聖女様の言葉の意味

 九条さんは俺を近くの神社に連れ出した。この神社は俺たちの学校に続く通学路の途中にあるこじんまりとした神社だ。この町唯一の神社として町の人に親しまれている。


 俺は九条さんの後に続いて神社の境内に入って行った。流石に平日のこの時間帯に参拝している人は誰もいないようで、境内に敷き詰められた砂利の上を歩く俺と彼女の足音だけが辺りに木霊した。


 おそらく彼女が俺をここに誘ったのは別に2人で神社に参拝をしようという訳ではなく…誰もいないのでゆっくりと話が出来るという理由から誘ったのだろう。


 彼女は境内の真ん中ぐらいまで進むと俺の方を振り向いた。俺も彼女に合わせて歩みを止める。


「えっと…あの時の言葉の意味が知りたいんだよね?///」


 こちらを振り向いた彼女の顔はまだ赤いままだった。彼女は「コホン」と咳ばらいをすると俺の方に近寄って来る。


「わ、私も何度もああいう事を言うのは恥ずかしいから/// …その、ヒントを出すね///」


 九条さんはそう言うと俺が持っているたこ焼きの爪楊枝に手を伸ばし、パックの中に残っていた最後のたこ焼きを突き刺すと俺の方に差し出してくる。


「ん!」


 俺は彼女のその行動に困惑する。「食べろ」…という事だろうか? 俺は彼女に差し出されたそれを戸惑いながらも食べた。少し冷めてはいるが美味しい。


 そういえば…何気にこれって俺は彼女に「あーん」をされた事になるのか。


 たこ焼きを飲み込んだ俺は再び彼女の方を見た。


 たこ焼きを食べたのだが…これがヒント? ますます意味が分からなくなる。


「えっとね…そのぉ、つまり…//////」


 彼女は顔を赤く染めたまま俺から目をそらし、両手の人差し指をツンツンと付き合わせている。


 …可愛い。彼女のそのキュートな仕草に俺の胸が高鳴ったのは言うまでもない。


 彼女はしばらくの間そうしていたが、やがて意を決したような顔をすると俺に向き直って言葉を放った。


「つまり、私がこういう事をしたいのは極道君だけって事! 他の人とはしないの//// はい、これがヒント! これ以上は…恥ずかしいから無理ぃ/////」


 九条さんはそう言って後ろを向いてしまった。髪の隙間から少しだけ見える彼女の頬がこれまで以上に真っ赤に染まっている。それは決して後ろから差し込んでいる夕日のせいではないだろう。


 あの時と同じ。土曜日に九条さんが俺に「キス」らしきものをした時と同じだ。


 俺は彼女の言葉の意味を改めて考えた。


 …九条さんがをしたいのは俺だけ。そのとは先ほどのたこ焼きを食べさせる事…「あーん」の事か?


 そしてその「あーん」はこの日本では恋人同士がやる行為として有名だ。要するに…九条さんは「恋人同士でやる事をしたいのは俺だけ」とそう言っているのだろうか?


 となると土曜日のキスと言葉はやはり「彼女は俺の事が好き」という解釈になる訳で…。


「あ、あのね。私も一応女の子だから…そういうのは男の子の方から来て欲しいって願望があってね…//// だから、その…極道君も私と同じ気持ちなら…告…してくれると…嬉しいな//////」


 彼女の言葉は震え、後の方になるにしたがって小さくなっていく。そしてそれを言い終わると彼女はその真っ赤な顔を両手で隠し、うつむいてしまった。


 ここまで言われれば鈍感な…今まで碌に女の子とコミュニケーションを取った事のない俺にも理解できた。


 もし俺が九条さんと同じ気持ちなら…俺の方から告白して欲しい。そういう意味だろう。


 俺は九条さんの事を好きか…そんなもの答えは決まっている。俺はこの地球上で1番と言って良いぐらい彼女の事が好きだ!


 俺の心は彼女に自分の内面を見て…俺の外見ではなく行動で評価して貰った時からすでに支配されているのだ。


 でも俺の方に自信が無くて、俺ごときが彼女に選ばれるはずがない、彼女との関係を壊すのが怖いとヘタレてしまって、それで…女の子にここまで言わせてしまった。


 冷静になって考えてみれば九条さんはその人の内面をちゃんと見て評価してくれる人だからこそ…見た目やお金だけでその人の事を好きになる訳がない。


 実際に彼女に内面を評価された俺自身がその事を1番分かっていただろうに…。自分のあまりの愚かさに頭が痛くなる。俺は男としてダメダメな人間だろう。


 でも…そんな俺でも好きと言ってくれるのなら、俺は彼女の希望に答えようと思う。


「九条天子さん!」


「ひゃ、ひゃい!!!////」


 俺の呼びかけに彼女がビクリと反応する。そして恐る恐るこちらに振り向いた。俺は彼女に向かって彼女が望んでいる言葉を放った。


「あなたの事が好きです! こんな鈍くてあなたの言葉の意味に気づけなかった情けない男だけど…それでもよければお付き合いして頂けませんか」


「…っ////////////」


 彼女の顔が今までにないくらい真っ赤に染まった。りんご…いや、まるでトマトの様だ。


 俺の告白から一呼吸おいて彼女はゆっくりと言葉を紡いだ。


「わ、私も…あなたの事が好き! 最初は弟から話を聞いて少し気になっていただけだった。でも…あなたに陰からいつも助けられている事に気づいて、そしたらもっと気になって…いつの間にかあなたの事で頭が一杯になってた。だから…その告白、お受けします!」


 そう言い終わると同時に彼女は俺に抱き着いてきた。俺はそんな彼女を優しく受け止める。


「やっと…想いが通じた。極道君、あれからずっと何も言ってこないから嫌われたのかと思ってた」


「ごめん、俺が鈍感なせいで」


「ううん、私も…アレをやったのはいきなりすぎたし/// それにちょっと言葉足らずだった。ごめんね」


「いきなりキスされた時はびっくりしたよ」


「う゛っ…//// だって仕方ないじゃない。私も男の子と付き合った経験なんて無いんだよ? だから…距離の詰め方が分かんなかったの!!!//////」


 どうやら俺たちはお互いに距離の詰め方で悩んでいたらしい。でもそれももう終わり、俺たちの想いは結ばれたのだから。



◇◇◇


しばらくはイチャラブパートが続きます。

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