聖女様とデート トラブル編
俺と九条さんはカップル限定パフェを完食すると代金を支払い『デゼールマルシェ』を後にした。
俺たちは未だに顔の熱が治まらず、お互いの顔を見れないでいた。顔を合わせると先ほどの事を思い出して顔が余計に火照ってしまうのだ。
だが今はデート中…いつまでもこのままでいる訳にはいかない。俺は勇気を振り絞って九条さんに話しかけた。
「つ、次はどこに行こうか?//// く、九条さんってカラオケも好きなんだっけ?/// じゃあ駅前のカラオケボックスにでも行って歌う?///」
「う、うん//// そうだね////」
九条さんはなんとか返事を返してくれた。ふぅ…とりあえず次の目的地は決まった。
只今の時刻は16時過ぎ、解散するにはまだ少し早い時間帯だ。カラオケで何曲か歌っていれば丁度良い時間帯になるだろう。
しかしそこで俺は重大なミスに気が付いた。
あっ…しまった。俺友達とカラオケとか行った事ないから持ち歌なんて持ってないんだった。カラオケってどんな曲を歌えばいいんだっけ?
俺は高1になるまで友達がいなかったし、唯一の友達である茂雄も歌うのは苦手なようで…彼とカラオケに遊びに行った事は無かった。
俺が歌えるのはハマっているアニメソングだけ…。世間で流行の歌など全然知らない。
…なんだっけ? 九条さんはYO〇SOBIとか好きなんだっけ? 何曲かアニメの曲も手掛けているからそれくらいは歌えるが…。
俺の背中に冷や汗が流れ始める。…これはひょっとして墓穴を掘ってしまったのでは?
「うわーん、お母さーん!!!」
俺がどうしようかと考えていると、後方から子供の泣き声が聞こえた。俺はその泣き声のした方を振り返る。
小さな女の子が街路樹の近くで泣いていた。…迷子にでもなったのだろうか?
俺はその女の子に駆け寄ろうとした。…しかし頭の中で過去の記憶がフラッシュバックして足を止める。
…実は昔似たような状況に遭遇したことがある。ある日、街を散策していた俺は迷子の男の子を見つけたので声をかけた。
「お母さんとはぐれちゃったのかい?」
俺はできるだけ優しく話しかけたつもりだった。だがその男の子は俺の顔を見るや「ぎゃー! 怖いー!」と大声を上げて泣き始めたのである。
それを聞いた周りの人たちは「ヤ〇ザの人さらいか?」と110番通報したらしく、俺は近くの交番に連行され警察に事情聴取される事になった。なんとか無実と信じて貰い解放されたが、俺の心には傷が残った。
その時のトラウマが俺の中で蘇り、手が震える。あの女の子は助けてあげたい。でもまた怖がられて警察の御厄介になるかもしれない。俺の心も鋼でできているわけではないのだ。叩かれれば傷つき壊れる。
「極道君」
その時、震える俺の手を優しく握りしめてくれる人がいた。九条さんだ。
「大丈夫だよ極道君、私が付いてるから。お手伝いするって言ったじゃない?」
彼女は俺に向かって優しく微笑むとそう言った。そしてゆっくりその小さな女の子に近づいて行き、腰を落として女の子と目線を合わせて優しく話しかけた。
「どうしたの?」
「うっ、ぐすっぐすっ…。お母さんとはぐれちゃったの…」
「そう、じゃあお姉ちゃんたちと一緒に交番に行こうか? 交番に行けばお母さんいるかもしれないよ?」
「うん…行く」
九条さんがこちらに手招きをする。俺は九条さんの手招きに従って女の子に近づいて行った。…怖がられないだろうか?
その女の子は俺が近づくと一瞬ビクッとしたが、九条さんは再びその女の子に優しく笑顔で話しかけた。
「大丈夫だよ。このお兄ちゃん顔は怖いかもしれないけど、とっても優しい人だから」
「…本当?」
「うん、とっても優しいんだよ」
俺はその女の子に向かってニコッと笑いながら話しかけた。
「よろしく、俺は善人って言うんだ。君の名前は?」
「あや…」
「あやちゃんって言うんだ。いい名前だね。お母さんとはぐれちゃったのかい?」
「うん…小鳥さん見てたらね。いつの間にかお母さん居なくなってた…」
「そうか…可哀そうにね。今からお兄ちゃんたちと一緒に交番に行こうか?」
「…うん」
「はぐれないようにお姉ちゃんたちと手を繋ごう?」
「はーい」
あやちゃんは俺と九条さんの差し出した手を握った。
凄い…。おそらく俺だけではこうはならなかっただろう。彼女の力添えのおかげで俺はこの小さな女の子を助ける事ができたのだ。…本当に彼女には頭が上がらない。
俺たちはあやちゃんを近くの交番に送り届けた。するとあやちゃんの母親も彼女を探していたらしく、まさに交番で警官に相談していた所だった。俺たちはあやちゃんの母親に何度も礼を言われた。警官にも軽く事情を聞かれただけで済んだ。
あやちゃんはこちらに向かって「お兄ちゃんお姉ちゃんありがとう!」と元気に手を振ると母親と一緒に帰って行った。
…俺がまともに人助けをできた経験など数えるほどしかない。大抵の人が俺が声をかけると悲鳴を上げて逃げ出すからだ。「お礼」とはこんな簡単に言われてもいいものなのかと俺は少し困惑した。
九条さんは困惑している俺を見て「いいんだよ。極道君は良い事をしたのだから」と言ってほほ笑んだ。俺は彼女のその笑顔と言葉に泣きそうになった。
ありがとう…ありがとう九条さん。君のおかげで俺はまともに人助けができたよ。
◇◇◇
デート編もそろそろ大詰めです
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます