正妻戦争
蚊という種族を
まだあの屋敷にはユリアさんが居る。つまり=ヒロインのリリアも居るって事だ。
ここで下手に二人が繋がると、リリア経由で主人公に僕の
誓いを立てた鬼人族は決して裏切らない。そんな事は僕にもわかっている。しかしそれは相手が主人公でも確実な事なのだろうか。
ゲームやラノベでは「いやいや、それはさすがにご都合主義過ぎないか?」という主人公にとって都合の良すぎる展開が頻繁に起こる。そしてここは元々ゲームの世界だ。
現実世界では決して裏切らないであろう三国志の関羽だって、ゲームの中なら裏切らせる事が出来たりするじゃないか。
紅葉は誓いを立てた鬼人族だから裏切らない。そう高を括って油断している
いや、本来なら主人公の仲間になるはずのユニットを僕がパクったんだから、どちらかと言えばこっちが悪いのはわかってるよ。
けどさ、主人公は別に紅葉以外にもいくらでも強ユニットを仲間に出来るじゃないか。ヒロインを掻っ攫おうってわけでもないんだし、肉壁の一人や二人や三人ぐらいは笑って許して欲しいってのが偽らざる僕の本音だ。
「どうされました? ヌシさま」
屋敷に戻ろうと言っていたのに急に足を止め、俯いて考え込んでしまった僕に紅葉が下から覗き込むようにして顔を近付けてくる。
いや、近い。めっちゃ近い。あと十センチでキス出来る距離だよ。ほんとパーソナルスペース狭いなこの子。
「ごめん。まだ紅葉を屋敷に連れていくわけにはいかないんだった。紅葉を迎え入れるには準備が必要なんだ」
「心配なさらずとも、わたしはその辺りの機微は心得ているつもりですが」
きびってなんだろう。だんごしか思い浮かばない。それよりご都合主義による強奪をどう説明すればいいんだろうか。
あそこにはこの世界(僕の事ではない)のヒロインが住んでいて、主人公がリリア√を選択した場合……。駄目だこんな説明しても意味不明だよね。控えめに言って頭がおかしいと思われそう。
「いや、紅葉がどうとかの問題じゃないんだよね」
「人族には何やら煩わしいルールがあるようですね」
種族の違いによるものだと勝手に思い込んでくれてるようなので、ここは訂正せずに流しておこう。それよりも紅葉にどこで生活してもらうかだけど……あそこしかないか。
そんなわけでやってきたのは僕の宝石ヘソクリ置き場である孤児院。
ここの院長先生は孤児を戦争の為に育てるような人物だけあって、お金にとても弱いので例の部屋を紅葉の生活拠点として貸してもらおうというわけだ。ちょっと僕の周りにはお金に弱い人が多すぎるな。
本来であれば屋敷に連れ帰り、しっかり僕の肉壁役をしてもらいたいところではあるんだけど、幸いまだゲーム開始時期まで時間はあるし、今は貯金箱を守ってもらう金庫番の役割をしてもらおう。
―――――――――――――――
☆紅葉
屋敷に戻ると言っていたヌシさまが突然足を止め考え込み始めました。
「ごめん。まだ紅葉を屋敷に連れていくわけにはいかないんだった。紅葉を迎え入れるには準備が必要なんだ」
ああ、そういう事でしたか。
「心配なさらずとも、わたしはその辺りの機微は心得ているつもりですが」
「いや、紅葉がどうとかの問題じゃないんだよね」
「人族には何やら煩わしいルールがあるようですね」
あまり深掘りされたくなさそうなので流しましたが、この手の問題は鬼も人も変わらないものなのですね。
結局の所、群れを作る生き物は皆、根本的には同じという事でしょうか。わたしを孤児院に預けヌシさまは一人ソソクサと帰ってしまわれた。
これで何をしようとしてるのかバレていないつもりなのですから、なんとまあお可愛い事でしょうか。
屋敷に戻るヌシさまを追跡し、ひとまずは自宅を特定します。奴隷商の刺客に気付いた実績があるので、最大限距離を開け追跡しましたが、無事気付かれず特定に至りました。
