高校で「聖女様」と呼ばれている女の子
俺は眠たい目をこすりながら学校に登校した。昨日自分が贔屓にしているYoutuberのゲーム配信が深夜まであったので、それをずっと見ていたせいで寝不足であった。
寝不足の俺の顔はいつもより怖いらしく、すれ違う生徒たちから「ひぇー!」だの「怖っわ…」だの「絶対今朝人殺して来てるよ」だのいう悪口が聞こえて来る。
…これくらいの事はもう何年も言われているのでもう慣れた。俺はそんな悪口をしり目に自分のクラス…2年4組へと向かう。
季節は5月。ゴールデンウイークも終わり、4月に新しくなったクラスでもお互いのキャラが段々分かってきて仲の良いグループが固まり始める頃である。
俺はあくびをしながら自分のクラスの扉を開けると中に入った。
俺が教室に入ると中にいるクラスメイトたちは一瞬だけ俺の方を見るが、すぐに目を反らす。俺と目を合わすと〆られると思っているらしい。
…そんな事しないのに。俺は他人を〆るどころか、人を殴った事すらない人間なのだ。
ため息を吐きながら自分の席である窓際の1番後ろの席を目指す。通称「陰キャ席」と呼ばれる席だ。
「おっす! おはよう!」
「おう!」
前の席に座る男が俺の方をクルリと向いて笑顔で挨拶をしてきた。
基本的に会う人々皆から顔が怖いという理由で理不尽に嫌われている俺だが、ほんの数名ではあるが…俺の事を理解してくれる人がいる。その1人がこの前の席に座る
茂雄とは高校1年の時に出会ったのであるが、彼も俺と似たような悩みを抱えていた。彼はよく他人から顔が「胡散臭い」と言われるのである。いわゆる「詐欺師面」という奴だ。
茂雄とはもう1年以上の付き合いになるが、彼がその外見通りの詐欺師のようなムーブをした事は1度もない。むしろ彼は詐欺師どころか誠実な男である。だがその「詐欺師面」故に中々他人から信用されないのだ。
「悪人面」故に他人から理不尽に怖がられる俺と「詐欺師面」故に他人から理不尽に信用されない茂雄。そんな俺たちが互いに意気投合するのは時間の問題であった。
茂雄は俺を外見で判断するのではなく、普段の言動を見て判断してくれた。母ちゃんに言われた「善行をしていれば、絶対に中身で判断してくれる人が現れる」という実際に俺の中身を見て判断してくれた人間の1人である。
今では親友と言っても良いほどの間柄だ。
俺は自分の席に座ると流行のアニメや漫画の話題を彼と話す。友達と趣味の話題を話す…至って普通の事のように思われるが、俺は高1まで友達がいなかったため、それが出来なかったのだ。友達と話すのがこんなにも楽しい事だなんて知らなかった。
○○〇
俺と茂雄が一通り話し終わると、そこで丁度教室の扉が「ガラッ」と開いた。俺たちの視線は必然的にそちらに吸われる。
「おっ、聖女様の御登校か。今日も可愛いねぇ」
俺たちのクラスにはみんなから「聖女様」と呼ばれ、慕われているとても優しくて可愛い女の子がいる。フルネームは
その姿はまるで海外の絵画に描かれている聖女の如く神々しく、そして愛らしい姿をしている。
肩下まで伸ばしたサラサラストレートの金髪、少し寝癖がついて跳ねているのも愛嬌があって可愛らしい。
美少女である事の絶対条件であるパッチリとしたおめめに長いまつ毛、プルンとした唇を持っており、全体として少し童顔気味で幼い印象を受けるが…そこがまた可愛いと評判だ。
身長は女子の平均よりは少し低めで150前半ぐらいだろうか。体型は少しぽっちゃりしているものの太っているという訳ではなく、抱きしめると柔らかそうだ。現に彼女の友達などは抱き心地が良いのかよく抱き着いている。
そして彼女を「聖女」と言わしめているのは何もその愛らしい容姿だけではない。彼女はとても、とっても優しいのだ。
それこそクラスカーストや老若男女問わず誰にでも…イケメンリア充から陰キャオタク、おじいちゃん先生から若い新任教師に至るまで誰にでも分け隔てなく優しく丁寧に接している。その慈愛に満ちた姿から人々は彼女の事を「聖女」と呼ぶのだ。
なんせこの俺にさえ(若干怖がられはしたが)彼女は優しかったのだ。
…あれは半月ほど前の事だったか。筆箱を忘れてしまい、しかもその日は俺の唯一の友人である茂雄が風邪を引いて休みだったので困り果てていた。その時に彼女は親切にもシャーペンと消しゴムを1セット俺に貸してくれたのだ。
そんな事で? と思うかもしれない。しかし、俺に何かを貸してくれた人は仲の良い茂雄を除くと初めてだったのだ。今までは俺が何かを忘れて困っていても、みんな怖がって何も貸してくれないのである。
どちらかというと人の悪意に触れてきた事の方が多い俺にとって、親切にしてくれた聖女様は心を大きく震えさせる存在だったのは言うまでもない。
彼女は友達に「おはよー!」と朝の挨拶をすると自分の席に座った。
◇◇◇
さてヒロインが登場しました。これから2人はどう関わっていくのでしょうか?
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