第38話 天下無双薩摩示現流を伝授する

「おい、モンスターズの中でいちばん目がいい晴人オジロワシよ、お前には見えたのか?」

「俺は、千分の一秒まで刀の動きが見えるんだが、見えなかったぞ。」

「なんてこった!」

 この会話を聴いていたモンスターズからさらにどよめきが起きた。


「皆に、残り2か月でこれを習得してもらう。俺の最終奥義だ。この最終奥義のポイントは、地面を踏み込む力が大切になる。すまんが、晴人ゴールデンゴーレム、俺の前に来てくれ。」


「イエッ・サー!」


「獣人化を解いてくれ。」


「イエッ・サー!」


「皆、見ていてくれ。地面を踏み込む力を刀ではなく俺の腕に伝える。」


「ダン。」


「ドーン!」


「マジカァァァ!」

「オオー!5mの巨体の晴人ゴールデンゴーレムを5m以上吹き飛ばしたぞ!」


 晴人は、晴人ゴールデンゴーレムのところへ駆け寄ると、完全治療魔法で晴人ゴールデンゴーレムの割れた胸を治してやった。


「晴人ゴーレム、すまなかったな。ごめんな。」


「いいえ、我がアルジ、すごくいい思い出になりました。」


「そう言ってくれると助かるよ。」


 再び晴人は、モンスターズ全員に大声で説明した。

「地面を踏み込む力を『震脚シンキャク』という。これで地面を瞬間的に踏み込み、その力を上半身に送り込んでいく。さあ、整列して。俺のように腰を沈める。そして、一気に地面を踏み込む。」


「ドッスン!」

「ビヨーン!」

「ズゴーン!」


 ほとんどのモンスターズたちは、そのまま地面に穴を開けたり、地面の岩を割ったり、上空にジャンプする者たちが現れた。1日練習しても全員がそんな調子だった。


「ギャハハハハ!ギャハハハハ!ギャハハハハ!ギャハハハハ!」


「我がアルジ、皆、必死なんです。笑わないで下さい。」

 と晴人フェンリルにたしなめられた。


「すまん、すまん、晴人フェンリル。お前の言う通りだ。ごめんなさい。謝るよ。」


「薩摩示現流などの抜刀術は、人間の体重と関係があるかもな。皆、集まってくれないか!この抜刀術の練習は止める。人間の体重に合わせた技だからだ。その代わりに白兵戦で実践練習をする。」


「どんな実戦練習ですか?」


「まず、第1戦目は、第一隊と第二隊と第三隊の戦闘をする。それぞれの軍が約4万3千名になる。土魔法や水魔法、火魔法、風魔法、雷魔法、レーザービーム魔法の使用は禁止とする。転移や透明化魔法や空を飛ぶ魔法も禁止にする。戦いで使用するのは木刀だけでの示現流のみとする。ルールを守れなかった軍隊は、即失格だ。第四隊から第七隊は上空から全体の動きを見て勉強すること。これは敵陣の旗取り合戦だ。第一隊は白い鉢巻きをして、小高い丘に長い白旗を突き刺しておく。第二隊は赤い鉢巻きをして、小高い丘に長い赤旗を突き刺しておく。第三隊は青い鉢巻きをして、小高い丘に長い青旗を突き刺しておく。最後に勝った部隊は、士気を高めるために必ず勝ちドキの声を上げること。では、拡大地図を見てくれ。この丘とこの丘とこの丘だ。どの丘にするか、じゃんけんで決めてくれ。」


「よし、自分たちの陣地が決まったな。要するに、旗取り合戦だからな。これがなかなか面白いぞ。相手のスキを狙って、旗を全て取った部隊の勝ちだ。作戦がとても大事になるのだぞ。全員で攻めたら、旗はがら空きになって敵に奪われるからな。しかも、敵は2部隊いるわけだ。空に上がって敵の動きが見えないから難しいぞ。この勝負は木刀を使ってくれ。木刀で斬られたら、体は元気でも負けだ。斬られたものはこの広場に集まってくれ。もし、木刀が折れたら、森の太い枝を使うこと。第4班から第7班はすごく勉強になるから、3つの部隊の動きを上空からよく研究するんだぞ。では、各陣地へ転移してくれ。」


「スッ。」

「スッ。」

「スッ。」



「それでは、初め!」


 30分ほどは、各部隊とも役割分担や作戦などで動きがなかったものの、30分を過ぎると、各部隊がじりじりと動き出した。ソフィーナと『天』からユニバースソードを授かったヴァイオレットも、上空から各部隊の動きを見ながら何やら話し合っていた。戦場は国家規模以上の広さをもつ『天の使徒の森』である。あまりにも広すぎるので、晴人は3つの丘の位置を1辺が20kmの正三角形にした。


 どの部隊も、旗を守る守備隊を配置しているが、最も守備隊を強固にしたのは、晴人フェンリル率いる第二隊であった。そして、最も斥候セッコウが多かったのも

晴人フェンリル率いる第二隊であった。晴人フェンリルの戦術は、いち早く敵の動きと人数をレーダー探知機腕時計で把握し、その後ろに控えている攻撃部隊に念話を送り、晴人ブラックドラゴンが迂回して本陣を攻めて来るのを察知すると、本部に念話を入れ、超高速移動魔法で仲間を呼び出し、合流した上で、一直線に晴人ブラックドラゴンの本陣に襲い掛かり、丘に突き刺さった青い旗を奪い取った。その時点で、第三軍は負けとなり、『天の使徒の森』の広場に姿を現した。


 一方、晴人フェンリルの頭脳の高さを知る第一隊の晴人タイガーは、5千名の守備隊を残し、晴人フェンリルの斥候を斬り捨て、3万8千名の部隊で一気に晴人フェンリルの旗に襲い掛かり、大乱戦となった。晴人フェンリルが晴人ブラックドラゴンの本陣に襲い掛かった部隊にすぐ戻るように指示を出したが、間に合わず、晴人フェンリルは、赤い旗と青い旗を晴人タイガーに差し出した。晴人タイガーは大声で勝ちドキを上げた。


「勝利の勝ちドキだ!エイ!エイ!オー!」


「エイ!エイ!オー!」

「エイ!エイ!オー!」

「エイ!エイ!オー!」


 全員が『天の使徒の森』の広場に戻ってきたところで、全員で反省会を開いた。晴人は、敢えて黙って聴いていた。

「迂回して、敵軍の虚を突いた作戦は失敗でした。斥候セッコウを増やして、敵軍の動きを察知する兵士を増やすべきでした。」

 と晴人ブラックドラゴンは反省を述べた。その反省にうなずくものは少なくなかった。


「作戦自体は悪くはなかったですが、まさかあの晴人タイガーの部隊が一気に攻めてくることは想定していませんでした。晴人タイガーの性格からして、最初から一気に多くの部隊を送り込んでくるものと思い込んだのが敗因です。」

 と晴人フェンリルは敗因を述べた。


「晴人フェンリルは頭脳が高いです。おそらく私の性格を見抜き、作戦を立ててくるだろうと思いました。私の軍と最初に衝突すると兵士の消耗が激しいので、晴人フェンリルの部隊は、晴人ブラックドラゴンの本陣を狙うだろうと予想しました。晴人フェンリルの部隊が青旗を取った時点で、一気に晴人フェンリルの丘に攻めたのが良かったです。私は気が短いので、じっと我慢して、敵と敵が衝突した時点で一気に攻めたのが勝因です。」

 と晴人タイガーは勝因を述べた。


 他に様々な意見が出された。そして、全員が感じ取ったことは、「全体の動きをどれだけ早く察知するか」という意見にまとまった。また、実際の戦争では、上空を飛べるため、上空から敵の全体の動きを把握したうえで、人数割りを決め、連携を密に図る必要性があるという貴重な意見も出された。



