第3話不細工な彼女は、独りに戻れない

 世界の常識が変わり、俺の日常風景は変わった。


「えいっ!」


「うおっ!?」


「にげろー♪キャハハ♪」


 朝の通学中、ランドセル背負った女児に尻を触られた……。


 本当に変わった……。

 

★教室 朝


「おはようコモル! 早速昨日の事、噂になっとるで?」


「おはよう……噂?」


 誰が俺のようなモブ男子生徒を、噂するんだ? 噂するなら、もっとイケメンとかの奴にしろよ。

 俺は机に鞄を置き、トモヤに身体を向ける。

 相変わらず、朝から声がでかいなトモヤは。


「せや、コモルがあの花守サキと仲良く手を繋いで帰ったっていう噂や!」


 ああ、それか……明るい内に人前で手を繋いで帰ったなら、次の日噂になるのも当たり前か。


「みんな……手を繋いだくらいで、大げさなんだよ。 俺たちもう高二だろ? リア充なんかは、女の子と手を繋ぐなんて小学校で卒業してるぞきっと」


 もっと早くて、幼稚園が最速だと思うが。


「まあ……コモルの相手が普通の子なら、ここまで騒ぎにならなかったやろうけど……普通の子なら」


 トモヤは意味ありげに言葉を濁す。

 なるほど……花守さんが相手だから、噂になったと。

 不細工を嫌うくせに、不細工が色めき始めたら情報拡散早い事で。


「噂になったからって俺は別に気にしないし、俺達をどうこうするわけじゃないんだろ?」


「はぁ……コモル。 自分がどんな危ない状況か、全然分かってないんか」


 俺が危ないって、何の冗談?

 昨日この常識が変わった世界にやってきたばかりの、別次元の人間に状況理解しろとか……無茶ぶりすぎだろ。

 何が変わって、何が同じで、俺の常識とこの世界の常識の違いで頭がいっぱいいっぱいなんだよ。


「あの花守サキと、お手々を繋いで平気で帰れるちゅう事はやな……今まで男に縁の無かった不細工な女連中にもチャンスがあると認識されるんやで? だから、これからはこぞって四六時中狙われるかもしれへんのやぞコモル?」


 何それ怖い……この世界の不細工の人達、どんだけ男に縁がないんだ……。


「さすがに、男は俺一人じゃあるまいし……大げさな」


 教室をざっと眺めても、まあ女子よりは少ないが俺ら以外にも男はいる。

 学校全体見ても男はわりと居ると思うし、さすがに一人くらいは不細工な子でも相手が出来るんじゃないか?


「何を、言っとるんやコモル? この世の中、男より女が多いちゅうのに、ワイら男がなんでわざわざ不細工な連中を選らばなあかんのや? ブス専じゃあるまいし」


 確かに……だから花守さんが平気な俺なら、自分も、結婚の相手に選ばれるかもしれないと俺を狙うわけか……。

 この世界、何気に過酷なのでは?



 朝礼が始まる前の間の時間、俺は暇なのでスマホで動画をぼーっと眺めていると……教室がざわざわと騒がしくなるのを感じた。

 

「お、おはよう古森君……えへへ♪」


 花守さんは、アイドルのような可愛い顔をほんのりと頬を赤く染め……はにかんだ笑顔で俺に挨拶をする。

 元の世界では、話すらまともにした事のなかった憧れの学園のアイドルが……今、俺に恋人に見せるような愛らしい表情を見せてくれている。

 

 癖のある長い髪が風に舞い……ふんわりと昨日嗅いだ、花の甘い香りが漂ってきた。体臭なのか、それとも香水なのかわからないけど……良い匂いだ。


「おはよう、花守さん」 


 昨日より一歩近い距離で、挨拶しあう俺と花守さん。

 昨日の朝の自信なさげだった表情も、今日はどこか生き生きとしていて肌艶も良さそう。


 「古森君……き、今日も……あの、その……れ、恋愛練習お願い、ね……?」


 俺の顔を覗きこむように上目遣いで、両手を合わせて頼みこんでくる花守さん。

 あざとい……すごくあざとい。たぶん花守さんは無意識にやってるんだろうけど……可愛い過ぎる!


「あ、ああ……また、放課後にな」


 花守さんが可愛い過ぎて顔が熱くなり、昨日の手の温もりも思い出して……このまま直視できなかった俺は……スマホに視線を落として逃げた。


「えへへ……じゃあ、また後でね古森君♪」


 そう言って自分の席に向かう花守さんの背中を、俺はスマホから少し視線を外して眺める。 ミニスカートから伸びる、ニーソックスとの間の艶やかな太腿がエロいなと思った。


★教室 休み時間


 ―――昨日のテレビ見た?

