聖女様とデート 待ち合わせ編

 俺は家に帰ると早速明日のデートの準備を始めた。机の中にしまってあるお金を引き出し、近くにあるアパレルショップにダッシュでデート用の服を買いに行く。


 …お年玉貯めておいて良かった。


 今まで俺が遊びに行く相手というと茂雄ぐらいだったので、まともに女の子とデートできるような服を持っていなかったのだ。


 モテない男2人でそこら辺に出かけるぐらいであれば…多少ラフな格好でも許されるが、今回は九条さん…自分の彼女とのデートなのだ。変な格好をして彼女に恥をかかせる訳にはいかない。


 俺はアパレルショップに入店すると近くにいた店員さんに自分に合う服をチョイスしてくれるように頼んだ。ファッション音痴の自分が選ぶよりかは店員さんに選んで貰った方が間違いはないはずだ。


 話しかけた際の俺の顔が怖かったようで、最初その店員さんは引きつった顔をしていたが…そこは流石接客のプロ。すぐに表情を正すと俺に合う服を探してくれた。


「お客様にはこちらなどお似合いかと存じます」


 店員さんが選んだのは黒のステンカラーコートに青のカーディガン、そして紺色のスラックスパンツだった。なんでもこの春人気の組み合わせらしい。


 俺は店員さんにチョイスして貰った服を早速試着してみた。


 うーん…流石店員さんだ。これを着ていると自分が物凄くオシャレになった気になってくる。サイズも問題ないようだし、これに決めよう。


 俺はその服をレジに持って行き、代金を支払って店を出た。


 そして家に戻った俺は明日のデートで待ち合わせ場所近くにあるデートスポットをスマホで調べ始めた。


 九条さんは明日の13時に駅前に集合と言っていた。


 俺の住む町では駅周辺が1番発展しており、繁華街となっている。「駅」という目立つ建物が待ち合わせ場所として分かりやすいし、そこから繁華街にある様々な店にアクセスできる。


 そういう理由でここら辺に住む学生がデートする際の定番の待ち合わせ場所となっているらしい。


 …九条さんはどういう店が好きだろう? よく教室でお菓子を摘まみ食いしているからスイーツショップは候補に入れておいた方が良さそうだ。後は…。


 俺はその日遅くまで繁華街にあるデートスポットを調べて案を練った。



○○〇



「服装はOK,スマホと財布は持った」


 そして迎えたデート当日。身だしなみを整えた俺は家を出た。気分は九条さんとデートできる嬉しさとデートが上手くいくだろうかという不安の半々。


 見た目に関しては昨日店員さんのお墨付きを貰ったので大丈夫なはず…。なので後はデートのエスコートだな。昨日インターネットで色々調べたはいいが、俺自身デートをするのは初めてなのだ。至らぬ所や予期せぬアクシデント等もあるだろう。


 …九条さんに楽しんで貰えるように頑張ろう。


 俺がそんな事を考えながら歩いていると駅が見えてきた。ポケットからスマホを取り出して時間をチェックする。待ち合わせ時間まであと10分あった。


 駅前に着いた俺は九条さんの姿を探すが、まだ彼女は来ていないようだった。彼女は可愛いのでいればすぐにわかる。


 俺は九条さんが見つけやすいように駅前にあるベンチに座って彼女の到着を待った。ついでにスマホのメッセージアプリで『駅に着いたよ。ベンチに座ってる』とメッセージを送っておく。


 1分、2分…待ち合わせの時間が刻々と迫る。俺は高まる心臓の鼓動を押さえながら彼女が現れるのを待った。


 ピピピピ! ピピピピ!


 10時にセットしておいたスマホのアラームが鳴り響く。俺はベンチから立ち上がると再び九条さんの姿を探した。…しかしまだ彼女の姿は見えない。


 スマホのメッセージアプリの画面を開くが、先ほど俺が送ったメッセージに既読はついていなかった。


 …何かあったのだろうか? 俺の心に不安がよぎる。


 俺はスマホから顔を上げて九条さんの家の方向を見つめる。…するとその方向からこちらにダッシュで駆けてくる人影が見えた。あれは…。


「ご、ごめーん極道君! ちょっと遅れちゃったぁ~!」


 間違いない九条さんだ。…良かった。ちゃんと来てくれた。


 彼女は俺の傍に来て立ち止まると手を膝に付けて肩で息をしながら呼吸を整えた。


「ま、待ったぁ? ハァハァ…」


「いや、俺もさっき来たところだよ。大丈夫? 座って休みなよ」


 俺は九条さんをベンチに座らせると、近くにあった自販機からペットボトルの水を購入して彼女に手渡した。


「ハァハァ…。あ、ありがとう…。あっ、お金」


「いいよいいよ。たかが130円だし」


「…ありがとう。今度何かお返しするね」


 別にこれくらい構わないんだけどなぁ…こういう所はしっかりしている。彼女は俺の渡した水の蓋をあけて、中身をゴクゴク飲み干すと一息ついた。


「ふぅ…」


「何かあったの?」


 俺は彼女が遅れてきた理由について聞いてみた。


「う゛っ…ごめんなさい。実は…今日着る服を悩んでいたら遅れちゃったの///」


 彼女は恥ずかしそうに俯きながらそう答えた。俺はその時初めて彼女の着ている服を意識した。


 今日の九条さんは春らしい桜色のカットソーに花柄のロングスカートを着用していた。可愛らしくもあり、彼女のその清純な感じを何倍にも増幅させているような…そんなスタイルだ。


 あぁ…彼女は女神様か? いや聖女様だったわ。


「ど、どう…かな?//// 頑張って選んだんだけど?///」


 彼女は顔を赤らめながら俺に服の感想を尋ねてくる。


 おそらく俺に褒めて欲しくて一生懸命選んだのだろう。だから少し遅刻してしまったと…。俺の心に彼女への愛しさが溢れてくる。


 …そんなもの、最初から答えなど決まっている。


「とてもよく似合っているよ。可愛い」


「え、えへへ//// ありがとう。極道君も今日の服カッコイイね」


「お、おう/// ありがとう///」


 彼女は照れくさそうに俺の言葉を受け取っていた。


 しかも俺のファッションも褒めてくれる。…ありがとう店員さん。あなたのおかげで事なきを得ました。俺も彼女に褒められたせいか頬が熱を帯びてくる。


 何とも言えない空気が2人の間に流れ、2人とも顔を赤くしたまま沈黙する。


 な、なんだろう。この甘酸っぱくてこっ恥ずかしい空気…これがデートか。


「そ、そろそろ行こっか?/// 私も十分休んだし…」


「そ、そうだな///」


 数分程その状態が続いたが、先にこの空気を破ったのは九条さんだった。彼女の発言でなんとか言葉を発せるようになった俺はそれに賛同した。さぁデートの始まりだ。



◇◇◇


初々しい2人のデートの始まりです

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