「よし、次は、第四部隊と第五部隊と第六部隊の旗取り合戦だ。」


 その日以来、ずっと実戦形式による白兵戦が続いた。反省会においても、晴人の出る幕はなかった。それほど質の高い反省や意見が出されたからだ。加えて、第一隊から第七隊を併せて、それを4つの部隊に分ける戦闘訓練も行われた。晴人は、反省会も含め、実践形態も自分たちで分けて戦うように指示をしただけであった。それほど

各部隊の戦略は高度なものになっていった。



 その間、ソフィーナとヴァイオレットは何をしていたかというと、ソフィーナは抜刀術の練習にずっぽりとハマっていた。また、ヴァイオレットは、細い下半身を鍛えるために、スクワットや重い石を運ぶ練習に精を出していた。


「ソフィーナ、フェンシングの体重移動は、ステップを踏んで前に出るだろう、それをね、足を動かさずに、頭の中でイメージして刀の動きたいように動かしてごらん。ソフィーナが刀を動かすんじゃなくて、刀の動きたい方に刀を振るんだ。」

 そう晴人がアドバイスすると、ソフィーナは居合の極意をいとも簡単にマスターしたのだった。


「スッ。」


「スッ。」


「スッ。」


「ヤッター!すごいよ、ソフィーナ!完成だよ!もう完成しているんだよ!」


「ええっ、これでいいんですか?」


「うん。完璧。じゃあね、向こうにある1mの石を斬ってみようか。」


「ソフィーナ、それは木刀だから、ユニバースソードの刀で斬るんだよ。」


「はい。」


「スッ。」


「パッ。バタン。」


「うわーい!斬れました!晴人さん、見て下さい、真っ二つです。ヤッター!」


「こら、こら、こら、どさくさに紛れて俺に抱き着いてくるな!」


「ソフィーナ、お前、天才だな。マジに天才だ。」


「キャハ、晴人さんに『天才』だと言われちゃいましたわ、ヤッター!」


「こら、こら、こら、どさくさに紛れて大きな胸を押し付けるんじゃない!でも、本当に宇宙最強の女性になったな。おめでとう、ソフィーナ。」

 晴人はそう言うと、抱き着いたままのソフィーナを何度もグルグル回した。


「晴人さん、これで父上様と母上様と妹と城の皆を守れますわね。」


「うん。絶対に守れるよ。あっ、そうだ、ソフィーナ、ヴァイオレットさんは、このままじゃ筋膜炎を起こしちゃうよ。」


「筋膜炎ですか?」


「そう。ヴァイオレットさん、ちょっと来てくれるかい。」


「はい。」


「ベンチに座ってごらん。ズボンを太ももも上まで上げてごらん。」


「ソフィーナ、足首とふくらはぎと太ももが真っ赤になっているでしょう?この運動をやり続けると、筋肉をおおっている筋膜の病気になるんだ。」


「俺はヴァイオレットさんの脚を触るわけにはいかないから、ソフィーナ、両手で足首を触って、完全治療魔法をかけてあげて。」


「はい、晴人さん。」

 すると真っ赤にしていた足首がもとの白い肌に戻っていった。晴人は、ふくらはぎと太ももにも完全治療魔法をソフィーナにかけさせた。すると、ふくらはぎと太ももが白い肌に戻っていった。


「晴人さん、触ったときにすごく熱かったのですが、今は熱が冷めています。」


「うん。これで、治ったんだよ。ソフィーナ、直ぐに城に転移して、ヴァイオレットさんのお尻と腰と背中と腕の筋肉も治してあげて。」


「はい、分かりました。」


「ヴァイオレットちゃん、直ぐにお城に戻りましょう。」


「はい。」




 その半月後、全ての訓練が終わった。モンスターズの全員の顔つきが変わった。自信に満ちアフれた鋭い顔つきになったのだ。6カ月目の終了の夜は、ソフィーナとヴァイオレットさんも入れてのバーベキュー大会となった。あれほどモンスターズを怖がっていたヴァイオレットさんだったが、今では肩を組んでお酒を飲むほど親しくなっていた。ヴァイオレットさんからは、父上と母上のかたき討ちをする覚悟がニジみあふれていた。






















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