聖女様とデート スイーツショップ編 前編

 そしてやって来た本日のメイン目的であるスイーツショップ『デゼールマルシェ』。


 カップルたちの間で人気のスイーツ店らしく、インターネットでこの辺りのおススメデートスポットを調べた際も「おススメ度ナンバーワン! 彼女が喜ぶ事間違いなし!」とまで書かれていた場所だ。


 落ち着いた雰囲気と美味しいスイーツがウリのお店で、2人でゆったりとした時間を楽しめるという。最近ではそのカップル層を狙い撃ちにした限定メニューなどもやっているようだ。


 俺と九条さんは15時前になるとウィンドウショッピングをいったん打ち切り、その店に向かった。


 店の前に到着した俺は窓からチラリと中を覗いてみた。すると中にはカップル客と思われる男女しかいなかった。確かにこれは1人では入りづらい。同性の友達同士とでもちょっと勇気がいるかも。


 店に入店した俺たちは店員さんに案内され席に着いた。店内はアンティークな備品が並ぶなんとも落ち着いた味わい深い内装で、静かに流れているクラシックのBGMがそれを更に後押ししていた。


 心休まる空間…というのはこのような店の事を言うのだろう。あまり流行やモテの要素に疎い俺でもこれは女性が好きそうだなというのは理解できた。


 九条さんは席に着くと興奮した様子でメニュー表を開く。そして中身をチェックし始めた。よほどこの店に来れたのが嬉しいのだろう。…この店をデートの行き先に提案して良かったな。


 俺もテーブルの脇にあるメニュー表を取り、どんなメニューがあるのか確認した。…流石人気のスイーツショップ。メニュー表に乗っているサンプルの写真を見るだけでも涎が出そうになる。


 メニューを確認していると九条さんが口を開いた。


「ねぇ極道君、何食べる?」


「そうだなぁ。俺はこの店で1番人気のチーズケーキと…飲み物はダージリンかな? 九条さんはさっき言ってたスペシャルパフェ?」


「あ、あのね…。極道君さえよかったらなんだけど…///// カップル限定メニューに挑戦してみない?//// ほら、私たち付き合ってるんだし////」


 そう言って彼女が指さしたのは『カップル限定パフェ・ラブラブマウンテン!』というメニュー。2人で細長いスプーンを使って1つのパフェを食べるらしい。


 …正直俺はこの店に来るまでの買い食いでそこそこ腹が膨れていたため、軽く済ませるつもりだった。


 そこにいきなりカップル限定メニューである。これは色々な意味で胸やけがする。カロリー的な意味でも心臓の鼓動的な意味でも…。


 数日前まで俺と九条さんがカップル限定メニューを頼む仲になるなんて誰が予想しただろうか。


 だが自分の可愛い彼女がそれをやりたいというのであれば…叶えてやるのが彼氏というモノではないだろうか? 俺はそれを承諾した。


「う、うん。いいよ。カップル限定メニューに挑戦してみようか」


「ホントに!? じゃあついでに『カップル限定ドリンク・ラブラブストリーム!』も頼んでいい?」


 次に九条さんが指さしたのはトロピカル風のドリンクにハート型のストローが差し込まれ、2方に分かれた吸い先からそれを2人でチューチュー吸い合うという物だった。


 う゛っ…これ結構恥ずかしい奴なのでは? しかし彼女はとてもいい笑顔でそれを指さしている。断ったら確実に悲しむだろう。


 …いや、こんなところでヘタレでどうする俺。俺は昨日自分の人生をかけて彼女に恩を返すと決めたではないか。自分が多少恥ずかしいからと言って彼女を悲しませてはならない。


「いいよ。頼もうか」


 ピンポーン!


 俺が承諾すると同時に九条さんは店員さんの呼び出しボタンを押した。早っ!?


 音に反応した店員さんがこちらの方にやってくる。九条さんは手早く注文を済ますとウキウキの表情をしながらメニュー表をテーブルの脇に返した。


 彼女がそれで喜んでくれるのなら…俺はそれで構わない。



○○〇



「こちら『カップル限定ドリンク・ラブラブストリーム!』になります」


 数分後、店員さんが俺たちの注文したメニューを持ってきた。先にやって来たのはドリンクの方だった。パフェは作るのに時間かかるだろうからな。


 …写真で見るより明らかに大きい。丼鉢ぐらいの大きさのグラスに青いハワイアン風味なジュースが入れられ、その上にパイナップルなどのフルーツが乗っている。そして中央にはハート型のストローが鎮座していた。


 これを今から吸うのか…。


「私、こういうの彼氏とやってみるの夢だったんだぁ~♪ …コ、コホン/// じゃあ//// 極道君、行くよ!///」


 彼女は顔を若干赤く染めながらもストローに口を近づけていく。その柔らかくて瑞々しい果実の様な唇がストローに吸い付いた。


 その光景に思わずゴクリと…俺の喉が鳴った。何故かは知らないけど…そこはかとない淫猥さを感じる。俺は別に唇フェチとかではないはずなんだけどな。どうしてもそう感じてしまうのは俺があの唇でキスされた経験があるからだろうか?


「|んー、ごくひょうくん。ひゃやく!(むー、極道君。早く!)」


 彼女がストローを口に含みながら俺をせかす。俺もそのストローにゆっくりと吸い付いた。そして2人でジュースを吸い合う。


 ヤバい…これ思ったより恥ずかしい//// ストローを口に付けて吸うと必然的に目線を下げる形になるのだが、その際に目線が九条さんと丁度見つめ合う角度になるのだ。


 つまり、俺たちは2人で見つめ合いながら1つのジュースを吸っている訳で…。俺は恥ずかしさで思わず目線を反らしてしまった。


 九条さんも最初こそ意気揚々とジュースを吸っていたが、彼女もやはり恥ずかしかったようで顔を赤らめながら俺から目線を反らした。


「「…///////」」


 俺たちはお互いに顔を真っ赤にしながら無言でジュースを飲んだ。



◇◇◇


書いていて長くなったので話を分けます。2000字を大きく超える話は話数を分けたいと思います。

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