モブな俺の貞操逆転世界の過ごし方

橘 月菜

第1話不細工で美しい彼女前半

 俺の名は、古森コモル17歳。 どこにでも居る普通の高校生だ。 見た目も普通、成績も普通のまるでゲームのモブみたいな俺だが………。


★教室

 

「コモル、おはよう!」

 

「……トモヤ、おはよう。 朝から元気だな? 何か良い事あったのか?」

 

 朝から元気なコイツの名前は友田トモヤ、小学校から付き合いのある俺の友達だ。


「おっ! 聞いてくれるか! 今朝、ずっと欲しかったガチャのSSR当たったんや! 」


 トモヤはスマホをポケットから取り出すと自慢気にゲームの画面を見せつけてくる。


 はぁ……またか。今度はどんなエロい子を当てたん……だ?


「……」

「へへっ! どうや、ワイの今月のお小遣い全部つぎ込んだ【ブヒ丸ブタ子】ちゃんは!」


 マジかコイツ?

 トモヤが自慢気に見せつけている【ブヒ丸ブタ子】は……美少女でも美人でもなく、まるで魔物のオークのような容姿をしている。


「この子がSSR? 本当に? 」

 

「せやで?コモルも欲しい欲しいって、言ってたやないか? ワイが当てたのがそんなにも悔し過ぎて、記憶喪失にでもなったん?」


 ああ……本当に、記憶喪失にでもなったんじゃないかとも思えてきた。


 うーん……俺がこの魔物のオーク紛いの女の子?を欲しいなんて言ったらしいけど……全然覚えていないぞ……本当に俺が言ったのか?


「でも、コモルもSSR【油天使トン子】ちゃん持ってるやないか? この前ずいぶんワイに自慢してたんやからおあいこやろ?」

 

「え?」


 何そのこってり豚骨スープが作れそうな名前は。


「あ!」


 俺はまさかと思いスマホを取り出すと、ホーム画面にインストールした覚えのないアプリがあるのを見つける。


【ブタっ子、パラダイス】


「トモヤ……俺らがやっているゲームって、これだっけ?」


 震える指先で、スマホの画面の【ブタっ子、パラダイス】を示す。


「せやで? さっきからどうしたんコモル? 何当たり前の事を言っているんや?今朝から変やで君?」


 いやいや……変なのはお前だろと言いたいところだが、俺のスマホに身に覚えのないアプリがインストールされているこの状況、おかしいのは自分なのではと思えてきたが……。


 チラッと【ブヒ丸ブタ子】をもう一度見てみても……まるまる太ったオークが、露出の多い衣装を着ているようにしか見えない。

 紐が肉に食い込んでるところを見ると……なんか無性にハムかベーコンが食いたくなってきた。


「トモヤは【ブヒ丸ブタ子】……」

 

「【ブヒ丸ブタ子】ちゃん!」


 こだわるなぁ……。目がマジだし、なんか怖いわ。

 

「【ブヒ丸ブタ子】ちゃんの事を美少女だと思っているのか?」

 

「当たり前やで? 美少女の中の美少女、キングオブ美少女や!去年の 夏のコミケでもエロエロな同人誌が沢山でたって話題になったやん」


 トモヤは鼻息荒くしてそう言った。


「……」


 オークが薄い本みたいにエロエロされる光景を妄想して……朝ご飯が口から出そうになる。

 

 おいおい……朝から勘弁してくれ……頭がどうにかなりそうだ。

 俺はトモヤの言葉を聞きながらスマホで必死に情報の真偽を確かめていたが……どうやら本当らしい。


 世界はどうやら俺の知らない間に常識やら価値観が変わったらしく。

 

 不細工で太った女性が美しいとされて……俺が美人、美少女だと思っている人達は醜いとされて狭い思いをしているらしい。

 

 男の場合、美醜は変わらないが……女性に比べて力が弱く、料理や家事など主夫として仕事をしている女性を支えられる男性が好まれるみたいだ。


 ちなみに、女性が妊娠すると……乳はお相手の男性の方から出るらしい……なんでやねん!


