満潮とギャル3人衆(another side)

「クソガッ!!!」


 ドンガラガッシャーン!


 満潮は2年4組の教室を出ると廊下の向こう側にある空き教室へと向かった。彼はその空き教室の中に入るや、椅子を蹴り上げて抑えきれない苛立ちを発散させる。


 彼が苛立っている理由は2つ。


 1つ目は自分が前々から狙っていたこの学校で1番の美人、九条天子をクラスの嫌われ者である極道善人如きに先に盗られた事。


 「クソッ! クソッ! クソッ! 何であんな奴に九条が…」


 彼は今まで狙った女の子はその甘~いマスクと話術で絶対に落としてきた。彼の中では遠からず九条天子もそうなるはずだった。


 こまめに美容室に行って髪型を整え、高い美容液や乳液を買って肌のケアを入念に行い、そしてファッション雑誌を読みあさって常に流行のオシャレを意識していた。女の子にモテるための努力を怠った事など無かった。


 それをあんなゴミのような悪人面如きに先に奪われたのだ。彼にとってそれは耐えがたい屈辱だった。


 ガシャーン!


 彼は再び怒りに任せて椅子を蹴る。


「なんで俺が非難されなきゃいけないんだよ!? みんなあいつの事は嫌いなはずだろ!? 空気読んで俺の言う事に従っとけや!」


 2つ目はその嫌われ者の極道を非難しようとして行った「極道善人は悪人だ!」という満潮の主張をクラスメイト達に否定された事。


 満潮は何故クラスメイト達が極道善人を擁護するのか理解できなかった。


 少し前までは極道のその悪人面から「彼が悪い事をした」と言えばどんな適当な事を言っても周りの人間たちはそれを信じて極道を軽蔑した。彼はまごう事なき学校の嫌われ者であった。


 それこそ「女の子をソ〇プに落として変態調教している卑劣漢」だとか「隣の家の爺さんがあいつの顔が怖いから心臓発作起こして死んだ」という彼が考えた適当なでまかせすらもみんな容易く信じたのである。 


 ところが先ほどは極道の悪行をあげつらっても「彼はそんな事をするような人ではない」と賛同されるどころか否定され、むしろ満潮の方が非難されたのだ。


 満潮は小学生の時から今までその優れた容姿や家が金持ちな事からずっとクラスのトップであった。それ故に周り者は皆彼に従い、彼を否定する事などあまり無かった。


 彼はまさかクラスのトップカーストに君臨している自分が非難されるとは思ってもみなかったのである。


 自らを否定された経験などあまりない彼にとってそれは心をささくれ立たせるには充分であった。


「クソ!!! クソ!!! クソガァ!!!」


 ガッシャーン! ガッシャーン! ガッシャーン!


 彼は空き教室にある椅子を憂さ晴らしに2度3度と蹴り上げる。彼の人生でここまで腹が立ったのは初めての事であった。


「み、満潮君…」


「あぁ!?」


 声をかけられたので教室の入り口の方を見ると、そこには自分の取り巻きの1人である三橋が立っていた。他の取り巻き達はいない。


 他の取り巻き連中も極道善人が九条天子と付き合っている事に対して否定的だったものの…満潮の無茶苦茶な主張に対するクラスメイト達の反論は妥当だと思っていたので彼を追いかけなかったのである。


 要するに他の取り巻き達は満潮の態度に呆れ果てたのだ。


 彼に付き従うのは今や三橋だけとなった。三橋は極道に聖女のハンカチを取り上げられた恨みから満潮に味方する事にしたのである。


「俺間違ってないよな!? 九条と極道が付き合うなんておかしいよな!?」


「う、うん。俺もそう思うよ。聖女様があんな悪人と付き合うなんてありえない。絶対聖女様は極道の奴に騙されて付き合ってるんだ!」


「だよな!? よしっ、それじゃあ俺たちで極道の悪行の証拠を掴んで九条に突きつけるぞ。悪行の証拠さえ見せれば流石に九条の目も覚めるだろう」


「分かったよ。あの悪人に騙されている聖女様を正気に戻すんだ!」


 2人はそう言って意気込んだ。



○○〇



 そして同じ時刻、満潮と三橋が話している空き教室の前では夕闇佐枝子率いるギャル3人衆がその会話を盗み聞きしていた。佐枝子は以前から満潮に好意を抱いており、彼が教室を出て行った後に慰めようと追いかけてきたのだ。


 盗み聞きした会話の内容を受けてギャル3人衆がヒソヒソ声で話し合う。


「ねぇ佐枝子聞いた? 満潮君、極道の悪事の証拠を掴むんだって!?」


「聞いた聞いた。正直あたしらも極道と性女の2人には恨みがあるし、ちょうど良い機会だわ。あたしらも満潮君に協力して極道の悪事の証拠を掴むのよ」


「やっちゃえ佐枝子! あれ…? でも極道を排除したら満潮君は性女様を狙うようになるんじゃ…?」


「極道がいなくなった性女なんてあたしらがちょっと〆れば大人しくなるでしょ? あの女を〆て満潮君と付き合うのを断るように仕向ければいいのよ。つまりこれは満潮君の好感度を稼ぎつつ目障りなあの2人を排除できる絶好のチャンスってワケ! このビッグウェーブに乗らない手は無いわ!」


「流石佐枝子! 天才!」


 こうして満潮と三橋、そしてギャル3人衆の間に奇妙な協力関係が成立した。この関係が今後どのような結果になるのかは…まだ誰も知らない。



◇◇◇

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