思いがけず聖女様を直接助けてしまう
土曜日になった。この日は子供会のある日だったので、俺はボランティアとして参加するべく町の公民館へと向かう。
「はよざいまーす!」
「善人君おはよう! 今日もよろしくね」
「はい」
おばちゃんたちに挨拶を済ませると公民館の多目的室に入る。
「善人お兄ちゃん、おはよう!」
「おっ、天男君か。おはよう!」
俺が多目的室に入ると先に来ていたであろう天男君が話しかけてきた。この前の子供会で俺の手伝いもあってか彼には無事友達ができたようで、今日は以前とは違いウキウキの笑顔をしている。友達と遊ぶのが楽しみで仕方がないのだろう。
「お兄ちゃんおはよー」「天男君もおはよー」「今日は何して遊ぶ?」
他の子供たちも続々と多目的室に集まって来た。さぁ子供会の始まりだ。
天男君は他の子供たちと一緒に様々な遊びに興じている様だった。車いすに乗りながらもはしゃぎながらレクリエーションを楽しんでいる。
友達出来て良かったな、天男君。
他の子供たちも天男君ができない遊びについては配慮してやらないようにしているようだ。子供たちは学習が早い。ああやって自分とは違う人間に対する対処の仕方というのを学んでいくんだろう。
俺は子供たちが無邪気にはしゃぎまわっている様子を遠くから眺めていた。
そうしていると車いすに乗った天男君が息をあげながらこちらにやって来た。
「どうした、天男君?」
「ちょっと休憩…」
はしゃぎすぎて疲れたのだろう。彼は身体が弱いみたいなので大勢の友達と騒ぐのにまだ体力がついていけないのかもしれない。俺は休憩室から冷たい麦茶を持って来て彼に渡した。
「ありがとうお兄ちゃん。…僕、お兄ちゃんにはお礼を言わなきゃいけない事だらけだよ。お兄ちゃんのおかげで一杯友達ができたんだ。本当にありがとう!」
天男君は俺の方を向いてペコリと礼を言ってきた。俺の人生で礼を言われた経験なんて数えるほどしかないので少し照れくさい。俺は彼から少し顔を反らしながら右手で頬をかいた。
「いや、俺は何もしてないさ。天男君が頑張ったから友達ができたんだよ」
「ううん、お兄ちゃんのおかげだよ。お兄ちゃんがいたから、お兄ちゃんの励ましがあったから僕は友達ができたんだ。だからお礼を言わせて。僕のお姉ちゃんもお兄ちゃんにお礼を言いたいって言ってたよ」
「天男君のお姉さんが?」
天男君のお姉さんといえば…子供会のおばちゃんたちをして
嬉しいけど…断った方が良さそうだな。俺の悪人面を見たお姉さんがびっくりして叫び声をあげるかもしれないしね。
○○〇
子供会の終了の時間になった。基本的に子供会は午前9時頃に始まり、昼前には解散になる。子供たちが続々と帰宅していく中、俺とおばちゃんたちは子供会の後片づけをしていた。
「天男くーん、お姉さん来たわよー!」
「はーい!」
どうやら天男君の迎えが来たらしい。彼は車いすで移動するので帰る際は必ず家族が迎えに来るのだ。
…今日はお姉さんが迎えに来たようだ。彼の迎えに来るのは母親かお姉さんが半々と言った感じである。
「善人君、ここはもういいから帰っていいわよ」
「え、でもまだ片付けが残ってますよ?」
「これくらいはおばちゃんたちがやっておくわ。せっかくの土曜日よ。若いんだから友達と遊んだりしてらっしゃいな。さぁさぁ!」
おばちゃんたちはそう言って俺の背中を押して公民館から追い出した。うーん…おばちゃんたちの厚意、せっかくだから受け取っておくか。
でも友達と遊べと言われても…俺、友達少ないんだよなぁ。今日茂雄の奴空いてたっけ? 昨日どっかに出かけるとか言ってたような…?
俺は連絡先の少ないスマホの画面を見つめながら帰宅の途に就く。茂雄に「今日空いてる?」とメッセージを送ったが、生憎「すまん、予定がある」と返って来た。
俺はため息を吐きながらスマホをポケットにしまい顔を上げた。ふと前方を見ると、車いすに乗った男の子と綺麗な金髪の女性が横断歩道を渡ろうとしている。
あれは…天男君とそのお姉さんか。
…後ろ姿から伝わるその美少女オーラ。なるほど、おばちゃん連中が口をそろえて別嬪だと言った理由が分かる気がする。
信号が青に変わり、お姉さんが車いすを押して横断歩道を渡り始めた。
ところが彼女たちが横断歩道の中盤に差し掛かろうかとした時に異変は起きる。
「あれ…なんで動かないの?」
天男君のお姉さんが焦った声でそう言ったのが聞こえた。どうやら車いすの車輪の部分が何らかの原因で動かなくなってしまったらしい。お姉さんは必死に車いすを押すが無情にも車いすは動かない。
信号が点滅し赤に変わる。そしてそこにバイクが猛スピードでこちらに向かってやって来た。そのバイクはよそ見をして気づいていないのか、天男君たちがまだ横断歩道を渡り切っていないのに減速もせずまっすぐ突っ込んで来る。
ヤバい…このままでは大変な事になってしまう。俺は急いで彼女たちの元へ駆け寄った。
「手伝います!」
「えっ?」
「善人お兄ちゃん!」
俺は無理やり天男君ごと車いすを持ち上げると横断歩道の向こう側へと渡った。俺たちが横断歩道を渡り切るとほぼ同時に後ろをバイクが直進する。
「気をつけろや!!!」
バイクの人の怒鳴り声が聞こえる。…危なかった。ギリギリで渡り終えた。というか目の前に歩行者がいるんだから減速しろよ。
「…怖かった。善人お兄ちゃん、助けてくれてありがとう」
「あの…ありがとうございました」
「あぁ、間一髪だったな」
俺は横断歩道を渡り終えると車いすを降ろした。天男君とそのお姉さんが俺に礼を言ってくる。俺は振り返って天男君のお姉さんの顔を見た。そしてお姉さんの顔を見て驚いた。
「…えっ? く、九条さん!?」
なんと子供会のおばちゃんたちの間で美人と噂の天男君のお姉さんは我らが学校の聖女・九条さんだったのだ。
…どうしよう? 彼女とはもう直接的に関わるつもりは無かったのに。
◇◇◇
主人公は九条さんを陰からではなく、直接助けてしまいました。主人公の運命や如何に?
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