親友に相談
あれから数日経った。俺は未だにあの時の「キス」の意味について悩み続けていた。一旦保留にするとは言ったが、寝ても覚めてもあの事が頭から離れないのだ。
悩んでいるせいもあって相変わらず俺の睡眠時間は短かった。土日よりは若干マシになったものの、ここ数日の俺の平均睡眠時間は3~4時間程度であり、全然眠れていない。
睡眠不足により頭がボーっとするし、顔もかなり怖くなっているようで俺が登校するだけで叫び声をあげる生徒が続出した。その叫び声が寝不足の俺の頭に「キーン」と響くのである。
その「キーン」と響く頭に俺が顔をしかめると、更に周りの連中が「怖えぇ!」と叫び声をあげて逃げ出すという負のループに陥っていた。
そんな俺を心配してか、その日の昼休みに親友の茂雄が事情を聞いてきた。
「なぁ…お前最近酷い顔してるけど大丈夫か?」
「実はあまり大丈夫じゃなかったりする。寝不足でな…」
「なんか悩み事か? 俺でよかったら相談に乗るぜ?」
俺は茂雄にそう言われてその時初めて「自分には頼りになる友人がいるじゃないか!」という事に気づいた。
高1まで碌に友達のいなかった俺は今までの人生で悩み事を友達に相談するというのをした事がなかったのだ。なので完全にそれが頭から抜け落ちていたのである。
そうだ。1人で悩むよりもこういうのは友達の意見も聞いた方が良い。そう思った俺は親友に感謝をしつつ、悩みを相談する事にした。
「実はさ…」
俺は先週の土曜日にあった出来事を彼に話した。そのせいで悩み、眠れず、俺が最近睡眠不足である事も。
もちろん恥ずかしいのでそれをやったのは九条さんというのは伏せておいた。あくまで俺がボランティアで参加している子供会に来ているキッズのお姉さんという
「お前…俺の知らない間にそんなラブコメみたいな事になってたのかよ」
茂雄が若干呆れながら俺にそう言ってくる。しかし彼は最初こそ呆れた顔をしていたが、その後は真剣な表情をして俺の相談した内容について考えてくれた。やはり彼はいい奴だ。俺の親友だ。
「そうだなぁ…確かにそこまでやったんならその人はお前の事を『好き』なんじゃないか? だって普通キスなんて気のある奴にしかやらんだろ? 外国なら挨拶の一環として気軽にやるかもしれんが、ここは日本だ。好きな人以外にはしないと俺は思うぜ?」
茂雄は俺の話を聞いて、その人は俺に気があるが故に「キス」をしたのだと解釈したようだった。…やっぱり茂雄もそう思うのか。
「俺も最初はそう考えたんだけどさ。子供会に来ているその人の弟から聞いたんだけど、その人学校では凄く人気あるらしくてさ、誰でも選び放題な訳なのよ。それなのに俺を選ぶ理由ってあるのかなって…」
「いやお前…それは関係なくないか?」
「えっ?」
「好きになればどんなイケメンよりも、どんな金持ちよりもその人の方が魅力的に見えるに決まってるじゃねえか。もし善人の言う通り女の子がイケメン金持ちしか選ばないのなら、善人の父ちゃんと母ちゃんはなんで結婚したんだ? 善人の母ちゃんもイケメンを選ぶはずだろ? それなのにお前の母ちゃんはお前の父ちゃんと結婚してお前が生まれたんだ。お前の父ちゃんを魅力的だと思ったから結婚したんだよ」
「あっ…」
俺は茂雄にそう言われて「ハッ」とした。確かに彼の言う通りだ。好きになればその人の事が1番魅力的に見えてしまう。
俺だってそうだ。九条さんは確かに可愛い。でも客観的に見て世界で1番可愛いかと言われるとそういう訳でもないだろう。彼女以上の美女はいるはずだ。
でも俺は…俺自身は彼女に心底惚れていて、彼女の俺の内面までちゃんと見てくれる所に惹かれて、俺は彼女の事を世界で1番魅力的だと感じている。
誰でも選び放題だからと言って必ずしもイケメン金持ちの方に行くとは限らないのだ。俺はその事をすっかり失念していた。今まで碌にモテなかったが故にそんな簡単な事すら忘れてしまっていたのだ。
茂雄の意見も加味すると…やはり九条さんは俺の事が好きだからあんな事をしたのだろうか?
でももし間違っていたら…? 「そんなつもりじゃなかった」と言われたら?
「さようなら。もう話しかけてこないで」
せっかくの俺の理解者が俺の元から離れて行ってしまう。俺の心はそれを異常に恐れていた。
孤独は辛い。幼少期から散々人に怖がられ避けられ…それを知っている俺だからこそ…あの頃の様には戻りたくない。俺はもう人の温かさを知ってしまったから。
俺はその事も茂雄に相談してみた。
「うーん…正直俺も恋愛経験なんてある訳じゃないから確実に『その人は善人の事が好き』とは言えねぇ。でもな善人、このまま悩んでいるだけじゃお前が憔悴して壊れるだけだと思うぜ。…だから行動しろ! 土曜日に子供会でその人に会うんだろ? じゃあそれとなく理由を聞いてみようぜ。それで脈アリそうなら告白、ナシなら…そのまま関係を維持! これでどうだ?」
恋愛経験のない俺たちに現状の情報で答えが出せないのなら、その答えを出すためのヒントを探しに行く必要がある。ウジウジ悩んでいるだけでは何も解決しない、だから行動に移せ。彼はそう言いたいのだろう。
俺は彼の意見に従う事にした。
◇◇◇
主人公ちょっとネガティブすぎじゃない? と思うかもしれませんが、幼少期からずっと否定され続けていたので自分に自信がないのです。
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