第2話不細工で美しい彼女後半

 恋愛練習なのに……このまま無言のままなのも、駄目じゃないのかなと話のネタを考えていると……花守さんがポツリと呟く。

 

「あの……古森君は、私なんかと、恋愛練習していて……平気なのか、な?」


 そう言うと花守さんは、こちらの顔色をうかがうように潤んだ瞳で俺を見た。

 少し怯えが見えるその表情には、この世界の花守さんの境遇が垣間見えた気がする。


「うーん……見た目の話だよな?」

 

「うん……わ、私って、顔が小さくて身体が細いし……胸もこんなに大きくて……不細工だか、ら」


 自嘲気味に言う花守さんはどこか諦めているように感じた。


 やっぱり……予想してたけどこの世界だと、花守さんは不細工扱いなんだな。

 きっとその見た目のせいで、小さい時から男の子から嫌われ続けたんだろう。

 

 だから恋愛練習に嫌がらずに付き合っている男の俺を、不思議に思っているのかもしれない。


「俺は平気って言うか……どちらかと言うと、花守さんのような見た目の女の子が好みなんだけどな」

 

「う、嘘だよ……男の子ってみんな、顔も身体も大きく、て……胸も平らな女の子が好きなんでしょ?」


 話ながら花守さんは、大きな胸を平らにしたいのか左手でぐいぐいと押し潰すが……おっぱいを歪ませただけだ。なんかエロい。


 元の世界でもそんな人を、好きな人は居たかもしれないけど……少なくとも俺は、花守さんのような子が好みだ。


「いや……俺は好きじゃないが」

 

「なら……本当にわ、私みたいな女の子が……好きなの、かな?」

 

「じゃなきゃ、恋愛練習なんかに付き合わないだろ?」

 

「そ、それもそうだよね……えへへ♪」

 

「あ」

 

「ん、なにかな?」

 

「いや、なんでもない」


 おぉ……この世界の花守さんの笑顔初めてみた。 やっぱり美少女だけあって、破壊力でかいわ。 


「ところで、次は何をするんだ? ずっとこのままじゃないんだろ?」


 繋いだ手をゆらゆらと揺らす。 


「え、えーと……次は……」


 キーンコーン……カーンコーン


「もう時間か……」

 

「えー……まだ、一つしか終わってない、のに」


 花守さんは、心底物足りなさそうに呟く。

 

「確か……次の日も続けるかは、男の俺が決めて良いんだよな?」

 

「あ……うん、そうだね……」


 俺の言葉に花守さんは、急に現実を突きつけられた人のように、緩んだ表情からスッと自信なさげな表情になる。

 

「じゃあ、えーと……」


 俺はポケットから今朝貰った紙を取り出す。

 恋愛練習プログラムは、男側が1日目を終えた段階で終わるか判断できるらしい。


 うーん、ああ言った手前、途中で投げ出すのも……後味悪いな。

 それに……。


「…………………………………………………………………………………………………………」


 隣の花守さんが……まるで捨てられた子犬のように俺の顔を上目遣いでじー……と見つめて無言の圧力をかけてくる……。


 さらに未だに繋いだ手が段々と締まっていき、お前だけは絶対に逃がさないと言う執念まで感じさせる。


「まあ……明日も遊ぶ予定もないし、恋愛練習続けても良いか」


 俺も可愛い女の子と恋人ごっこするのも嫌じゃない……むしろ楽しみだ。


「よ、良かったぁ…… 続けてくれて、ありがとう古森君!」


 花守さんは恋愛練習を続けられるのが本当に嬉しいのか、花が咲いたような笑顔を浮かべていた。


「チャイム鳴ったし……そろそろ、俺達も帰るか……ん?」


 俺は恋愛練習も今日は終わったし、家に帰るので繋いだ手を離そうとしたが……離れねえ!?


「花守さん?」

 

「……え、えへへ♪ こ、古森君、帰りの途中まで……このままでも、良い、かな?」


 ……さすがに俺も、女の子と手を繋いだまま帰るのは恥ずかしいけど……。


 チラッと花守さんの顔を見ると……頬を真っ赤に染めて、熱を帯びた瞳で俺を見ている。


「……駄目?」


 艶やかな唇から、甘くねっとりとした声が俺の耳を犯す。

 

 駄目だ……可愛い過ぎる! 元の世界の花守さんを知ってる分、余計に可愛い!


