九条さんのお手伝い その1
「九条さんの手伝い?」
「そう。私の手伝いをする過程で極道君の内面を他の人にも見てもらうの。私が近くにいればフォローでもできるし…」
九条さんの友人2人に無事内面を理解して貰った俺は次はどうしようかと考えていた。そしたら九条さんが「自分の仕事の手伝いをしてはどうか?」と提案してきたのだ。
彼女はその人柄故に学校内の様々な人から仕事を頼まれる。俺もその仕事を一緒に手伝っていれば…彼女を通して周りの人にも内面を理解して貰えるのではないかという魂胆である。
「そ・れ・に! 私の手伝いをしていれば極道君とそれだけ長い時間一緒に居られるじゃない? まさに一石二鳥!」
俺たちは付き合っている事を隠すために学校内ではあまり表立って一緒に行動しないようにしていた。しいて言うのなら…一緒に行動するのは昼食を食べる時と放課後帰る時ぐらい。
しかし九条さんの手伝いという名目ならば…2人で一緒に行動しても怪しまれる事はあまり無いだろうという事である。 誰かに見られても「手伝いを頼まれたから!」と言い訳が出来る。
俺としては断る理由が無かったので喜んでそれを承諾した。
○○〇
「それじゃあ申し訳ないけど九条さんよろしく頼むよ。ちょっと量が多いけど大丈夫かい?」
「大丈夫! それに今日は頼りになる助っ人を呼んで来たから。極道君、お願いね!」
「おう、任された!」
「助っ人? …って極道!?」
本日の九条さんは委員長から大量の配布物をまとめる仕事の手伝いを頼まれていた。
本来であれば…これはクラスの委員長2人がやる仕事なのであるが、本日は女の委員長が風邪で休んでいたため、男の委員長である
俺はそれに助っ人として参戦する。委員長である大谷はクラスのまとめ役だけあってクラス内でも高いカーストに位置している。その彼に俺の内面を理解して貰えたならば、心強い味方になってくれるだろう。
委員長はまさか俺が助っ人に呼ばれるとは思っていなかったようで、困惑している様だった。
「だだだ、大丈夫なのか? 後で〆られたりしない?」
「そんな事は絶対ないよ。極道君は優しい人だから」
「そ、そうか…」
当初は俺に対し拒否反応を示していた委員長だったが、九条さんの説得により俺が手伝う事を承諾した様だ。流石九条さん、頼りになる。
「結構量があるな。とっとと終わらそうぜ!」
「うん、頑張ろう!」
「あ、ああ…」
俺たちは早速作業に取り掛かる事にした。委員長が作業内容を説明してくれる。
10種類ある連絡事項が書かれた紙の山を1枚ずつ取って重ね、10枚で1セットになるようにホチキスで止める。そしてその10枚1セットの紙束をクラスの人数分作るというのが今回の仕事だ。
話し合いの結果、作業を効率的に進めるために俺と委員長が10枚セットになるように紙をまとめ、九条さんがそれをホチキスで止めるという分担になった。
俺たちは黙々と作業を続けていく。その途中、俺と委員長の目が合った。彼は俺と目が合うや「サッ」と目を反らした。彼もまだ俺の事が怖いのだろう。
「あっ…」
しかし俺の方に気を取られ過ぎたのか、彼は手元にあった紙の山を崩して床にぶちまけてしまう。沢山の紙が床の上にバラバラと散らばった。
「す、すまない…」
「気にすんな。誰にでもミスはあるさ」
俺はニコッと笑いながら委員長が落とした紙を一緒に拾い上げる。彼も悪気があってやった訳ではない。ならばこの程度の事で怒るのは筋違いという物だ。
「極道…」
俺は落ちた紙をまとめると再び机の上に置いた。そして引き続き紙の山を10枚セットにまとめる作業を進める。
3人で頑張ったおかげか20分程度で作業は終わった。あとはこれを担任の教師の所に持って行くだけだ。
「ふぅ…思ったより早く終わったな」
「極道君が手伝ってくれたからだよ。ありがとう」
「これくらいお安い御用さ。委員長もお疲れ!」
「ああ、お疲れ。極道…協力感謝する。あとは俺が先生の所に持って行くよ」
委員長はそう言って配布物をまとめた物を持ち上げようとしたのだが…想定より重かったようで、彼は紙の山を抱えたまま少しフラついてしまう。俺は彼がこけないように急いで支えた。
「大丈夫か委員長?」
「すまん。ちょっとよろけただけだ」
「俺も手伝うよ。担任の所まで持って行けばいいんだろ?」
俺はそう言って委員長が持っている紙の山を半分ほど奪い取った。
「いや、まとめるのを手伝って貰ったのにそこまでやって貰う訳には…」
「遠慮すんな。ここまで手伝ったんだから最後まで付き合うよ」
「重ね重ねすまんな。極道…俺はお前の事を少し誤解していたかもしれん。お前…意外と良い奴だったんだな」
「だから言ったでしょ? 極道君は良い人だって!」
「俺、この見た目のせいで勘違いされやすいんだ。実際は結構小心者なんだぜ? あっ、一応言っとくけど俺がヤクやってるとか女の子ソ〇プに落としているとかは全部嘘だからな」
「ハハッ、そこまでは流石に俺も信じてないよ。本当だったらお前学校にいられんだろ?」
「ちげぇねぇや」
気づけば俺と委員長は互いに軽口を言える仲になっていた。これも九条さんのおかげだ。彼女が間に入ってくれたおかげで物事がスムーズに進んだ。
「また何かあったら遠慮なく言ってくれよ。手伝うからさ」
「ああ、その時は頼むよ」
俺と委員長は2人で職員室にいる教師の元にそれを届けた。九条さんはその様子を微笑ましそうに見守っていた。
これで委員長も俺の内面を少しは理解してくれたかな?
◇◇◇
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