聖女様はマジ聖女
子供たちのレクリエーションに散々付き合って疲れた俺と九条さんは休憩室で休憩を取っていた。余ったホットケーキを食べて麦茶を飲み、一息つく。
子供たちの元気にびっくりしただの、意外とみんなで遊ぶのが楽しかっただのというボランティアを通じての感想を彼女と話した。そんな中、九条さんがポツリと俺に尋ねてくる。
「極道君はどうしてボランティア活動をしているの?」
俺がボランティア活動をしている理由…。
俺は自分の彼女である九条さんにもその理由を知っていて欲しいと思って話す事にした。少し重い話になるかもしれないが、九条さんなら聞いてくれるだろう。
「実は…」
子供の頃からこの悪人面故に周りから偏見を持たれて非常に苦労してきた事。
少しでも善行を積む事で自分の内面を周りの人間に理解して貰おうと人助けやボランティア活動を積極的に行っている事。
だが積極的に人助けをしようとしても、顔が怖すぎて中々人助けが上手くいかずに悩んでいる事。
俺はそれらの事を包み隠さず全て九条さんに話した。
九条さんは俺の話を真剣な表情をして時折頷きながら聞いてくれた。
そして理由を話し終わると彼女はいきなりフワリと俺を抱きしめた。彼女の柔らかい胸に俺の顔が埋まる。
俺は突然の彼女からのハグに一瞬混乱したが、彼女の暖かくて柔らかい胸の感触と彼女から漂ってくる優しい匂いですぐに落ち着きを取り戻した。
なんというか…凄く心地がよい。彼女にこうされていると安心してくる。
例えるなら湯船につかっている感じが近い。俺の心をじんわりとした優しい暖かさが包みこんでくれる。
「…極道君、今まで頑張ってきたんだね。偉い偉い」
彼女はそう言うと俺の頭をまるで赤子をあやすみたいに撫でてくれた。それがまた…俺の心を満たしてくれる。
…高校生の男を抱きしめて頭を撫でるという行為は通常なら相手に羞恥心を感じさせてもおかしくない行為である。しかし、俺は彼女にこうされて恥ずかしいどころかむしろ満足感を感じていた。
母親以外で俺の事を褒めてくれたのは彼女が初めてだった。俺は今まで自分がやってきた事の苦労がやっと認められた気がして…とても嬉しかったのだ。
心が満たされたせいか、ホロリと俺の目から涙が溢れそうになる。俺はそれをなんとか我慢した。彼女の前で泣く訳にはいかない。
「あ、ありがとう九条さん」
俺はそう言ってなんとか彼女から離れた。それが精いっぱいだったのだ。
九条さんは俺の顔を真剣な表情で見つめると、やがて決心したように頷いた。
「ねぇ極道君、私…努力は報われるべきだと思うの。だから私にも極道君のお手伝いをさせてくれないかな?」
「えっ?」
それはつまり…俺の内面を周りの人にも知って貰えるように彼女が手伝いをしてくれるという事だろうか?
…本当に彼女は優しい人だな。こんな俺の手伝いをしてくれるなんて…。
しかし気持ちはありがたいが…それは茨の道。俺の手伝いをする事で彼女自身も悪く言われかねない。九条さんが不当に悪く言われるのは俺の望むところではなかった。
「ありがとう。でもそれは九条さんに迷惑をかける結果になると思う。…というか本当に今さらだけど、俺と付き合って良かったの? 周りの人から絶対に何か陰口を叩かれると思うんだけど?」
俺がそう尋ねると彼女は呆れたような顔をした。
「もうっ、前にも言ったでしょ。あなたの事を悪く言うような人がいたらちゃんと説明するって。それに自分のか、彼氏のお手伝いをするなんて彼女なら当然じゃない!///// 遠慮しなくてもいいの! これはもう決定事項だから!」
彼女の言葉は俺の心を人生で感じた事がないほどの感動で埋め尽くした。俺はこの人に一体何度感動させられれば気が済むのだろう? 彼女には本当にいくら感謝してもし足りない…。
だから…俺の人生をかけて彼女にこの感謝を返そう。俺はそう決意した。
「九条さん! 俺、絶対に君を幸せにするから!」
俺は自分の感謝の気持ちを伝えるため、彼女の両肩を掴んで真剣な目で彼女の目を見つめて決意表明をした。
「ひゃ、ひゃい///// ふ、不束者ですがよろしくお願いしましゅ/////」
彼女は俺の言葉に顔を真っ赤にして反応した。
あれ…? なんか今の言葉プロポーズっぽかったような…? あっ…やってしまった。ちょっと言葉足らずだった。恥ずかしい。でも彼女を幸せにしたいという気持ちは一緒だ。
自分が言葉を放った後で俺はその言葉の意味に気が付いた。2人とも休憩室で見つめ合い、赤面した状態で固まる。
「2人ともー。そろそろ休憩終わりよー」
「「ふぁい!?」」
休憩室の外の廊下からおばちゃんの声が聞こえたので俺たちは慌てて離れた。
…びっくりしたぁ。
「そ、そろそろ多目的室の方に戻ろうか?///」
「そ、そうだね////」
俺たちはお互いに赤い顔をしたままそう言った。
○○〇
その日の子供会は終わった。俺は「また車いすが壊れるといけないから」という名目で九条さんと天男君を彼女たちの家に送り届けた。でないと天男君に俺たち仲がバレるかもしれないからだ。
彼女たちを無事家に送り届けた俺は自分も家に帰ろうかと思ったのだが、九条さんにそれを止められた。
「あ、あのね極道君。明日の日曜日…暇かな?///」
彼女は少し頬を赤くさせて俺にそう尋ねて来る。俺が「暇だよ」と返すと彼女は顔をパァとほころばせた。
「じゃ、じゃあ明日の日曜日にデ、デート…しない? ほら、私たちつきあっているんだし///」
…デート?
俺は言葉の意味を理解するのに数秒かかった。デートとは所謂逢い引きの事であろうか? 俺が…九条さんとデート…。
言葉の意味を理解した瞬間、俺は秒でそれを承諾した。九条さんとデートできるのだ。断るはずがない。俺の人生で初のデートである。
「やった♪ じゃあ明日の13時に駅前に集合ね♪」
こうして俺たちは日曜日にデートする事になった。
◇◇◇
次回から初デート編に入ります。イチャイチャしますぞ。
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