第42話 ソフィーナの願い、避難民を救う

 日本から、惑星「フリースランド」に帰国してから4か月後、また城や国中に祝い事が起きた。ソフィーナの懐妊カイニンである。


「間違いありません。元気な双子です。」

 主治医の言葉を聞くや否や、晴人とセオドア上皇とエリス上皇后は、自発的に万歳をした。しかも、偶然である。晴人とセオドア上皇は、笑っていたが、エリス上皇后は顔を赤らめていた。


 晴人がソフィーナの髪をで、ソフィーナの右手を両手で握りしめながら、


「ソフィーナ、おめでとう。また、家族が増えるよ。本当にありがとう。」


 そう言うと、ソフィーナは何の恥じらいもなく、


「晴人さん、この赤ちゃんたちを授かったのは、逆算すると、きっと東京のホテルの夜だと思いますよ。だって、あの夜は、二人ともすごかったですもの。」


 と発言してしまい、周囲の者たちを大爆笑させた。しかし、その後の発言が、晴人だけでなく、セオドア上皇やエリス上皇后、ヴァイオレット、ミニッツ、城中の者たちの心を大きく揺さぶった。


「晴人さん、私たちだけがこんなに幸せになって良いものでしょうか?私はあなたの赤ちゃんを身ごもって、今、言葉にできぬほどとても幸せです。でも、晴人さん、父上、母上、ヴァイオレットちゃん、ミニッツ、城で働く皆さん、私たちだけが幸せで本当にいいのでしょうか?ミニッツ、晴人さんに殺意のない一般市民や農民を救う手立てや工夫を助言してくれませんか?勿論モチロン、帝国軍の各国の市民や農民は、子供の頃から東方諸国連合と南方諸国連合の人間を殺すこすように洗脳され、教え込まれてきたと思います。でも、この長期化した戦争で、家族を殺された者も多いと思うのです。また、自らが身をもって侵略戦争の悲惨さや残酷さ、飢餓の苦しさなどの体験を通して、侵略戦争への否定感情が高まっているのではないでしょうか。ミニッツ、兵士をアヤめるのはやむを得ないでしょう。でも、侵略戦争への否定感情が高まっている一般市民や農民たちの命をどうか助けてあげてください。」


「ソフィーナ女王陛下、あなたは天女テンニョのようですね。」


「ミニッツ、なぜでしょうか?」


「自分が幸せの絶頂にありながら、帝国の一般市民や農民の命の尊さまで考えていらっしゃる。分かりました。ベストな選択肢は選べないかもしれませんが、より良い選択肢を晴人さんと一緒に考え、行動に移しますので、ソフィーナ女王陛下は心配せずに、美味しいものをうんと食べて、また、元気な赤ちゃんを産んでくださいね。」


「ミニッツ、ありがとうございます。」


「はい。では、早速、晴人さんをお借りしますよ。」


 その後、ミニッツは、晴人を連れ医務室を出て、国王の間の会議室へ向かった。そこには、『天の使徒の森』の7部隊の各隊長が既に集まっていた。


「晴人さん、私はソフィーナさんに心の豊かさとあたたかさを取り戻していただいたような気がします。」


「ミニッツ、俺もだよ。」


「晴人さんの軍師であるミニッツです。7部隊の各隊長さんたちに集まってもらったのは他でもありません。」

 そう言って、ミニッツはソフィーナに伝えられた内容を各隊長に説明した。


「さすが、姉さんだぜ。懐が広いや。」

 と第5隊隊長の晴人メタリックドラゴンが言うと、


「ちげえねえ、姉さんらしくていいねえ。」

 と第6隊隊長の晴人ゴールデンナイトが晴人メタリックドラゴンの発言を認めた。


「それで、皆に頼みがある。帝国軍に攻め滅ぼされた旧バルト騎士団王国と旧神聖バルト公国と旧聖エディオン騎士団王国は、もぬけの殻だ。住民さえ住んでいない。その3か国を取り囲むように、『万里の長城』を3か月という短い期間で仕上げてもらえないだろうか?できれば、旧南方諸国連合に受け入れたいが、散々殺し合った仇敵キュウテキ同士だ。必ず殺し合いの紛争が起きると思う。だから、『防衛用バリア魔法』で敵軍の侵入をシャットアウトする。その状況下で『万里の長城』を建造する。そして『万里の長城』が完成したら、我々が天空から一般市民や農民に『天』の使徒であることを説明し、安全と食べ物を保証することを伝え、旧聖エディオン騎士団王国に避難するように伝える。加えて、旧聖エディオン騎士団王国に入国審査室を設けて、レーダー探知機腕時計を使って、青く反応する市民や農民のみを受け入れ、水道設備の整った集合住宅に住んでもらおうと思う。また、食料は、我々の方から次元収納ストレージを使って提供する。土地が肥沃ヒヨクではないため、数種類のさつま芋の種芋を提供し、畑作をしてもらおうと考えている。その後の広大な土地のことは、そのときになってから考えたい。それが済んだら、第1隊から第7隊全部で軍隊と各国の国王一族の討伐を行う。このプランでどうだろうか?」