「まあ、良いけど」


「や、やったぁ♪ こ、古森君の家って……○□△だよ、ね? 私の家と近いし、帰り長く一緒に居られる、ね♡」


★家 自室


 ココアを一口飲む、口の中にほろ苦さが広がる。


「ふぅ」

 

 花守さん、なんか帰りずっと嬉しそうにニコニコしながら話してたな。


 当然か……あの容姿だと、この世界じゃ友達できなさそうだし。 同年代の話せる相手に、飢えてそうだよな。


 ピコン♪


 そういえば……花守さんとメッセージアプリのID交換してたんだった。


 花:こんばんわ(*^ー^)ノ♪

 古:こんばんわ

 花:今日は私の恋愛練習に付き合ってくれて、ありがとう(* ´ ▽ ` *)

 古:俺も良い体験になったし、明日もよろしく。

 花:こちらこそ、よろしくお願いします(*ゝω・)ノ

 古:じゃ、おやすみ。また、学校で。

 花:おやすみ古森君( ´ ▽ ` )ノ

 花:古森君のおかげで今日は、良い夢見れる気がする( 〃▽〃)


「お? 俺のツブヤイター発見と……なになに」


 俺は花守さんとメッセージのやり取りしながら、この世界の古森コモルの情報を探していた。


 古木:SSR【油天使トン子】ちゃんキタ━(゚∀゚)━!


 古木:今時トン子ちゃん持ってない奴おるぅ?(* ̄∇ ̄*)


 古木:トン子ちゃんのお腹プニプニしたいお(*´Д`)はぁはぁ


「……」


 俺は、そっとツブヤイターを閉じて寝た……。


★花守サキ


 私……花守サキは、不細工だ。


 小さい頃から見た目のせいで、男の子から嫌われ、気持ちが悪いと軽蔑され……女の子達からも仲良くすると男の子が寄りつかないと弾かれて、友達の一人もできず孤独。


 灰色の日常。


 私は、いつも一人ぼっち……だけどそんな私にある日声をかけてくれた男の子がいた。


 古森君だ。


「おはよう、花守さん」


 (お、男の子が……わた、私に挨拶してる!?)


 嬉しかった……こんな私にも、まだ声をかけてくれる男の子がいたなんて……。


 嬉しすぎて思わず恋愛練習の相手を頼んでしまったけれど……なんと古森君は、練習に付き合ってくれるみたい。


「……えへへ♪」


 長い髪を指に巻きつけて遊ぶ。


 放課後になるまで私は、顔がにやけるのが止められなかった……きっと周囲には心底気持ち悪がられてた筈だ。


 でも、気にしない。


 だって……恋愛練習が楽しみで気にしていられなかったから。


 放課後になり恋愛練習が始まって私は気がついた……。


 私……人と話すの久しぶり過ぎて、どもり気味だって事に。


 (やだ……古森君に変な子と思われたくない)


 幸い古森君は気にしなかったみたいで指摘されることもなく続けられた。


 (古森君が、私みたいな女の子が好みだって……あばばば!?)


 最初は嘘だと思ったけれど……古森君の言うとおり、嫌いならそもそも恋愛練習に付き合ってくれない。


 (嬉しい嬉しい嬉しい!)


 顔が熱くなって、笑みがこぼれてしまう……だって今まで生きてきた中で、私の事を好みだと言ってくれたのは古森君が初めてだから。


(古森君……好き♡ この幸せな時間がずっと続けば良いのに……♡)


 キーンコーン……カーンコーン


(時間切れ……そんなぁ。 もっと、一緒に居たいよ)


 恋愛練習プログラムの終了は、男の子側が決められる。

  ここで古森君に終了を宣言されてしまうと私の恋愛練習は、終わりこの甘い時間も無くなる。


 そんなのは、嫌……!


(古森君と、もっと一緒に居たいのお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願い!)


 私は、祈るように古森君の事をじっと見つめる。 緊張で喉がからからで、繋いだ手に力が入る。


「まあ……明日も遊ぶ予定もないし、恋愛練習続けても良いか」


 古森君は、少し照れくさそう言った。


(明日も、古森君と恋愛練習して良いんだ……♪)


 私の日常に色がついた。

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