聖女様とデート スイーツショップ編 後編

 お互いに顔を真っ赤にしながらも、なんとかジュースを飲み干した俺たち。


 只2人でジュースを飲んでいただけなのに異常に心臓がバクバクする…。俺は左手で胸をさすりながら椅子にもたれ掛かった。


 これに加えてまだパフェがあるのか…。


 九条さんと恋人同士でしかできない事ができるのは凄く嬉しい、嬉しいのだが…まずは自分の胆力を鍛えないと鼓動が早くなりすぎて俺の心臓はいつか爆発してしまうかもしれない。


 ふと…近くの席に座るカップルの姿が目に入った。そのカップルも俺たちが頼んだ物と同じジュースを飲んでいる。


 しかしそのカップルは俺たちとは違い、顔を真っ赤に染めるでもなく…お互いに笑いながら自然な感じでジュースを飲んでいた。


 すげぇ…。


 彼らは年齢的にはまだ大学生ぐらいに見えるのだが、すでに熟練カップルの雰囲気をかもし出していた。…俺たちもいつかはあんな風になれるのだろうか?


「…凄い」


 九条さんは俺と同じ方向を見ながらそんな事を呟いた。どうやら彼女も同じカップルを見て、同じ事を思っているらしい。俺はそれがおかしくなって少し口元が緩んだ。


 前々から思っていたのだが…俺と九条さんは一見全く似ていないようで結構似ている所がある。例えば…告白の際にどちらも距離の詰め方が分からずに悩んでいたりとか、今みたいに同じ事を考えていたりとかだ。


 だからこそ…俺たちは付き合えたのかもしれない。


「?」


 九条さんが笑っている俺を見て不思議そうな顔をした。俺はすかさず理由を答える。


「いや、九条さんも俺と同じ事を考えていたんだなって」


「もしかして…極道君も?」


「ああ、どうやったらあんな風になれるのかなって考えてた」


「同じだね。フフフ♪」


 俺たちはお互いに小さく笑いあった。


 お互いの共通点を見つけてそれを確認して笑う。何故かは知らないけれど…こんな何でもないような事が凄く幸福に思えて…俺の心を満たしていった。


 あぁ…彼女といると心が安らいでくる。一緒に居て心が安心する相手というのは貴重だ。俺と彼女はやはり相性がいいのかもしれない。…相性がいいのなら、いつかはあの大学生カップルのようになれるはずだ。頑張ろう!


「お待たせいたしました。こちら『カップル限定パフェ・ラブラブマウンテン!』になります」


 俺がそんな事を考えていると店員さんが注文の残りであるパフェを持ってきてゴトンとテーブルの中央に置いた。


 …結構デカいな。


 30センチ程の高さがあるグラスにアイスやケーキのスポンジ、コーンフレークなどが詰め込まれ、パフェの上方部分にもチョコやら生クリームやらフルーツが沢山乗せられている。これを長いスプーンでほじくって食べるらしい。


 パフェがテーブルの上に置かれたのを見た九条さんは「キター!」というような顔をして目を輝かせた。


「コレね、友達から聞いてずっと食べて見たかったの♪」


 彼女は嬉しそうにそう答える。そこまで喜んで貰えたのなら頼んだ甲斐があった。


 さて、それじゃあ俺もパフェを頂くとしますか。


 俺は長いスプーンを手に取るとパフェに突っ込んだ。流石にパフェを食べる際は先ほどのジュースみたいに心臓がドキドキするような事は起きないだろう。


 …そう思っていた時期が俺にもありました。


「はい、極道君…あーん////」


 九条さんが長いスプーンの先にアイスを乗せ、俺の方に差し出してくる。俺はそれを見て硬直した。


「これね、カップルでこうやって食べる事を想定したパフェなの。だからスプーンも普通のよりかなり長いんだよ///」


 えぇ…スプーンが長いのってそういう理由だったのか。でも考えてみるとでかいだけのパフェならわざわざカップル限定にする理由なんて無いわな。


 そうか、九条さんが「頼んでみたい」と言っていたのはこれが理由だったのか…。恋人である俺とそれをやりたいから彼女は頼んでみたかったのだ。


 …九条さんがやりたいと言っているんだ。ここで怖気づいてどうするんだよ。


 俺は覚悟を決めると九条さんが差しだしているスプーンを口に含んだ。そしてスプーンの先に乗っていたアイスを飲み込む。


「お、美味しい?///」


「ああ、美味しい///」


 俺はまたもや恥ずかしくなって彼女から目をそらしてしまう。…やはりこういうのはまだ慣れない。


「つ、次は極道君の番ね//// あーん///」


「お、おう///」


 九条さんが可愛く口を開ける。俺は自分のスプーンでパフェの上に乗っている生クリームをすくうと彼女の口の中に入れた。


 パクリ


 彼女が俺のスプーンから生クリームを飲み込む。


 …たったそれだけの事なのに、こんなにも胸がドキドキするのは何故なのだろうか?


「っ/////」


「うっ////」


 九条さんも同様にまだ恥ずかしいのか顔を真っ赤に染め、手で顔を隠した。


 結局、俺たちはジュースの時と全く同じようにお互いに顔を火照らせながらパフェを完食した。まだ…あのカップルの様にはなれそうにない。



◇◇◇


似ている所がある…というのは結構重要な事です。

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