「おいおいコモル……本当に大丈夫かいな? 青い顔して、どっか悪いんか?」 

 

「いや、別に身体はどこも悪くない」

 

「そか? 悪くなったら直ぐに言うんやで?」


 せ、世界がおかしくなったんです!って言っても、俺の頭を疑われて終わりだし……黙っといた方が良さげだな。

 

「ああ……分かった」


 はぁ、まるで異世界に来た気分だ……こう言うの、アニメや漫画だけかと思ったら実際に体験する事になるとは思わなかった……。


★教室


 俺は今後人生の事を考えていると……ふと、花の甘い香りの匂い感じて振り返る。


「あ……」

 

「おはよう、花守さん」

 

「……!? お、おはよう…… 古森君」


 甘い香りの主は、花守サキさんだった。 艶があり腰まで伸びる癖のある髪に猫のような大きな瞳、型の良いピンクの唇。

 

 制服を内側から押し上げる大きな胸は男を魅了して止まない。 スタイルも良く、クラスの女子達が花守さんは読者モデルをしているらしいと話しているのを小耳に挟んだ。


 男子からはもちろん、同性の女子達からも人気で、明るく元気な花守さんはいつもクラスの中心だった。


 だけど……俺の目の前に居る花守さんは、自信がなさそうな表情でこちらを見ていて……全体的、覇気がなく、俺の知っている花守さんとは別人に思えてくる。


「あのあの……えと、その……」


 花守さんは、無意識なのか白魚のような小さな手でスカートをギュッと握り……頬を赤くさせて何か言いたげにその小さな口をモゴモゴさせている。


「……こ、古森君は、まだ……部活に入ってない、よね?」

 

「ああ、一年の頃から帰宅部だけど?」

 

「その……もし良かったらだけど、ほ、放課後、時間あるかな?」


 花守さんは、鞄の中からチラシサイズの紙を一枚取り出すと……不安そうに俺に手渡した。


「恋愛練習プログラム?」


 紙に書かれている内容を読むと、どうやら男女比が偏ったせいで恋愛を知らない女子が増えたため、政府は恋愛を体験をして貰おうと❬恋愛練習プログラム❭を実施しているみたいだ。


「こ、古森君には……れ、練習に付き合って欲しいの……も、もちろん、付き合ってくれたら報酬も出るし……もっと欲しいのなら、わ、私の お小遣いからだすからぁ……お願いしても、良いか、な?」


 俺に可愛らしい顔で上目遣いで見てくる花守さんは、声を不安そうに震わせて頼み込んでくる。

 

 花守さんの必死な感じが伝わってきて、俺は思わず頷いてしまった。


「良かったぁ……じ、じゃあ、放課後にお、お願いします!」


 ペコリとお辞儀をすると花守さんは、嬉しそうに肩を揺らして自分席に行ってしまう。


「なんや、物好きやなコモル? アレの恋愛練習に付き合ってあげるなんて、本当にどこか頭ぶつけたんやないか?今から、保険室にでも行こか?」


 花守さんと入れ替わりに来たトモヤがからかい気味だけど……少し心配そうに聞いてくる。


「物好きって……ああ、そうか……」


 この世界のトモヤにとって、花守さんは不細工に見えてるのか……。


「練習くらい別に……付き合ってあげても良いだろ」

 

「せやけどな? ものには限度ちゅうものがあるやん? いくら善意でも、学校Bランキング上位トップ3に入っている【性欲の獣666】と恋愛練習するなんて、襲われて干からびてミイラになっても知らんよ君?」


 うわぁ、変なあだ名つけられてるな……この世界の花守さんは、一体何をしたんだ……?


「そんなに心配しなくとも大丈夫だって、もしもの時はトモヤに連絡するから」

 

「はぁ……心配やなほんま。 危ないと思ったら、直ぐに逃げるんやで?」

 

「トモヤは心配症だな? 大丈夫だって」


 心配症のトモヤをなんとかなだめて、俺は放課後になるまで真面目に授業を受けた。


 幸い授業の進行速度は元の世界と変わらないので安心した。


★放課後 空き教室


「そ、それじゃあ……今から私と古森君は、こ、恋人同士だね!」

 

「まあ……練習だし、そう緊張しないでも大丈夫だって」

 

「ががが……頑張るね!」


 緊張している花守さんは身体をガクガクと揺らし、大きな胸もゆっさゆっさと揺らしながら言った。


 美少女相手だから本来なら俺が花守さんに緊張するんだけど……俺以上に緊張している人を見ると、肩の力が抜ける。


「ま、まずは最初に……手を繋ぎます。 こ、恋人繋ぎだ、よ」


 俺は言われた通りに花守さんの細い指に自分の指を絡ませて恋人繋ぎをする。


「あ……古森君の……大きくて、硬い……」


 触れた花守さんの右手は熱く、湿っている。 女の子とこう言う風に隣り合い手を繋ぐのは初めてで……ドキドキと心臓が高鳴る。


「ふぅ……」


 なんか、身体が熱くなってきたな……ただ手を繋いでるだけなのに、汗かきそうだ。


 お互い無言のまま数分過ぎる。 空き教室で広々としているのに……蒸し暑くてたまらない。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る