聖女様のホットケーキ

 九条さんは俺と一緒に子供会に参加している子供たちとレクリエーションに興じていた。


「待て待てー!」


「わーい!」「お姉ちゃーん、こっちー」「鬼さんこちらー!」


 彼女はすぐに子供たちと打ち解け、すでに人気者となっている。


 …たった1日でこうなるんて凄いな。俺なんて子供たちと打ち解けるまで数カ月はかかったのに…流石九条さんだ。


「天男君のお姉ちゃん優しいね」「それにスッゴク美人」「僕もあんなお姉ちゃん欲しいなぁ」


「へへっ、僕の自慢のお姉ちゃんなんだ!」


 天男君は友達に自分の姉を褒められて嬉しいのか鼻が高そうにしていた。そりゃあんな綺麗で優しい姉ちゃんがいれば誇らしいよな。


 …ちなみにだが俺と九条さんが付き合っている事はまだ天男君には伝えていない。「教えると色々聞かれてうるさいから」というのが九条さんの談だ。


「はぁ…はぁ…。子供たちって元気いっぱいだね。こんなに走り回るとは思わなかった…。はぁはぁ…」


「はぁはぁ…。お疲れ、九条さん」


 九条さんは一旦小休止と俺の近くに来て息を整える。先ほどからずっと子供たちと鬼ごっこをして走り回っていたので息が上がってしまったようだ。


 そういう俺も子供たちと走り回って疲労困憊になっていた。朝飯を食べていないせいで身体が重い。エネルギーが足りないのだろう。


「そうだ! 今日はおやつにホットケーキがあるんだった! すっかり忘れてたわ。そろそろ焼かないとね」


 俺たちの隣にいたおばちゃんが突然思い出したとばかりにそんな事を言う。時計を見ると10時30分になっていた。確かにそろそろ子共たちのおやつの時間だ。


「あっ、じゃあ私が作ってきます。こう見えてもお菓子作りは得意なんですよ?」


「まぁそうなの? じゃあお願いしようかしら? ついでに善人君も休憩してらっしゃい」


「あ、はい」


 九条さんがおばちゃんにそう切り出し、おばちゃんはそれを承諾した。ついでに俺も休憩して来いと言われたので2人で休憩室へと向かう。


 休憩室に入るとテーブルの上には市販のホットケーキミックスが置いてあった。おそらくこれを使うのだろう。卵と牛乳は部屋の奥にある冷蔵庫の中に入っている様だ。


「さて…と」


 九条さんはポケットからヘアゴムを取り出すと、その美しい金髪をまとめてポニーテールにした。彼女の綺麗なうなじが見えて少しドキッとする。そして休憩室に置いてあったエプロンを身に着けると手早くホットケーキの元を作り始めた。


「慣れてるな。よく家で料理するの?」


「うん、お母さんが仕事で遅くなる時は私が家族の御飯を作ってるからね」


 へぇ~そうなんだ。初めて知った。俺は昨日彼女の彼氏になったものの、まだまだ知らない事は多い。


 …九条さんの料理か、いつか食べてみたいな。この前貰ったクッキーは俺が自分で作った物をすり替えた奴だし。


「何か手伝う事ある?」


「ううん、特にないかな。極道君は座ってて」


 彼女はそう言うと熱したフライパンにホットケーキの元をたらりと垂らす。俺は彼女が作業している様子を後ろから観察した。


 なんか…こういうのいいな。エプロン姿の九条さんが料理を作っている姿を後ろから眺める。それはまるで俺たちが結婚して新婚の夫婦になったような気がして…。


 …っと、俺もそうなればいいなとは思っているけど、流石にそれは気が早すぎか。あまり妄想はしすぎないようにしよう。彼女にそれで嫌われたら元も子もない。俺は顔を振って妄想を吹き飛ばした。


 数分後、香ばしいホットケーキの焼ける香りが俺の鼻にも漂ってきた。


「ほい完成!」


 彼女は見事に焼き色のついたホットケーキをフライ返しでひっくり返し、紙皿の上に乗せる。


 ほぉ~美味いもんだ。俺がやったら焦げ焦げになりそうだな。


 彼女は手際よく残りのホットケーキを焼き、あっという間に子供たち全員分のホットケーキが焼きあがった。


「はい、極道君」


 何故か九条さんは俺の前にホットケーキを一皿置いた。そのホットケーキには蜂蜜がかけてあり、湯気と共に甘い匂いを俺の鼻に届ける。


「あれ、これは子供たちの分じゃ…?」


「余るから私たちも食べていいって。だから…その//// 極道君に1番最初に食べて欲しくて…私の作ったホットケーキ…///」


「九条さん…」


 九条さんは少し恥ずかしそうにしながらそう言った。彼女のその言葉に俺の胸はときめく。


 本当にもう…俺の彼女はとても可愛い! 俺は大喜びでそれを承諾した。フォークを突き刺してホットケーキを口の中に運ぶ。


 …うん、美味い。俺が今まで食べたホットケーキの中で1番美味い。


 市販のホットケーキミックスを使ってるんだから味は誰が作っても一緒だろ。


 …と突っ込みが入るかもしれない。でもそれだけではないのだ。彼女の作ったホットケーキは焼き加減が見事な事もあるが…ほのかに優しい感じが、作った人の愛情が感じられる味だったのだ。


 彼女が俺のために一生懸命想いを込めて焼いてくれたのが分かる。


「美味い、すごく美味いよこれ」


「良かった」


 俺が感想を述べると彼女はホッとしたような顔をしてニコリと笑った。俺はそのホットケーキを朝飯を抜いていた事もあり、ペロリと平らげてしまった。



◇◇◇


すいません…イチャラブパートを書いているとどうしても話が長くなって伸びてしまいます。本来はこの後の話とまとめて1話になるはずだったのですが…。

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