第40話 ソフィーナの出産
それから3か月後も、ヴァイオレットの薩摩示現流の
「晴人国王様、遠心力がいまいち分かりません。どうしたら、遠心力を会得することができましょうか?」
「う~ん。そうだなあ~。剣舞を教えようか?」
「剣舞ですか?初めて聞く言葉です。
「うん。そうだよ。今から俺が剣舞を舞って見せるからね。」
すると、晴人は、
「今のが剣舞だよ。」
「動く順序があるのですか?」
「ない。好きなように動いて、好きなように
晴人の予想通り、動きがぎこちなく、
「ヴァイオレットさん、なぜ、
「う~んと、あっ、そうだ、踊りが固いからです。
「パチ。パチ。パチ。その通りです。さすがです。固い動きからはしなやかな
「踊りをもっとしなやかに。さあ、失敗を恐れずにやりましょう。」
「はい。」
すると、さっきとは見違えるような柔らかい動きに代わった。そして、
「晴人国王様、さっきの動きと全く変わりました。自分でも分かります。
「うん。俺もそう思ったよ。」
そこへソフィーナが見学に来た。
「ソフィーナ、すまないけど、ヴァイオレットさんの刀を借りて、自分の好きなように、自分の表現したいように、
「ええーっ、私がですか?」
「うん。」
「下手でもいいですか?」
「うん、いいよ。」
「先ずは、何も見ないことには始まらないから、ソフィーナ、そこに座って俺の剣舞を見て欲しい。」
ソフィーナは一言もしゃべらずに、晴人の動作一つひとつを凝視していた。
「ソフィーナ、何となく感覚はつかめたかい?」
「晴人さん、とっても美しかったです。流れるような動きが。じゃあ、やってみますね。」
そう言うと、ソフィーナは剣舞を始めた。
「ほう。こりゃあ、美しいわ。」
ソフィーナは、幼いころからフェンシングとバレエを習っていただけあって、川の流れるようななめらかな動きを見せた。そして、必然的に
「パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ。」
「ソフィーナ、さすが『免許皆伝』ですね。俺の剣舞よりずっと美しいです。」
「晴人さん、オーバーに褒めないで下さいよ。照れますよ。」
「ソフィーナ様、すごく綺麗でした。とてもいい勉強になりましたわ。」
「晴人さん、ヴァイオレットちゃんに剣舞を教えていたの。」
「うん。剣舞には抜刀術(居合)の遠心力の感覚が詰まっているからね。」
「なるほど、そういえば、私も無意識のうちに、刀が動きたい方へ動かしていましたわ。」
「ソフィーナ様、体の力を抜いて剣舞を舞うように刀が動きたいように動かせば居合もできるようになるかもしれませんね。」
「うん。ヴァイオレットちゃんの言う通りだわ。」
「さあ、ヴァイオレットさん、もう一度練習です。舞ってください。」
「はい、舞ってみせます。」
すると、最初はぎこちなかったものの、だんだんと無駄な力が抜け、流れるような舞をおどるようになった。そして、刀を抜くと、体を右に回転した方向へ流れるように刀を振っていった。今度は、体を左に回転した方向へ流れるように刀を振っていった。刀を下から上に振り上げる動作も見事であった。晴人も頷きながらその舞を見つめていた。
「パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ。」
「ヴァイオレットさん、完成です。」
「ええーっ。まだ、何も斬っていませんけど。」
「ヴァイオレットさん、庭園のあの石柱のところへ行きましょう。」
晴人とソフィーナ、ヴァイオレットは石柱の場所へ歩いていった。
「さあ、やりなさい。」
「はい。」
ヴァイオレットは腰を落とし、深くかがめると、刀の柄を手に取った瞬間、
「スッ。」
「スーッ、バターン!」
ヴァイオレット本人は、突っ立ったまま
「イヤッター!できたー!バンザーイ!バンザーイ!バンザーイ!」
「今まであなたは本当によく頑張りました。頑張って、頑張って、頑張り抜きましたね。これで、薩摩示現流の抜刀術の免許皆伝です。後で、免許皆伝書をお渡しいたします。」
そういって、頭を撫でた。
すると、
「ウワァァァーン!ウワァァァーン!ウワァァァーン!ウワァァァーン!」
ソフィーナは、いつも自分が晴人からされるように背中をゆっくり、ゆっくりさすりながら頭を
