少しずつ理解者を増やしていく 前編

 九条さんの友達2人と友達(仮)になった。とりあえず目下の目標はまだ俺の事を半信半疑な近衛さんに内面を理解して貰う事だ。…みーちゃんの方は理解してくれていると思われる。多分。


 まずは身近な2人に俺の内面を知って貰い、そして次はその周りの人に、その次はまた別の人に…という感じで少しずつ俺の理解者を増やしていこうという作戦である。


 時間はかかるだろうが、九条さんと一緒ならそれを成し遂げられる気がする。俺はそんな気がしていた。


 

○○〇



 彼女たちと友達(仮)になってから数日が経った。九条さんの計らいで最近の俺たちは5人一緒に昼休みに中庭で昼食を取りながら話すようになっていた。


 最初こそ緊張していた俺だったが彼女たちとの会話に少しずつ交じる事ができるようになり、そこそこ話せるようにはなった…と思う。


 近衛さんの方も俺と同じように最初は緊張していたようだったが、徐々に笑顔が増えてきた。


 みーちゃんの方は普段から表情があまり変わらないのでよく分からない。時折小さく笑っているので打ち解けている…のだとは思う。


 そしてその日の昼休みは終わった。5限目の「現国」という食後の睡魔に襲われる地獄の様な授業を乗り越えると、6限目は体育だった。…逆にしてくれると目が覚めて良いんだがな。


 俺は体操服に着替えて運動場へ向かう。本日の体育は男子が運動場の端で2チームに分かれてソフトボール、女子がその対角の位置でハードル走をやるらしい。


 クラスメイトの男子生徒たちが女子がハードル走をやっている方までボールをかっ飛ばそうと張り切ってバットを振っている。


 おそらく「女子が体育をやっている所までボールを飛ばせる俺スゲー!」とアピールがしたいのだろう。


 特にこのクラスはみんなの憧れである九条さんがいるからな。彼女に自分の存在をアピールしようと必死だ。


 まぁ…その九条さんはもう俺の恋人なんだけどな。


 というか…あまり向こうの方までボールを飛ばすと片付けの時にめんどくさいからやめて欲しい。


 俺がそう思っていると案の定「カキーン!」という音と共に俺たちのチームの男子生徒の振ったバットに当たったボールが運動場の向こう側へと勢いよく飛んでいった。…相手チームの男子がそれを追いかけるがボールを見失ったようだ。


 バットを振ったのは…満潮か。全く、余計な事しやがって…。


 そこで丁度授業終了のチャイムが鳴り響いた。体育教師が「全員でボールを探しておくように」と命令を残して体育の授業は終わる。

 

 俺たちは運動場の向こう側…女子がハードル走をやっている辺りまで満潮がぶっ飛ばしたボールを探しに行った。女子の方も授業が終わったらしく、みんなでハードルの片づけをやっている。


 女子はみんな重たそうにハードルを持ち上げながら体育倉庫へと運んでいた。男子からするとハードルなど片手で持ち上げられる重量だが、女の子たちからするとかなり重たいようだ。


 そんな中、みーちゃんと近衛さんもハードルを重たそうに抱えながら体育倉庫に運んでいるのを見かける。


 あれ…いつも彼女たちと一緒に居る九条さんの姿が見えないな。どこに行ったのだろう?


 俺は彼女たちに声をかけてみた。


「おう、お疲れ!」


「…ごくどー、お疲れ」「あっ…極道君お疲れー」


「九条さんは?」


「天子は転んで怪我した娘を連れて保健室に行ったよ」


「あぁ、なるほど」


 なんとも九条さんらしい。だからこの場にいないのか。


「…ほっせ、ほっせ」「うんしょ、うんしょ…」


 見た感じ2人ともハードルを運ぶのに苦労している様だ。2つのハードルを重ね合わせ、それを両手で抱えながら一生懸命運んでいる。


 これ…手伝っても大丈夫かな? 友人が苦労しているのなら助けるのが当然だろう。


 だが俺の頭の中で過去に女子に声をかけようして断られた記憶がフラッシュバックする。またあのようになったら…。


 …いや、ここで怖気づいてどうする。俺の内面を理解して貰う絶好のチャンスじゃないか。

 

 彼女たちは大丈夫…。俺は頭を振り払って過去の記憶を消し飛ばすと、彼女たちに手伝いの提案をしてみた。


「それ重いでしょ、手伝うよ。片方貸して。なんなら両方持とうか?」


「…流石ごくどー。正直、これかなり重かった」


「えっ…? でも…悪いよ」


 みーちゃんは俺の提案に乗り気のようだったが、近衛さんは俺の提案を断った。彼女の中ではまだ俺に遠慮があるのだろう。


「気にしないで。友達が大変そうなのを放っておけないだけだから」


「…さんきゅー。…沙織も重いのなら手伝ってもらえばいいと思う」


 みーちゃんはそう言って2つ持っていたハードルを1つ俺に渡してきた。


 それを見た近衛さんはまだ迷っていたようだったが、数秒ほど悩んだのちに俺に「お願いしてもいいかな?」と持っていたハードルの片方を渡してくれた。


 やはり彼女も本音は重たかったようだ。


「よしきた!」


 俺はそれを受け取ると計2つのハードルを片手で持ち上げ、2人と一緒に体育倉庫の方に向かう。


 …もしかするとみーちゃんは近衛さんが俺を頼りやすいように気を使ってくれたのかもしれないな。まだ彼女の性格はよく理解できていないが…感謝だ。


「…ごくどー、力持ち」


「そうだよねー。あたしなんて両手で2つ持ちあげるのがやっとだったのに…片手で2つも持てるなんて。やっぱ男子は凄いね。ありがとう極道君」


「これくらいどうって事ないさ」


 近衛さんは微笑みながら俺に礼を言ってきた。


 よしっ、人助け成功!!



◇◇◇


書いていて長くなったので話を分けます。


主人公の理解者は少しずつですが増えていきます。

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