「はい!第二隊隊長の晴人フェンリルです。『万里の長城』の建造はコツつかんでいるので、1カ月もあれば完成します。難民の避難と入国審査が完了した時点で、その後、地域を7つに分けて、軍隊を薩摩示現流で斬り倒していきましょう。同士討ちにさえならないのであれば、魔法の武器を使えばいいと思います。」


「はい!第一隊隊長の晴人タイガーです。『万里の長城』が完成したら、分担して各地を回り、戦争避難民の受け入れ準備ができていることを大拡声器魔法で一般市民や農民に知らせましょう。それから、第一隊から第七隊は各4万3千名います。『万里の長城』の築城完了前からミニッツさんと我が主の方で、『スパイアカダニ』と『スパイカメレオンフライ』と連絡を取り合ってもらい、各帝国軍の国王や将軍の居所を把握しておいて下さい。その方が、効率的に敵の中枢部を攻撃しやすいです。」


「異議なし!」

「異議なし!」

「異議なし!」


「俺から皆に頼みがある。プージン皇帝の始末は、ヴァイオレットにさせてもらいたい。両親の敵討カタキウちだ。サポートには俺が付く。」


「異議なし!」

「異議なし!」

「異議なし!」


「それでは、早速、俺が、『防衛用バリア魔法』を張り巡らせるから、全員で『万里の長城』の築造を頼む。」


「イエッ・サー!」


 

 

 第二隊隊長の晴人フェンリルが指摘した通り、「万里の長城」はちょうど1カ月で完成した。その後、敵部隊に姿がばれぬように「透明化スルー魔法」を用いて、6か国の帝国軍の領土を回り、安全と食べ物を保証することを伝え、旧聖エディオン騎士団王国に避難するように伝えた。避難民の中には、農民に変装して入国しようとした兵士が3万人もいたが、晴人が転移魔法陣を用いて、戦場の真っただ中に転送した。

レーダー探知機腕時計の検査で、彼らの反応は全て「赤」だったのだ。殺意を示す反応の人間を入国させるわけにはいかない。モンスターズのメンバーも遠慮なく「赤」の反応を示す者たちは、晴人のつくった転移魔法陣で戦場に送り返した。


 避難民は、6か国の帝国軍の領土全体で、わずか1億万人だけであった。30億人を超えるだろうと予想していたミニッツと晴人は驚愕した。約3年間に及ぶ帝国大戦争で、29億人の一般市民や農民たちが殺害されたことになる。戦争を野放図に放置すれば、いかに大量の人間の尊い命が奪われてしまうのかを目の当たりにしたのだ。


 ミニッツと晴人は、生き残った避難民を、旧バルト騎士団王国と旧神聖バルト公国と旧聖エディオン騎士団王国に均等に分け、衣食住を保障した。そして、晴人が『天の使徒の森』から運んだ腐葉土を物体再現魔法を使って増産し、各農地の肥料として与えるとともに、数種類のさつま芋の種芋を配布した。

 家族を目の前で殺されたり、家に火を付けられたりしてほとんどの者たちが心に深い傷を負っていた。トラウマとなりPTSDやうつ病を患っている者たちも少なくなかった。晴人は、大念話を用いて、旧バルト騎士団王国と旧神聖バルト公国と旧聖エディオン騎士団王国に避難してきた者たちへ大念話を使って一人ひとりに話した。


「俺は、全宇宙を司る『天』の使徒にして、パルナ・パーニャ共和国の国王、大和晴人である。以前は、敵国同士であったが今は違う。あなたたちは、家族を目の前で殺されたり、家に火を付けられたりして焼け死ぬ家族を見て、何を感じた?本当の敵は誰だ?あなたたちにとってかけがえのない両親や夫や妻や我が子を目の前で殺す帝国軍ではないのか?これまでに『天の使徒』の国が、あなたたちの住む国へ侵略戦争を仕掛けたことが一度でもありますか?ないでしょう。なぜだかわかりますか?人の命の尊さと儚さを『天の使徒』の国の者たちは、あなたたちより知っているからです。

 あなたたち一人ひとりが心に受けた傷はあまりに深い。されど、せめて、あなたたちだけは生きて欲しい、いや、生き抜いて欲しい。そのためらな『天の使徒』の国は何でもしよう。繰り返します。せめて、あなたたちだけは生きて欲しい、いや、生き抜いて欲しい。今はただ、豊かな生活を取り戻すために大地にさつま芋の種いもを植え、収穫を待ち望んでほしいと願う。」






 



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る