2人の仲が周りの連中にバレる

 6月も終盤になった。俺は相変わらず天子さんや周りの連中の手助けをして、自分の内面を理解して貰おうと奮闘していた。


「よ…極道君、また頼めるかな?」


「おうよ」


「えっ、極道も手伝うの?」


「大丈夫大丈夫! よ…極道君優しいから」


「あ、ああ…。九条さんがそこまで言うなら…よろしく頼むよ」


「これを資料室まで持って行けばいいんだな。任せとけ」


 本日の俺は休み時間に生徒会の手伝いをしている天子さんの助っ人として荷物運びを任されていた。


 …以前お互いに下の名前で呼ぶと決めた俺たちだが、下の名前で呼び合うのは2人っきりの時かいつものメンバーがいる時だけにしておいた。


 何故そんなめんどくさい事をしているのかと言うと…下の名前で呼ぶと俺たちが付き合っている事がバレかねないからだ。


 天子さんは基本的に異性を下の名前で呼ばない。名字呼びだ。そんな彼女が俺を下の名前で呼べば…俺たちの仲に何かあるのではと勘繰る人間が出てくるのは想像に難くない。


 学校で大人気の天子さんに恋人がいる。しかもその相手は嫌われ者で有名な俺だと知られれば…大騒ぎになるのは火を見るより明らかだ。少しずつ俺の理解者は増えてきているが、それでも俺の味方をしてくれる人はまだまだ少ない。


 彼女をいわれのない誹謗中傷から守るためにも、ここは付き合っているのを隠し通すのが賢明だと判断した。


 …が、天子さんはたまにみんなの前で俺を下の名前で呼びそうになっている時がある。2人っきりの時は「善人君♡ 善人君♡」と言って甘えて来るからな。その時の癖が抜けないのだろう。俺は毎回それをヒヤっとしながら見ていた。


「ここに置いておけばいいんだな」


「ああ、そこに置いておいてくれ。…極道、助かった。ありがとう」


「いいって事よ。他に何か手伝う事は無いか? なんでも手伝うぜ」


「いや、これで終わりだ」


「そうか、手伝いが必要ならいつでも言ってくれ」


「ああ。…お前、意外と良い奴だな」


 生徒会に所属しているクラスメイトはそう言って俺に感謝を述べた。


 よしっ、これでまた1人俺の内面を理解してくれるかもしれない人が増えた。この調子でドンドン自分の内面をアピールしていこう。



○○〇



 次の休み時間。天子さんの周りには先ほどの授業で分からなかった内容を質問しようとクラスメイトたちが集まっていた。よく見る光景だ。


 幸いにも俺の得意な教科だったので、天子さんがこの前のようにこちらにも案件を投げて来る。


「それじゃあ君、この子にこの部分を教えてあげて」


「任された…ん?」


 …ヤバッ。天子さん普通に俺の事を下の名前で呼んじゃってる。


 案の定そのクラスメイトがそれに反応した。


「『よしと』って誰の事だ?」


「えっ? あっ…。えっと、そのぉ…極道君の事だよ」


 それに気が付いた天子さんが急いで取り繕った。…頼む、これ以上勘繰らないでくれ…。


「えっ、極道の下の名前って『よしと』って言うのか。知らなかった。九条さんよく知ってたな」


「うん、たまたまだよ。たまたま…。あはは////」


「でも最近天子っち極道君と仲良くない? 前はそんなに仲良く無かったよね?」


 同じく九条さんに授業の内容を聞きに来ていた別のクラスメイトの女の子もその話題に乗っかって来る。


 これは…不味い流れなのでは?


「天子の弟と極道君が仲良いからその縁で仲良くなったんだよね?」


「そ、そうそう。極道君とうちの弟の仲が良いから…」


「へぇ~そうなんだ。というか九条さん弟いたんだ」


 左前の席に座る近衛さんがすかさずフォローしてくれた。彼女たちにも俺たちが付き合っている話は他の人にはバラさない方が良いというのは伝えてある。


 俺は近衛さんに小さく「ありがとう」とジェスチャーをした。彼女はそれにウィンクで答える。


 これでこの話題は上手く誤魔化せた。


 …かと思いきや、そこに思わぬ爆弾が投げ込まれる。


「でも天子っちと極道君、先月の終わり頃2人で繁華街にいなかった?」


「「!?」」


 それを聞いた俺と天子さんの背中が同時に「ビクッ」とはねた。


 嘘だろ…まさか見られていたのか? 確かにあそこはここら辺の学生御用達のデートスポットなので誰かに見られていてもおかしくはないのだが…。


 その話を聞いた周りのクラスメイトたちも話に乗っかり、ちょっとした騒ぎになり始める。


「2人っきり? それってもしかして…デート? マジで? 九条さんと極道が?」「俺の憧れの九条さんが…」「何で極道なんかと…」「ついに聖女様に彼氏が!?」「キャー! 聖女と悪人のラブロマンスよー!」「ヒュー!ヒュー!」


 みんながみんな、思い思いの事を口走り始める。


 …これは不味い。恐れていた事態になった。このままでは天子さんも陰口を叩かれるかもしれない。それは避けなければ。


「あ、あの場に実は天男君もいたんだよね? 確か…天男君の買い物に極道君と天子が付き合った形じゃなかった? 2人っきりじゃないからデートじゃないよ。多分…」


「そう! あの場に天男君もいたんだよ。だからデートじゃない。なぁ茂雄?」


「えっ、そこで俺に振るのかよ!?」


「えー? 私しばらく2人の事を見てたけど、弟君らしき人なんて見当たらなかったけどなぁ?」


 近衛さんがなんとかフォローしようとあの時の事を誤魔化し、俺もそれに全力で乗っかる。


 …だがすでに焼け石に水だったようだ。俺と天子さんは教室中の注目の的になっていた。


「で…聖女様、実際の所どうなの?」


 クラスのお調子者の女子がTVのレポーターのように手をマイクに見立てて天子さんにインタビューをする。


「あ、あ、あ…//// はぃ…付き合ってます////」


「キャー!!! スクープよー!」


 天子さんはそれ以上嘘がつけなかったようで、顔を真っ赤に染めながら俺たちが付き合っている事を白状してしまった。


 …あぁ、隠し通すのは無理だったか。


 

◇◇◇

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