子供会にやってきた聖女様

 無事九条さんと結ばれた俺は大きな悩みの1つがなくなったせいか、家に帰るやいなや強烈な眠気に襲われた。先週の土曜から今日まで碌な睡眠を取っていなかったせいでその反動がきたのだろう。


 着替えるのすら億劫だった俺は制服のままベットに潜り込むと深い眠りについた。



○○〇



「善人ー? もう朝よー? 今日は子供会がある日じゃないのー?」


「う、ううん…?」


 下の階から聞こえて来る母ちゃん大声で俺は意識を夢の世界から現実の世界へと戻した。まだ眠たい目をなんとかこじ開け、右手で目をこすりながら枕元にあるスマホで時間を確認する。


 時間は…8時30分!? 


 ヤバい! もう家を出ないと間に合わない。子供会は9時から始まるのだ。最低でもその10分前には顔を出しておばちゃんたちの手伝いもしなければならないというのに…。これでは遅刻だ。


 俺はベットから飛び起きると急いで着替えた。そして洗面所の鏡で軽く身だしなみをチェックし、髪などが跳ねていない事を確認すると家から出た。


 母ちゃんに「朝ご飯は?」と聞かれたが、朝飯など食っている時間は無い。子供会のある公民館までは俺の足で徒歩20分はかかる。走れば10分。なので俺は全力ダッシュで公民館へと向かった。



○○〇



「ゼェゼェ…。おはよう…ございます。すいません…少し遅刻しました…。ハァハァ…」


「ひぇー!」


 全力で走って来たおかげでなんとか8時50分前には公民館に到着した。俺はおばちゃんたちに挨拶をするべく休憩室へ向かう。


 だが息も絶え絶えの俺の顔を見ておばちゃんたちは軽く悲鳴を上げた。おそらく走ってきたせいでいつもより怖い顔になっているのだろう。


「ご、ごめんね善人君。ちょっとおばちゃんびっくりしちゃった…」


「いえ、いいんです。慣れてますから…。それよりも準備手伝います!」


「今日の準備もう終わっちゃったのよね。だから少し休んでらっしゃい。そんな顔で子供たちの前に出たら泣かれちゃうわよ?」


「えっ、もう準備終わったんですか?」


「ええ。今日から天男君のお姉さんもボランティアに参加してくれる事になってね。手伝ってくれたの。ああ、そうだ。紹介しとかないとね。天子さん、ちょっとこっちに来てー!」


 俺はおばちゃんにそう言われて度肝を抜かれた。


 えっ!? 天男君のお姉さんと言うと…九条さんがこのボランティアに参加してるという事か!? 


 九条天子さん。学校で「聖女様」と呼ばれている人であり、俺の事を内面で評価してくれた数少ない人。そして…昨日お互いに想いを告白して俺の恋人になってくれた人である。


 俺はまさか九条さんがボランティアとして子供会に参加しているとは思わなかったので、急いで髪の毛などを整えた。さっき家の鏡で見た時は大丈夫だったが、走っている最中に髪型が崩れているかもしれない。


 そういえば服も…急いでいたので適当にそこら辺にあった服を掴んで着たのだ。


 …どうしよう。九条さんにダサいと思われないだろうか? 昨日彼女になって貰ったばかりなのに今日「極道君ダサい」とか言われて別れようと言われたら…。


 …俺は立ち直れないかもしれない。髪と服を両手でパサパサして、できるだけ身だしなみを整える。


「天子さーん?」


「はーい」


 おばちゃんの呼び声に反応して九条さんがこちらにやってきた。どうやら部屋の隅で作業をしていたらしい。


 九条さんは俺の姿に気づいたのか、こちら見てほほ笑むと軽く手を振ってくれる。あぁ…可愛い。信じられるか? この人、俺の彼女なんだぜ?


「紹介するわ。こちら大分前から子供会のボランティアをしてくれている極道善人君。顔は凄く怖いけど優しい人だから安心してね」


「はい、知ってます。同じクラスなので」


「まぁそうなの? じゃあ紹介必要なかったかしらね。善人君も知ってるの? こちら天男君のお姉さんで九条天子さん」


「あっはい。俺も知ってます」


「なぁんだ。そうだったのね。美人で有名な天男君のお姉さんを紹介すれば善人君は絶対びっくりすると思ったのに…」


「はは…」


 ぶっちゃけ俺も先週の土曜まで天男君のお姉さんが九条さんだとは知らなかった。なのでもしそれを知らない状態で紹介されてたらびっくりしていただろう。


「あっ、そうだわ。あれやっとかないと…。2人は子供たちが来るまでちょっと休んでてね」


 おばちゃんはそう言うと向こうの部屋に行ってしまった。休憩室には俺と九条さんだけが残される。


 しかしどうして九条さんはいきなり子供会のボランティアに参加したのだろうか? 


「えっと…なんでいるの?」


 俺がそう尋ねると九条さんは少し顔を赤くして小さな声で答えた。


「だって…その方が少しでも彼氏と長い時間一緒に居られるじゃない/// だからいつも天男がお世話になってるからって名目で参加させてもらったの」


「九条さん…」


 俺はそれを聞いて体中の血流が早くなり、体温が上昇する。心臓付近が熱い…。


 俺と一緒に居たいからわざわざボランティアに参加してくれたとか。…俺を悶え死にさせる気かよ…。くぅぅ…この人本当に可愛いな。


「もちろん、参加するからには子供会の活動も真面目にやるけどね。だから極道君、私に色々教えてね?」


「ああ、喜んで!」


 まさか昨日の今日で彼女になったばっかりの九条さんと一緒に行動できるとは思わなかった。俺は喜びで叫びそうになるのを押さえながら彼女に子供会の活動の内容を説明した。



◇◇◇


この作品のテーマの1つとしてイチャラブパートでは「初々しさ」や「甘酸っぱさ」を特に表現していきたいと思っています。

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