聖女様とデート 聖女様と…
あやちゃんが母親と一緒に帰っていくのを見送った俺はポケットからスマホを取り出して時刻を確認した。時計の針は17時半を少し過ぎた所を指していた。
今から九条さんとデートの続きをする…というには少し中途半端な時間だ。まだ空は夕焼け空だが、もう30分もすれば暗くなり始める。今日は初めてのデートだし、あまり遅くなって彼女の家族に心配をかけるのは憚られた。
「九条さん、結構いい時間だし…今日のデートはこの辺にしとこうか?」
九条さんは俺にそう言われてスマホで時間を確認した。
「あっ…もうこんな時間なんだ。極道君と一緒にいると時間が経つのが早く感じるね」
俺は彼女にそう言われてまた頬が少し熱くなった。
それは…俺と一緒にいると楽しいという解釈でいいのだろうか?
女の子と一緒にいて「楽しい」と言われたのは初めての経験だ。九条さんは俺から初めての経験を根こそぎ奪っていく。
女性と付き合った経験のない俺が昨日1日インターネットを駆け回って知識を集めたにわか仕込みのデートで彼女に楽しんで貰えるのかどうか不安だったが、どうやら彼女は今日のデートを楽しんでくれたらしい。
「良かった」と…俺は胸をなでおろした。彼女に喜んで貰えるのが俺の何よりの幸せなのだ。
「家まで送るよ」
「うん、ありがとう」
九条さんはそう言ってほほ笑みながら俺の隣に並んだ。彼女の家はこの繁華街から20分ほどなので18時前には家に送り届けられるだろう。
○○〇
20分後、俺たちは九条さんの家の前に到着した。ゆっくりと2人で話しながら歩いていたつもりだったのだが、彼女と話すのは楽しくて…まるで瞬間移動したみたいにいつの間にか家の前に着いていた。…名残惜しいがここでお別れだ。
「じゃ、また明日学校で!」
俺は彼女が家の中に入ろうとするのを見送る。彼女が家の中に入るのを見届けるまでが「家に送る」という事だ。
しかし…九条さんはいつまでたっても家の中に入ろうとはしなかった。何故か俺の方を見て頬を染め、ソワソワしている。
どうしたんだろうと俺は疑問に思った。
「えっと…九条さん?」
「あ、あのね…極道君/// 私たち…付き合ってるじゃない?//// だから…そのぉ…//// デートの終わりに恋人同士でする事…したいなぁって…////」
デートの終わりに恋人同士でする事…? なんだそれ…?
俺は彼女に突然の事を言われて混乱した。昨日インターネットで調べ回ったデートの知識を頭の中で必死に思い返す。
デートの終わりにする事…? えっ、普通に「バイバイ」って言って終わりじゃないのか? ちゃんと彼女を家に送り届けたし…他に何かする事があるのか?
俺は懸命に頭を回転させて考える。
あっ…そうだ! 次のデートの約束をした方がいいのか。次のデートの約束をしないと女の子を不安にさせるとかいう記事を読んだ記憶がある。
「ごめん九条さん、すっかり忘れてたよ」
「もうっ、こんな大切な事を忘れるなんて/// じゃあ…その//// ん!」
九条さんはそう言って目を瞑った。
えっ…何やってんのこの人? 次のデートの約束をするのにわざわざ目を瞑る必要があるのか?
「えっと…次のデートの約束だよね? いつが良い? 俺は土日なら基本空いてるんだけど…?」
「………」
俺が次のデートの約束を持ちかけると九条さんはこちらをジト目をして睨み、呆れたような顔をした。
「それも大事なんだけど…今は違う! 女の子が目を瞑ったら…分かるでしょ!!!////」
女の子が目を瞑る…? 目を瞑る…。
…もしかしてそれって「キス」の事か?
「せ、先週の土曜日は私が極道君にしたでしょ?//// だから今度は極道君からやって欲しいなぁ…って/////」
九条さんは顔を真っ赤に染め、恥ずかしそうな顔をしながらそう言ってくる。
あぁ…そういう事だったのか。
俺はなんて察しの悪い男なのだろう。彼女を幸せにしたいと誓ったばかりなのに情けない…。自分の彼女の望みすら察してあげられないなんて…。思わず自己嫌悪しそうになる。
でも…彼女がそれをやりたいというのなら、叶えてあげるのが男の役目だ。
「ん…///」
九条さんは再び目を閉じた。
彼女のグミのようにプルプルしている唇が目に入る。今からあそこにキスするのか…。
いざ意識すると緊張で心臓がバクバク鳴り響く。俺は深呼吸して一旦気を落ち着けると…彼女の唇に自分の唇近づけた。
「ん////」
「んむっ/////」
彼女の柔らかい唇が俺の唇に当たる。…なんとも心地よい。これほどまでに柔らかくて気持ちの良い物がこの世にあったのかと。
ラブコメ漫画などで主人公とヒロインがキスするのを見てどんな感じなんだろう? …と疑問に思っていたがこれは癖になりそうだ。
それほどまでに彼女の唇は柔らかく気持ち良かった。…唇の離し時が分からない。いつまでもこうしていたくなる。
おそらく…実際にキスしていたのは1分ほどの短い時間であったろうが、俺たちにはそれが悠久の時のように感じられた。
流石に息が苦しくなってきたので俺は唇を離す。
「…/////」
「…♡/////」
キスをしたのはいいが、俺は恥ずかしさで九条さんの顔を見れないでいた。深呼吸して気持ちを落ち着け、なんとか彼女の方を向く。彼女は右手で自分の唇を押さえて満足そうな表情をしていた。
「えへへっ//// しちゃったねキス♡////」
「あ、ああ////」
「じゃあね極道君、今日のデート楽しかったよ♡」
彼女はそれはそれはいい笑顔をして家の中に入って行った。俺はまだ唇に残る彼女の唇の感触の余韻に浸りながらそれを見送った。
◇◇◇
デート編終わり、次回から話が進みます。
で…すいません、明日の更新なんですが1日だけお休みをいただきます。
なので次の更新は3/26(火)の7時になります。楽しみにしていただいている方には申し訳ございません。
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