少しずつ理解者を増やしていく 後編

 俺は重たそうにハードルを運んでいたみーちゃんと近衛さんを手伝う事にした。彼女たちからハードルを1つずつ受け取ると、一緒にそれを体育倉庫まで運んでいく。


 体育倉庫の中に足を踏み入れると地面にこぼれていたラインパウダー用の石灰の粉がモワッと舞い上がり、俺たちの周りで白い煙となって渦巻いた。


「ケホッケホッ」


 …これ苦手なんだよな。ここって掃除とかしないんだろうか。


 俺は辺りに渦巻く石灰の煙を手で払いながらハードルを片付けるためにそれらがまとめられている場所を探した。…ハードルはよりにもよって体育倉庫の1番奥にまとめられているようだった。


 俺は煙たい体育倉庫の中を進んでハードルを元あった位置に返却する。まずは自分が持っていた分を元の位置に戻した。


 そして次にみーちゃんと近衛さんからリレー式に残りのハードルを受け取ると、それらを元の位置に返却する。体育倉庫の奥は狭いので1人しか満足に通れないのだ。


「ふぅ、これで終わりかな?」


「…ごくどー、シェイシェイ」「手伝ってくれてありがとう極道君!」


「これくらいどうって事ないさ」


 2人が俺に礼を言ってくる。俺は頭をかきながらそれを受け取った。


 …少し心がこそばゆい。自然な感じで友達から礼を言われる事に俺がまだ慣れていないからであろう。


「さて、こんな煙っぽい所はとっととおさらばしようぜ!」


 俺は照れ隠しのためにそう言うと2人と体育倉庫を出ようとした。…それにボールも探さないといけない。


「そうだね。わっ、とっと…」


 しかしその時、体育倉庫を出ようとした近衛さんが振り返り際に隣に置いてあったテニスのスコアボードに足を引っかけてこけそうになった。


 なんとか横にあった棚に手をついて転倒するのは免れたが、その衝撃で棚の上に置いてあった玉入れ用の紅白の球が入っている籠のバランスが崩れ、近衛さんとみーちゃんに降りかかろうとする。


「あぶない!」


 俺はなんとか身体を降りかかって来る玉の間に割り込ませ、彼女たちを玉の雪崩から守った。1つ1つの玉の重さは軽いが、それが一気に崩れて来るとなると結構な重さになる。ケガをする可能性もゼロではない。


 ズザザザザザ。


 数秒後、球の雪崩は収まった。


「2人とも大丈夫か?」


 雪崩が治まった後、俺はまず2人の安否を確認した。見た感じ俺が間に入ったおかげで2人には球が降りかかっていないようだった。


「…モーマンタイ」「う、うん、あたしは大丈夫。極道君ごめんね、あたしのせいで…。極道君の方こそ怪我はないの?」


「俺は大丈夫。気にするな、友達を助けるのは当たり前だろ?」


 近衛さんは自分が籠を倒してしまった罪悪感からか申し訳なさそうに謝って来た。俺はそれに対しこれくらいは別になんでもないという風に返す。


「極道君…」


 近衛さんは敬服の表情で俺を見つめてきた。…これで少しでも俺の内面を彼女に理解して貰えたのなら、それが俺の本望である。


 俺たちは倒れてきた紅白の球を籠に入れ、元あった棚の上に戻すと今度こそ体育倉庫を出た。煙っぽい体育倉庫の外に出るとさわやかな日の日差しが俺たちに降り注いだ。


 辺りを見渡すと男子たちはまだ満潮が吹っ飛ばしたボールを探しているらしく、俺は2人と一旦別れてボールの捜索に戻る事にした。


 みーちゃんと近衛さんは着替えるために校舎の方に戻って行く。


 だが彼女たちが校舎に入ろうとした瞬間、近衛さんがこちらを振り返り、俺に駆け寄って来てこう言った。


「極道君あたしね、最初はあなたの事苦手だった。天子からあなたは悪い人ではないと聞かされていたけど、どうしてもその怖い顔が苦手で…。でも実際に接してみてあなたがとてもいい人だという事が分かって…怖さが消えた。ごめんね、今まで外見で判断しちゃって。…天子があなたに惚れた理由、分かる気がするな」


「近衛さん…」


 近衛さんはそう言ってニコッと笑った。


 これは…近衛さんに俺の内面を理解して貰えたと思っていいのだろうか? これでまた1人俺の理解者が増えた。


 外見がクソだからと言って腐らずに善行を心掛けてきた事は決して無駄ではなかった。なんだ、頑張ればみんなにも自分の事をちゃんと理解して貰えるじゃないか。俺は自分の努力が少しずつではあるが、結ばれつつある事に感動した。


「近衛さん…俺の方こそありがとう! 俺の内面をちゃんと見てくれて…」


 俺も近衛さんに礼を言った。彼女は「いやいや、お礼を言われる事なんてしてないよ」と謙遜していたが、俺にとっては自分の内面をちゃんと見てくれた事が何よりも感謝すべき事だったのだ。


 近衛さんの後ろではみーちゃんがドヤ顔で「グッ」と親指を立てていた。あれは俺に対する賞賛だろうか? …彼女のキャラは相変わらずいまいちよく分からない。


「じゃ、またね」


 近衛さんは今度こそ校舎の中に戻っていった。


「よしっ、ボール探し頑張るか!」


 俺は喜びで満ち溢れる心を抑えながらボール探しに戻った。


 …ちなみにボールは体育倉庫の横に転がっており、すぐに見つかった。



◇◇◇


少し短いですが、前の話と1つにすると今度は長くなってしまうので分けました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る