法が使えない。
この常識が覆されると、必ず騒ぎになる。
だから僕は魔法を使えることを黙っていたし、平和に安定した今を覆されないよう唯一知っているアリスには黙ってもらっていた。
「……私だってね、サクくんが魔法が使えるってことを知った時は驚いたんだよ」
「うん、初対面の時すっごく驚かれたね」
「でもね、サクくんが平和に安定してお金を稼いで家族を養いながらアリスちゃんと結婚したいって言うから今まで黙ってたの」
「おっと、僕に聞き覚えのない理由が付け加え───」
「なのに……なのに、さ……」
アリスはズカズカと僕の方まで近づき、徐に頬を引っ張った。
「なんでサクくんが魔法使えるって王城で噂になってるのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
……Why?
「ちょ、ちょっと待って僕初耳!?」
「私だって一昨日までは初耳だったよ! でも、第二王女様が遠征から帰ってきた瞬間からこんな噂が挙がってるんだよ!」
何故、第二王女様が帰ってきた時に僕の話が?
アリスとの約束の通り、僕は王城では魔法は使ってな───
「………………ぁ」
「おいあんぽんたん、明らかに心当たりがある反応してるじゃん」
そういえば帰省中に女の子を助けたような助けてなかったような?
それに、確かにあの見覚えのある顔は今思えばたまにチラッと王城で見かける第二王女様だったような?
……い、いやっ! でも万が一気のせいで勘違いだということもあるしぃっ!?
「……き、気のせいかもしれないよ」
「なんか一人で赤龍を倒すぐらいの腕前だってって聞いてるけど」
「……………………」
ダメだ、否定する材料を見つけらない。
「もぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉあれだけ口酸っぱく言ってたのにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」
「ごめん、ごめんってっ! でも危なそうだったから助けざるを得なかったっていうか、そもそもお願いされたから仕方ないんだよ!」
ガクガク首を揺さぶられる僕。
だけど、ピタッとアリスの手が止まった。
「はぁ……そのお願いされたら断れない性格もどうにかした方がいいって言ったのに」
「うぅ……ほんとにごめん」
「(まぁ、でもそこが大好きだから何も言えないんだけど)」
最後の言葉は聞こえなかったけど、アリスはようやく僕の襟首から手を離してくれた。
その行動から察するに、どうやら許してくれたみたいだ。
「顎骨で許してあげる」
どうしよう、ただの部位のワードが頭に添えられただけなのに許してくれた気がしない。
「……で? 起こっちゃったものはしょうがないけど、これからどうするつもり?」
「どうするって言われても、正直僕は流れるように身を任せるしか方法がない」
平民の僕には貴族が集まる根城ではどうすることもできないからね。
クビと言われたらクビになっちゃうし、ここは今の使用人生活が続けられるよう神様にお祈りするしかない。
「そりゃそうだよね……あーあ、こんなことならさっさとサクくんの意見無視して囲っちゃえばよかったー」
そう言って、アリスは僕の横に腰を下ろす。
そして、僕の肩にそっと頭を預けてきた。
「でも……諦める気ないから」
「はい?」
「攻勢強くなるんで、そこんとこよろしく」
はて、何を言っているのだろう? アリスの発言に首を傾げた。
「……頭撫でて」
「お嬢さん、それは命令っすか……?」
「ううん、お願い」
「……
でも、とりあえずアリスの機嫌を損ねないよう頭を撫でた。
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