ヌシさまはわたしに知られたくないようなので、妾との話し合いはヌシさま不在時を狙う事に致します。こういった事は殿方に任せておくと、いつまで経っても解決しないのが常ですから。
後日。改めてわたしの新居となる屋敷を訪ねました。
こちらの屋敷のあるじの妻となった者ですと名乗ると、大慌てで使用人と思わしき者が応接間に通してくださいました。
「あ、あの。旦那様の妻と仰ってましたが、その、旦那様には既に入籍された奥様が……こちらにおられまして……」
なるほど、人族の妻がおられたのですね。やはり直接出向いて正解でした。ヌシさまに任せていては解決までかなりの時間を要した事でしょう。
「奥方ですか。妾だけかと考えておりましたが、ええ、そういう事もあるでしょう。人族のルールを全て把握しているわけではありませんが、ともあれ、わたしが妻となった以上は今後は弁えて頂く事になります」
「弁えるとは……」
「具体的に言うのであれば、週の内の五日はわたしがヌシさまと過ごします。残りを人族の妻、あるいは他にも妾がいるのであれば、その方々との逢瀬の日として会う事を黙認しましょう」
「そ、そのような条件を奥様がお認めになるはずがありません」
「勘違いなさらぬように。これは認める認めないの話をしているのではありません。通告しているのです。ヌシさまは売ればこの屋敷の比ではない豪邸が建てられるほどの財を惜しまずにわたしを求め、わたしはそれに応えました。人族の奥方を住まわせているこの屋敷を見れば、わたしがもっとも愛されているのは明らかです。種族間のしきたりの違いを考慮して最大限譲歩しておりますが、これに従わない場合実力行使する他ありません」
「奥様にそのような事を伝えるなど私には到底……」
「話になりませんね。わかりました。直接出向くとしましょう。部屋まで案内を」
―――――――――――――――
☆リリア
学校から帰ってくると屋敷中がめちゃくちゃに壊れていた。お母さんが疲れた顔をしながら一生懸命片付けていたけど、それを手伝いながら話を聞いた。
聞いてビックリ。なんと鬼人族の愛人が妻を名乗り、直々に乗り込んできたらしい。
あの人が外に女を囲ってるのは公然の秘密だけど、まさか他種族にまで手を出しているとは思わなかった。どこまで節操がない男なのだろう。
世界さんが助けてくれなければ、お母さんもその毒牙に掛かっていたかと思うと本当にぞっとする思いだ。
最初は互いに表向きだけは穏やかに話してたらしいんだけど、次第にエスカレートしていって鬼人族の愛人が「人族の奥方はもうずいぶんお歳を召されているようなので、隠居されてはどうか」って言ったのが決定打になって、奥様が半狂乱になって掴みかかったけど片手で払い飛ばされたって。
お母さんから見てもその鬼人族は信じられないほど綺麗で、私と同級生だって言っても通るぐらい若い子だったそうだから、そんな子にそんな事を言われれば奥様だってそりゃキレちゃうわ。
その後にお母さんが呼んだ田所さんと武藤さん(警備の2人)も子供扱いだったらしくて結局言いたい事だけ言ったら帰っていったらしい。
その後に暫く放心していた奥様が、スイッチが入ったかのように突如暴れまわった挙句、お金になりそうな物を根こそぎ集めて出て行った。その後片付けをしているのが今ってわけね。
正直言ってあの二人がどうなろうと、どうでもいい。
けど世界さんがあんな軽薄キャラを演じるようになっちゃったのは間違いなく、女遊びが酷く碌に家に戻らない父親と、お金にしか関心を示さず子供に愛情を与えない母親のせいだと思う。
「こんな広いお屋敷に家族がいないなんて、世界さん悲しむかな……」
「リリアが世界様を支えてあげたいと思っているなら、お母さんは応援するわよ」
……お母さんに言われてドキッとした。
もしかして私、世界さんを支えてあげたいって思ってるの?
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