聖女様と放課後

 金曜日の学校も終わり、帰りのSHR終了後に少しもよおした俺はすぐにトイレに向かった。トイレから戻ってくると珍しく教室の中には誰もいなかった。クラスメイトたちはすでに帰宅したり、部活動に行ったらしい。


 茂雄も今日は塾があるらしく早めに帰ると言っていた。俺は1人寂しく自分の席に座ると鞄の中に教科書類を詰め、帰る準備をする。


 ここ数日、俺は茂雄の意見に従い九条さんにあの行動の意味をそれとなく確かめようとしたのだが…彼女はやはり人気者で常に周りに人がいるため中々近づけなかった。


 放課後なら流石に1人になるだろう…と思ったのだが、彼女の方に用事があったり、俺の方に用事があったりですれ違いが続き難航していた。


 結局、そのまま1度も話しかける事がないまま時が過ぎ…週末になってしまった。今週はもう彼女と会う事はないだろう。もしかすると明日の子供会に来るかもしれないが、その保証はない。


 …また来週彼女が1人の時を見計らって話しかけてみるかと、俺はため息を吐いた。


「極道君」


 どこからか九条さんの声がする。彼女の事を考えすぎてついに幻聴まで聞こえるようになってしまったのだろうか? 悩みすぎて全く睡眠時間が取れていないので、頭が変になっていてもおかしくはない。


「極道君!」


 再び九条さんの声が聞こえた。今度は俺の右側からハッキリと。俺は顔をそちらに向ける。すると教室の入り口に九条さんが立っていた。頬をつねるが幻覚などではないらしい。


「九条さん…」


「ねぇ極道君、今日…一緒に帰らない?」


 彼女は俺に向かってほほ笑むとそう提案してきた。



○○〇



「………」


「………」


 夕焼けに染まる通学路を2人揃って無言で歩く。彼女の家の方向からすると途中までは俺と帰る道が一緒のようだ。なので後10分ぐらいはこうやって2人で並んで歩く事になるだろう。あの事を尋ねるには絶好のチャンスだ。


 俺は土曜日の件の真意を彼女に尋ねようとした。しかし、いざ彼女と2人きりになるとドキドキ緊張してその事が言い出せないのである。


 茂雄はそれとなく土曜日の件を尋ねろとは言ったが、実はそれとなく尋ねるというのはかなり難しい事だとこの時点になって俺はやっと気づいた。


 コミュニケーション能力の低い俺には話の振り方が分からない。この世のコミュ強者たちはどうやってそれとなく話を振ったりしているのだろうか?


 俺が話の振り方を考えていると、どこからか風に乗って香ばしいソースの香りが漂ってきた。


「あれは…たこ焼き?」


 なんと帰り道の途中にあるスーパーマーケットの駐車場にたこ焼きの屋台が出店していた。バンダナを頭に巻いたあんちゃんがせっせと忙しくたこ焼きを作っている。


 普段なら縁日えんにちの日ぐらいしか見かけないものであるが、うちの地域ではたまにこうやってスーパーの前に屋台が出る事があった。


 グギュルルルル


 こんな時なのに俺の腹はたこ焼きの匂いに反応していた。


 …そういえば今日は昼飯を食べていなかった。九条さんと話す隙を伺っているうちに購買のパンが売り切れてしまったのだ。


 俺の腹の音が聞こえたのか九条さんはクスクスと笑う。自分の腹の音を好きな人に聞かれるというのはなんとも恥ずかしい…。


「お腹空いたの?」


「…は、恥ずかしながら」


「買ってくれば? 待ってるよ」


 このままでは腹の音が治まりそうになかったので、俺は彼女の言葉に甘える事にした。幸いにもその時屋台には誰も並んでいなかったため、すぐにたこ焼きを購入できた。


 俺は購入したたこ焼きのパックを開ける。出来立てらしく、たこ焼きの上に乗っているかつお節が熱でゆらゆらと揺れていた。爪楊枝で1つさしてアツアツのたこ焼きを口の中に放り込む。


 フワフワの外生地を噛むと中からとろっとした中身が溢れて来る。出汁もきいていて美味い。中に入っているたこの足も弾力があり、大きかった。


 ここのたこ焼き屋はかなり作るのが上手いようだ。下手な人が作ると生地が硬かったり、逆にべちゃべちゃだったりする。


 俺はたこ焼きを頬張りながら九条さんと帰りの道を歩く。その途中、九条さんがたこ焼きを凝視しているのに俺は気づいた。もしやと思って聞いてみた。


「少し食べる?」


「いいの!? 実はさっきから凄く美味しそうに食べてるなぁと思ってたの」


 彼女はそう言うとまるで餌を待っている鳥の雛みたいに「あーん」とその可愛い口を開けて来た。


 えっ…もしかしてそこに直接放り込めと? それって漫画とかでよく恋人同士がやっている「あーん」という奴なのでは…? 俺がそれをやってもいいのかと少し躊躇した。


 しかし彼女は「あーん」とその口を開けて待っている。…彼女がそうしたいと言うのだから仕方ないかと、俺は爪楊枝でたこ焼きを1つ刺すと彼女の口の中に放り込んだ。


「あふっ、あふっ。…でも美味しいねこれ♪」


 彼女もそのたこ焼きにはご満悦のようだった。少し…たこ焼きに感謝しなければならない。たこ焼きのおかげで彼女と話すきっかけができた。後は…それとなくあの事を尋ねるだけ。


「ねぇ九条さん。そ、その…先週の土曜日の事なんだけど…」


「ふぇ!?///////」


 …しまった。それとなくではなく直球で尋ねてしまった。彼女もあの時の事を思い出したのか明らかに動揺し、顔を赤らめている。


 だが尋ねてしまったものはどうしようもない。俺は覚悟を決めるとそのまま土曜日の事を尋ねる事にした。


「あ、あれってどういう意味なのかな?」


「あ、あれは…//// そのぉ…/// こ、言葉通りの意味だよ////」


 顔を真っ赤に染めたままの彼女が答えた。言葉通りの意味。それが分からないから尋ねているのだ。


「ごめん九条さん。俺…今まで女の子と碌にコミュニケーション取った事ないからさ…そこら辺が良く分からないんだ」


「う゛っ…//// し、仕方ないなぁ極道君は。今から…少し時間ある?」


 九条さんはそう言うと俺を近くにあった神社に連れ出した。



◇◇◇


さて、ついにあの行動の意味を尋ねた主人公。2人はどうなる?

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