朝食後、ヴァイオレットが国王室に訪れた。免許皆伝書をもらうためである。
「ヴァイオレットさん、ソファーに腰を掛けて。」
「はい。」
すると晴人付のメイドのエミリーが紅茶とキリマンジャロを運んできた。
「どうぞ。お飲み物でございます。」
「エミリー、お腹空いただろう?朝食を食べておいで。」
「はい、ありがとうございます。行って参ります。」
「はい、これは『薩摩示現流の抜刀術』の免許皆伝書です。私の直筆です。どうぞ受け取ってください。」
「ハハーッ。有難く頂戴いたします。長い間、か細い私をここまでたくましく育て上げて下さった晴人国王様に心から感謝いたします。」
「ヴァイオレットさん、もう一つあなたに話したいことがあります。」
「私の妹になってください。」
「えっ、今、何とおっしゃいましたか?」
「ヴァイオレットさん、私の妹になってください。」
「あなたには、以前の暗殺事件でご家族を亡くしました。言葉にはできぬ傷を負い、言葉にはできぬ大きな穴があなたの心にはあります。私をあなたの兄にして下さいませんか?私がこれからどんなことがあっても妹であるあなたを守り抜きます。どうか私をあなたの兄にしてください。私がずっと兄としてあなたを支えます。」
「晴人公王陛下様、本当にいいのでしょうか?」
「アハハ、私が国王ですよ。私が決めるのです。皆、この申し出のことは知っています。だから安心してください。今日から、ここがあなたの家になります。」
「私の命を二度も救っていただいた上に、兄上にまでなって下さるのですね。お申し出、慎んでお受けいたします。」
ヴァイオレットの「ロンバルドの青い宝石」の瞳から涙がとめどなく流れていた。
それからしばらくして、晴人がヴァイオレットに声を掛けた。
「ヴァイオレットさん、今からは、私のことをお兄さんと呼んでください。私はあなたを呼び捨てにすることになりますが。いいですね。」
「はい、お兄様、いえ、お兄さん。」
「俺、妹が欲しかったんだ。今度はヴァイオレットを地球に連れて行ってやるよ。」
「お兄さん、ぜひ連れて行ってください。」
それから、晴人は、ヴァイオレットを連れてセオドア上皇とエリス上皇后に正式な報告へ行った。二人ともヴァイオレットを抱きしめて喜んで下さった。それから、城中の全てを回り、皆に報告した。皆、あたたかい拍手で歓迎してくれた。ところが、
肝心なソフィーナが見つからなかった。すると、看護婦が晴人にすぐ医務室に来て欲しいと連絡があった。ヴァイオレットを連れて医務室に向かうと、セオドア上皇とエリス上皇后も既に来ていた。
「おめでとうございます。ご
と主治医が皆へ伝えた。セオドア上皇とエリス上皇后は泣いて喜んだ。晴人もまた涙が止まらなかった。ソフィーナの右手を両手で握りしめ、
「ソフィーナ、赤ちゃんができたよ。俺とソフィーナの赤ちゃんだよ。グスン。」
「お姉様、ご懐妊おめでとうございます。」
ヴァイオレットも泣きながら声を掛けた。
「晴人さん、嬉しいです。今まで生きてきた中ていちばん嬉しいです。」
晴人は、ソフィーナの頭をゆっくりと
その3か月後、赤ちゃんは、双子であることが判明した。主治医が、
「心臓の元気な音が2つ聴こえます。双子であることは間違いありません。」
晴人は、ピョンピョン飛び跳ねながら喜んだ。それを見ていたソフィーナは大笑いしていた。
それから100日後、ついに元気な双子の赤ちゃんが誕生した。
「オギャー!オギャー!オギャー!オギャー!オギャー!オギャー!」
「オギャー!オギャー!オギャー!オギャー!オギャー!オギャー!」
城中は歓喜に沸いた。男の子と女の子だった。男の子は、晴人が「
そして、1年半が過ぎた。
ヴァイオレットも一緒に連れて、日本の実家に1週間ほど滞在した。晴人の父、彰と妻の百合子も大喜びで孫を出迎えた。ヴァイオレットも晴人の両親から、「私たち夫婦は、あなたの両親ですからね。」と声を掛けられ、泣いた。とても思い出に残る心豊かなひと時と日本の様々な名所旧跡やアトラクションへ行ったとても楽しい旅行であった。
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