林間学校を楽しむ俺と裏で動く陰謀
いよいよ林間学校当日となった。俺たち2年生は朝早く学校の運動場に集合するとバスに乗り、宿泊施設がある山へと向かう。期間は2泊3日だ。
「よっしゃ! あがり!」
「あぁ~また負けちゃったぁ…」
「天子ババ抜きホント弱いよねぇ」「…天ちゃんは表情に出やすいから何を持っているかすぐにわかる」「ハハッ」「善人、お前負けてやれよ」
俺たちはバスでの移動中、みんなでトランプのババ抜きをしていた。
…実は俺は昔からバスの移動中みんなでトランプをやる事に密かに憧れを持っていた。
小学生の時も中学生の時も俺はずっとボッチだったため、クラスメイト達がバスの中でワイワイしながらトランプに興じているのを遠くから眺める事しかできなかったのだ。
その長年の願いが今叶った。そして実際にやってみた感想は…楽しい! 超楽しい!
気の置けない友人たちと一緒になってはしゃぐのはこんなにも楽しい事だったのかと、俺は高校2年生にして初めてそれを経験する事ができたのである。
正直俺はかなり浮かれていた。
こうして自分の彼女である天子さんや仲の良い友達たちと一緒に学校行事を楽しめる。今までの人生でまともに学校行事を楽しめた事のない俺にとって、それは何よりも喜ぶべき事であった。
これまでの努力が報われずっと暗かった人生にもようやく光が差し込み、これからバラ色に光り輝く…俺はそう信じて疑わなかった。
○○〇
目的地に着いた俺たちはバスを降り、人数確認の点呼を取った後に今回お世話になる宿泊施設の中を案内された。
そこは旅館…というよりはガチの合宿場みたいな感じで、俺たちの泊まる部屋は広い大部屋だった。このデカい部屋に俺たち4組の男子全員が枕を揃えて眠るらしい。
大部屋に一旦荷物を置いた俺たちは施設の食堂で昼食を取り、その後再び施設の外に集結する。そこで教師から本日の予定をもう1度説明された。
本日の予定はまず各班に分かれてこの山のハイキングコースを踏破するらしい。ハイキングコースにはチェックポイントがあり、そこに置いてあるスタンプを全部集めた上でゴールするとクリアだそうだ。
そしてその後は夕食、班員で協力しカレーを作って食べる。夕食後は自由時間を経たのちに風呂入って就寝という流れらしい。
早速各班に分かれて俺たちはハイキングコースに挑戦する。俺はまるで小学生に戻ったみたいに興奮していた。心からワクワクが溢れて止まらない。
だって仕方がないじゃないか。それまでずっとやりたくても経験できなかった事をやれているのだから。この心の高揚はもう自分でも止めようがなかった。
「よしっ! 早速行こうぜ!」
「「「「「おー!!!」」」」」
○○〇
「腹減ったなぁ」「…空腹」「結構距離あったね…」「ハッハッハ。これくらいでへこたれてどうするんだ?」
「ふふ…。じゃあみんなでカレー作ろっか?」「天子さん、何をすればいい?」
見事ハイキングコースを踏破した俺たちは宿泊施設に戻ってきていた。次はいよいよお待ちかねのカレー作り。みんなで協力して料理を作るとかワクワクする。
「なぁ、じゃがいもの皮剥きこれくらいでいいか?」「塁智君、芽が残ってるよ」「おっと…」「…たまねぎ、目に染みるぅ」「…目を洗って来たまえ、ここは俺がやっておこう。う゛っ…俺も目がぁ!?」
「ちょ、善人君カレー焦げてる!? 火弱めて!」「おっとっと!?」
紆余曲折あったが俺たちはなんとか無事カレーを作る事に成功した。もちろん全員で作ったカレーは絶品だった。今まで食べたカレーの中で1番美味しいと言っても過言ではない。
あぁ…本当に楽しい。俺の人生の絶頂期は今なのではないかと思うぐらい仲間たちや愛する恋人と過ごす林間学校は楽しかった。まるでそれまで失っていた青春が今になって戻って来たみたいに俺はそれを全力で謳歌していた。
…願わくば、この楽しい時間がいつまでも終わらないで欲しい。そう思いながら。
○○〇
~another side 満潮~
「クソッ! あの悪人面が!!! 俺の九条とイチャイチャしやがって…」
「極道の奴、なんか調子乗ってるよね」
満潮正平は自分の想い人である九条天子と乳繰り合う極道善人に激しいジェラシーを感じていた。自分の取り巻きである三橋とその様子を観察しながら悪態をつく。
本来であればあそこにいるのは自分だったはずなのに…。
1週間ほど前、満潮は極道の悪事の証拠を見つけてやると意気込んでいたまでは良かったが、未だにその証拠を見つけられずにいた。
それもそのはずである。極道善人は顔が怖いだけの善良な一般人なのだ。それに小心者なので今まで犯罪という犯罪には手を染めた事もない。いくら調べようが彼の悪行の証拠など出てこないのだ。
このままでは九条天子と極道善人を別れさせる事ができない上に、みんなの前で大言を吐いた自分が恥をかいてしまう。それはプライドの高い彼にとって許されざる事だった。
そう思った彼は禁断の手を使う事にした。
「なぁ三橋、お前も極道の事嫌いだよな?」
「嫌いさ! あいつは俺から聖女様のハンカチを奪ったんだぜ?」
「じゃあ…俺の作戦に乗れよ」
「もちろん! で、どうするの?」
「あいつの悪事の証拠がつかめないのなら…それを捏造してやればいいだけの話。大丈夫、みんな俺たちの言う事を信じるさ」
極道善人は悪人として学校中の生徒から嫌われている。だから悪事を捏造した所でそれを疑う奴はいないだろう。極道は再び孤立し、九条天子も彼に愛想を尽かす。そう計算しての事だった。
「満潮君、それ…あたしたちにも協力させてくれない?」
満潮が三橋と密談をしていると突然横から声をかけられた。そちらの方を振り向くとそこには夕闇佐枝子をはじめとするギャル3人衆がいた。
彼女らは満潮に協力して彼の好感度を上げようとずっと機会をうかがっていたのだ。今が絶好のチャンスだと判断し声をかけたのである。
「あたしたちも極道に恨みがあるの。だから満潮君の考えに協力するよ!」
「そりゃいいや。ハハッ、やっぱり俺の考えが正しいんだ。あんな悪人は排除されるべきなんだよなぁ!!!」
満潮はそう言ってゲス顔をした。
◇◇◇
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