聖女様を陰ながら助ける その3
満潮に因縁をつけられた俺を九条さんが庇ってくれてから数日が経った。俺を外見だけで判断せずにちゃんと俺の行動を見て擁護してくれた人…それが俺にとってはすごく新鮮で、感動で心が打ち震えた。
いくら感謝しても感謝し足りないぐらいだった。
身内と茂雄以外で俺をあそこまで擁護してくれた人は九条さんが初めてだったのだ。
それから俺の頭の中は九条さんで埋め尽くされていった。寝ても覚めても頭の中に浮かんでくるのは九条さんの事ばかり…。
こういうのをいわゆる「恋」というのだろうか?
ライトノベルやラブコメ漫画などで漠然と「恋」がどのようなものか、概念としては知っていたが…まさか自分がこのような状態になるとは思わなかった。
俺の初恋。
…しかし、この初恋は絶対に実らない。
俺はみんなから嫌われている悪人面、彼女はみんなから好かれている聖女様。決して釣り合う事のない2人…。
それに彼女は別に俺にだけ優しい訳ではない。彼女は皆に優しい。あの時だって彼女はただ中立の立場で事実を話してくれただけにすぎない。俺だから特別にそうしてくれた訳ではないのだ。
俺は考えた結果、絶対に実らないこの想いを心の内にしまい鍵をかける事にした。俺がもし彼女に言い寄ろうものなら…彼女に迷惑がかかってしまう。それは俺の本意ではない。
しかし彼女にあの時庇って貰った恩は返しておきたかった。受けた恩を返さないのは俺の主義に反する。なので俺は今まで通り、陰から彼女を助ける事を選択した。
○○〇
「あっ、極道く」
「茂雄、学食行こうぜ!」
「え? あ、ああ。分かった」
あの日以降、何故か九条さんは俺にたまに話しかけようとしてくるようになったが、俺はなんとかそれをスルーし続けていた。
俺と一緒にいると彼女の評判が落ちると思うし、そしてなにより…彼女と話していると俺の心の奥底に封じ込め、鍵を掛けた想いが暴発して外に出てきそうになるからである。
「なぁ、さっき聖女様お前に話しかけてこなかったか?」
「気のせいじゃない? 九条さんが俺に何の用があるってんだよ」
「…それもそうか。俺が言うのもなんだが、対極の位置にいる2人だもんな」
「ちげぇねえ」
俺は茂雄と軽口を交わし合いながら購買で買ったパンをかじる。いつも通りの毎日。でも、これでいい。
昼食を食べ終わった俺と茂雄は自分たちの教室に戻って来た。教室の中を見ると九条さんは友達と机を並べてお弁当を食べていた。自分の席に戻るために彼女のそばを通り過ぎるかたわら、俺の耳に彼女たちの会話の内容が聞こえて来る。
「ねぇ沙織、私のハンカチ見なかった? 蝶の刺繍がついた青色のハンカチなんだけど…」
「えっ? 今朝SHR前にトイレに行った時に使ってた奴? あたしは見てないなぁ。みーちゃんは?」
「…わたしも見てない」
「どこに置いたのかなぁ。あれ弟から誕生日プレゼントに貰った大事な物なんだけど…」
どうやら九条さんは大事なハンカチをなくしてしまったらしい。それを聞いた俺は九条さんに恩を返すチャンスだと思った。
俺も後で探そう。…青色で蝶の刺繍のついたハンカチね。見つけたなら彼女の机の中に入れておけばいい。誰が置いたのかなんて分からないはず。
○○〇
あれから俺も休み時間などに探したのだが、九条さんのハンカチらしきものは見つからなかった。そしてそのまま時は過ぎ、放課後となる。俺は放課後も特に予定がなかったので、引き続き彼女のハンカチを捜索して学校中を探し回った。
今日の1限があった化学室から3限で音楽があった音楽室、その日彼女が行ってそうな場所を虱潰しに探す。今朝SHR前にトイレに行った時にあって、昼休みになくなった事に気が付いたのだから、それまでの間に落としているはず。
…だが見つからない。時刻は18時になろうとしていた。俺は今日の捜索は諦めて帰るかと鞄を取りに教室に戻った。
教室の前まで戻ってくると中に誰かがいる気配を感じた。俺は教室の扉を少しだけ開け、中を確認する。すると中にいたのは1人の男子生徒だった。あれは確か…同じクラスの
三橋はこのクラスのトップカーストである満潮の取り巻きだ。典型的な腰巾着タイプで特に何も長所も無い癖に満潮の取り巻きというだけでクラスカースト下位の連中には威張り散らし、それ以外には媚びを売るクソみたいな男だった。
彼は俺に背を向け、興奮した様子で何かの匂いを嗅いでいる様だった。
「ハァハァ…//// 聖女様のハンカチ。クンカクンカ…。はぁ…天にも昇る香りがする…////」
うん? 今聞き捨てならない言葉が聞こえたような気がしたが…?
「しかし、ラッキーだったよなぁ。トイレから出てきた聖女様が落としたハンカチを拾うなんて…。これは家宝にするぞ!」
ご丁寧に説明までしてくれた。あいつからハンカチを取り返して九条さんに返してあげよう。
俺は教室に突入した。教室に誰か入ってくるとは思わなかったのか、三橋はビクリとしてこちらを向く。
その際に彼が手に持っていたハンカチの柄を確認するが、青色で蝶の刺繍が入っていた。間違いない、九条さんのハンカチだ。
「三橋、お前そのハンカチ九条さんに返せよ」
「ご、極道…。なななな、何の事かな? これは俺のハンカチだぞ!」
「残念だが…さっきお前のでかい独り言を聞いちまったんだよ」
「盗み聞きするなんて…品の無い奴だな」
「あぁ!? 盗人に言われたくないね。とっととそれ返せや!」
俺は三橋を軽く睨みつけた。今回は話し合う必要なんてないのだから睨みつけても構わないはずだ。
「ひぃ、ひえぇぇ~。殺されるぅ~!」
三橋はハンカチを投げ捨てると教室から急いで逃げ出した。俺は彼が投げ捨てたハンカチを拾うと綺麗にたたんで九条さんの机の中に入れた。
これでよし。九条さんにひとつ恩を返せた。
ゴトッ…
その時、教室の外から物音がした。三橋の奴が戻って来たのかと俺は教室から顔を出して外の廊下を見渡すが誰もいない。
なんか以前にもこういうのあったな?
「…気のせいか?」
俺はその音を自分の気のせいだと判断し、その日は帰る事にした。
○○〇
「そう…教えてくれてありがとう。また…助けられちゃったね♡」
◇◇◇
主人公は今までの経験からあまり異性に積極的になれません。
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