 ―――最近、いくら食べても太れなくってさー。

 ―――ちょっ……!? ギブギブ!


 休み時間クラスの女の子達は、思い思いに仲良しグループで楽しく話をしたり、友達同士でプロレスごっこしたりと……元の世界の男子高校生みたいな、休み時間の過ごし方をしていた。


「……」


 白白黒ピンク青……何の色かって? それは……。

 

 クラスの女子達の下着の色だ……別に下から覗いたわけじゃない、席に座って前をボーッとしてるだけで女子の下着が視界に入ってくる。

 

 この世界の女の子は貞操逆転しているせいか、恥じらいがないらしくスカートにも関わらず足を広げて座ったり。

 

 中が蒸れるのかスカートを捲り上げて、パタパタと下腹部に風を送ってたりもするなど……俺が目撃してたのはこれだけじゃないが、だいたいこんな感じなのだ。


「……」


 まあ……俺は、思春期の男子高校生としては、目のやりばに困るわけだが……男の本能には勝てず、つい視てしまう。

 

 幸いこのクラスには、不細工よりな子達が多い……つまり、俺視点だと、美少女美人が多いと言う事だ。


「あの……こ、古森君?」


「え?」


 突如視界が遮られ、目の前に制服の胸元をパッツンパッツンにさせ、たゆんたゆんと揺れた大きなおっぱいが現れる。

 どうやら誰かが席の前に立ったらしい……俺は顔を上げると大きなおっぱいの持ち主と目と目が合った。


「あれ? 花守さん、どうかしたの……?」


 花守さんの不安で潤んだ瞳が、すがるように俺を見つめた。


「休み時間も、恋愛練習しな、い……?」


★教室 休み時間 花守サキ


 休み時間は苦痛で退屈……友達も居ない、みんなに嫌われている私は……いつも一人ぼっち。


 する事と言ったら、次の授業の準備かお気に入りの本を読むくらい……でも、今日の私は違う。


 (はぁ……授業中、古森君の事が気になって……集中できなかったなぁ……)


 私は適当にページをパラパラと捲り、本を読んでます感をだして……席に座っている古森君を眺める。


 チラ……チラ……。


 古森君は席に座って、何もしないでボーッとしてるみたい。


 (えへへ♪ 昨日、私……古森君と恋愛練習したんだ……♡)


 古森君を見ながら昨日の事を思い出して、自然と口元がニマニマしてしまう。


 (早く放課後にならないかなぁ……♡)


 そんなことを思いながら古森君の事を、眺めていると……。


 (あれっ……古森君?)


 最初、古森君はボーッとしてるだけかと思っていたけれど……良く観察するとクラスの女の子達を見ているのがわかってしまった……。


 ズキンッ……。

 

「……っ」


 他の女の子達を見ている古森君を見ていると……なんだか、胸の奥が、ズキズキと痛い……。


 ふと……脳裏に、古森君が他の女の子達と楽しそうに仲良く笑っていて……私はその光景を、寂しく一人ぼっちで席に座って見ている想像が浮かんだ……。


 本を、掴む手にギュッと力が入る。


「……っ」


 もちろん、これは私の想像……でも、一度その事を考えてしまうともう止められない。


 頭の中でぐるぐると、嫌な妄想が膨らんでいく……。


 (……やだ) 


 喉か渇く……。

 身体が勝手に、寒くもないのに震えてくる。

 

 (……やだやだやだぁ! また、私は一人ぼっちになるの?もう、一人ぼっちに戻るのは……嫌ッ!)


 昨日の帰り道は、学校に通っていたなかで……一番楽しかった。話なれない私を、古森君は気にもしないで話をリードしてくれた……優しい。

 

 私と古森君は、男と女だけど……もし友達が居たら、家に帰る間あんな感じに楽しくお喋りできたのだろうなと思う。

 

 人との触れ合いを一度知ってしまった私は……もう、一人ぼっちには戻りたくない……。

 

 ガタッ。


 気づくと私は、席を立っていた。 心がざわつき、いても経っても居られなくなって……足は、足早に古森君の席に向かう。


★ 学内掲示板


 学内の不細工集まれー!!(156)

 

 21 とある不細工さん

 聞いた?聞いた?あの花守サキと、なんと手を繋いで帰った男の子が居るって言う目撃情報!


 22 とある不細工さん

 見た見た、仲良さそうに手を繋いじゃって…… あたしらと一緒の不細工の癖に生意気ね(^ω^#)


 23 とある不細工さん

 ふむ……ついに、我らが救世主が現れたようだのう。

 この絶望に満ちた世界を、是非変えてもらいたいものじゃ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

モブな俺の貞操逆転世界の過ごし方 橘 月菜 @tatibana0430

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