林間学校

 季節は進み7月になった。しとしととした梅雨の季節は過ぎ去り、灼熱の太陽が地上を照らす熱気あふれる季節となる。


 そんな夏の気候と同調するかのように、俺たちのクラスはワイワイと騒がしい空気に包まれていた。


 現在俺たちが何をやっているのかというと…来週行われる「林間学校」の説明を担任の教師である吉原先生から受けている最中であった。


 「林間学校」とは何ぞや? と一応知らない人のために説明しておくと…山林などの自然に囲まれた施設に生徒を合宿させ、生徒たちの保養、身体訓練、仲間との協力を目的として行う学校行事の1つである。


 無茶苦茶簡単に言うなら修学旅行の亜種みたいなものだ。


 通常なら…みんなで一緒に合宿するというと楽しみに思う人が多いのだろう。


 2年4組のクラスメイト達もこの行事を楽しみにしている人が多いようで、先生の説明を聞きながら近くの席に座る友達と小声で姦しく「〇〇が楽しみ」「△△面白そう」と話し合っていた。


 みんなでレクリエーションに興じたり、料理を作ったり、風呂に入ったり、寝る前に恋バナしたり…確かに想像する分には楽しそうである。


 俺がこのように言うのは…俺自身が今までそんな体験をした事が無いからだ。


 俺は小学生の時からこの怖い顔のせいでまともにクラスメイト達と協力する行事を楽しめた記憶がなかった。同じ班になったクラスメイト達から怖がられ嫌われ…会話すらできなかったのだ。


 だから小学校・中学校の修学旅行や文化祭などはいつもボッチで行動していた。教師の「はーい! じゃあ仲の良い友達と一緒に班を作ってねー!」という言葉はもはやトラウマである。


 …だが今年は違う。


 教師に「仲の良い友達と班に分かれてね」と言われても、俺と一緒に班を組んでくれる仲間たちがちゃんといるのである。


 俺も高校2年生になってようやく…このようなクラスで協力し合う行事を楽しめるようになったのだ。故に今年は俺もこの「林間学校」という行事を非常に楽しみにしていた。


「それじゃあ今から男女3人ずつ、計6人の班を作ってください。その班が林間学校中に一緒に行動する班になります」


 キターーー! 


 吉原先生の言葉にクラスメイト達が一斉に動き始め、仲の良い友達と同じグループになるため動き出す。


 俺はゆっくりと隣に座る自分の恋人の方を見た。すると彼女も同じく俺の方を見ており、2人の目が合う。…やはり考えている事は一緒か。


「善人君、一緒の班になろう?」


「もちろん!」


 天子さんはニッコリと笑いながら俺に一緒の班になろうと提案してきた。俺は秒でそれを承諾する。断る理由などない。せっかく自分の恋人が同じクラスにいるのだから同じ班にならないと損だろう。


 …ちなみに俺たちが付き合っているという事は例の事件ですでに学校中の知る所となっていた。なのでもう隠すような事はしていない。


 最初はかなり陰口を叩かれるだろうなと身構えていたのだが、俺たち2人が付き合っているというのを大抵の人は受け入れてくれたようだ。


 もちろん快く思っていない連中もごく少数だがいるようではある。


 あぁ、天子さんと一緒に行く林間学校楽しみだなぁ。彼女と一緒にカレー作ったり、肝試ししたり、自由時間に遊んだり…俺の頭の中を妄想が駆け巡る。


「おい善人、顔がニヤけてるぞ」


「…ハッ! スマンスマン」


 自分の妄想が顔に出ていたのか、前の席に座る茂雄が突っ込みを入れて来た。そしてその様子を左前の席に座る近衛さんや2つ左の席に座るみーちゃんがニヤニヤしながら冷やかしてくる。


「あー…この教室暑いなー。エアコン効いてないんじゃない?」


「…同意。ここだけ空気が暑い」


 2人はわざとらしく制服の襟元をバタバタさせて扇いだ。


 2人に揶揄やゆされた俺と天子さんの顔が赤く染まる。最近では俺と天子さんが何かするとこの2人にイジられるのが恒例となっていた。


「あーそれよりも、だ! 林間学校で一緒に行動する班はここにいるいつものメンバーでいいよな?」


 このままだと2人にイジられ続ける事になる。そう思った俺は話題をそらすために無理やり班決めの話題を繰り出した。


「それはいいけど…班って男女3人ずついるんだよね? 女子はあたしと天子とみーちゃんでちょうど3人。でも男子は極道君と塁智君の2人だけだからあと1人足りないんじゃない?」


「あっ、そうか」


 班は男女3名ずつ計6名いなければならない。いつものメンバーだと男子が1人足りないのだ。


 俺は誰か残っていないかと辺りを見渡す。それと同時に委員長である大谷が教室の後ろの扉を開けて中に入って来るのが見えた。


 …トイレにでも行っていたのだろうか? 俺は彼に声をかけた。


「委員長、もしかしてまだ班決まってなったりする?」


「ん? ああ、ちょっとトイレに行っている間に乗り遅れちまってな」


「ちょうどいい。俺たちの班男子が1人足りないんだけど…一緒にどうだ?」


「それはありがたいな! 俺も極道の班に入れてもらえるか?」


「もちろんだ! よしっ、これで男女3人ずつ集まったぜ!」


 早々にメンバーの決まった俺たちは吉原先生に班員の報告に行った。これは楽しい林間学校になりそうだ。林間学校は来週か…楽しみだなぁ。



◇◇◇


この物語ももうすぐ終わります。

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